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農夫のおじさん

完全に日差しが上り、心地よい風が吹く中、自宅の庭にテーブルセットを置き優雅にお茶を飲んでいる男がいた。


コウという男である。


コウにとってお茶に対する思い入れは相当強く、生活の半分以上を占めていると言っても過言ではない。


そして何よりも今の環境でお茶を飲める事が大変気に入っている。


どういう事かというと、まず回りの景色だ。


コウが住んでいる場所はかなりの山奥でほとんど人はいない環境だ。


そして山に囲まれている為、空気はきれいだし、近くに川も流れている、その川も凄く澄んでいて見ているだけでも飽きない。


更に自宅の庭には、少量だが茶葉やハーブなども育てている。


いうなれば大自然と同化したような錯覚になるのだ。


それほどまでに今の環境を凄く気に入っているのである。


「コウ様、今日は緑茶を入れましたよ!、なかなかよく出来たと思いますよ!」


メイはコウの反応を伺うように言った。


「ほう、それは楽しみだ、でも何で今日は緑茶なんだい?」


「それはあれですよ!、ラギおじさんが好きだからですよ」


「ああ、そういえばそうだったか!、ラギさんも緑茶好きだったな」


そういうやり取りをしながらゆっくり過ごしていると玄関の方から野太い声が聞こえてきた。


「すんませーん!、ラギですけど、コウ様、いらっしゃいますか?」


「あ、ラギおじさんの声ですよ!、私、ちょっと行って来ますね!」


メイはそう言うと玄関の方に向かって歩いて行った。


「ラギおじさん!、こんにちは!」


「やあ、メイちゃん、久し振りだね、元気だったかい?」


「そんなに久し振りじゃあないですよ!、一週間前に会ったばっかりじゃないですか!」


「いやはやそうだったかな!、何分、年なんですぐ忘れてしまうわい、それよりもほら!、うちの畑で育った作物をお裾分けじゃ」


ラギはそう言うとかごいっぱいに入った作物をメイに手渡した。


「あ、いつもありがとうございます!、凄く嬉しいです!、コウ様も喜びますよ!、さあ、そんなとこにいないで早く上がって下さい」


「では、失礼するよ!」



ラギはそう言うとメイの案内でコウのいる場所へ向かって行った。


「コウ様、どうも、一週間ぶりです!」


「ようこそ!、ラギさん!、ゆっくりしていって下さい、今日はラギさんの好きな緑茶も用意してますんで!」


コウはラギが喜ぶであろうと予想しながら言った。


「本当ですか、それはそれは有り難い限りですな」


ラギは笑顔で答えた。



このラギという男は黒髪で黒目、髪は肩ぐらいまで伸ばしていてそれを後ろでまとめている。そして外見は農作業をしているだけあって身の丈は相当でかく、肩幅も広く、肌も浅黒い。


一見するとたじろいてしまう外見をしている。


だが見た目に反して争い事は好まず、心の優しい人物だ。



「ラギおじさんのお茶も用意できましたよ!」


「おう、メイちゃんすまないね、じゃあ早速いただこうかね!」


ラギはそう言うと早くお茶が飲みたい!、と言わんばかりに言った。


「メイちゃんも一緒に飲まないのかい?」


「私は先ほどラギおじさんから頂いた作物をしまって、少し整理してからにしますね!」


メイはそう言うと家の中に入って行った。



コウはタバコに火をつけて、緑茶を一口飲んだ後切り出した。


「ラギさん、最近調子はどうですか?」


「まあ、ぼちぼちやってますよ!、何事もぼちぼちが一番ですよ!」


「そうですよね!、こういう何気ない日常の時間が一番幸せですよ!」


コウはこのラギという男との会話が大変好きだ。


何故なら会話をしていても面白いし話題が尽きない、そして相槌も絶妙だし、基本的には聞き手になってくれる。


年齢を重ねてきている分、常識もあるし、おっとりとした性格も相まって話していても全然ストレスを感じない、むしろ心地よいのだ。


コウにとってこういうストレスのない会話のやり取りは非常に重要だ。


「そういえばラギさん、また新たな作物を開発したらしいですね?」


「ええ、実はそうなんですよ!、ちょっと最近果物に力を入れてましてね!、まあ、偶然出来たんで是非とも召し上がって下さい。


今日、持ってきたんで!、まだ名前は決め手ないんで、もし良ければコウ様の方で決め手貰いたいんですが?」


ラギは是非ともお願いしますという表情をしながらコウに言った。


「え、そうなんですか、まあ、それは構いませんけど、でもせっかくラギさんが育て上げた物なんですからラギさんが名付けた方がいいんじゃないですか?」


「コウ様に名付けて貰った方が全然!私よりもいい名前になりますよ!、それに私がコウ様に付けて貰いたいんですよ!」


ラギは笑顔でそう言った。


「そこまで仰有って下さるのであれば名前を付けさせてもらいますよ!」


その後、コウはメイに頼んで例の果物を切り分けて持ってきてもらい三人で一緒に食べる事になった。



「はい!、切り分けてきましたよ!」


メイはそう言うとコウとラギの前にその果物を置いた。


形は手のひらサイズで丸い、色はグリーンだ。


色や形の見た目からは全く味の予想が出来ない。


だが香りを嗅いで見ると甘い匂いがしてくる、さらに切り分けたらその香りがより強く感じた。


「じゃあラギさん、頂いてみますね!」


「どうぞ、どうぞ、是非とも正直な感想を教えて下さい」


そしてコウは果物を手に取り口に入れた。


口に入れた瞬間に爽やかな甘さとみずみずしい果肉の食感、そしてほのかに残るすっきり感、まあ、端的に言うと物凄く旨い、まあ、お茶のお供と言われれば微妙だが果物としては凄い完成度だと思う。


多分、誰が食べても美味しい!、と言うレベルだと思う。




そして三人であれやこれやと話ながらまだ名前のない果物を楽しんで食べたのであった。


結局、話ながら食べていただけで果物の名前は決まらなかったのであった。



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