ツルの強制恩返し
むかしむかし、夜中に猟銃を持ったおじいさんが麻袋を埋めていると、罠に掛かったツルを見つけました。
「なんだよビビらせやがって……この野郎、助けてやるが恩は返すなよ!!」
ツルを罠から助け出すと、おじいさんはツルを掴んで家へと戻りました。ツルを空き部屋に投げ込み「けっして外を覗くなよ!?」と扉を閉めました。おじいさんが死体を埋めていると思ったツルは、間違いなく自分も殺されると思い、部屋の片隅にあった機織り機で織物を始めました。役に立つと思われれば殺されずに済むと考えたのです。
朝になりおじいさんが扉を開け中に食事を運ぶと、そこには世にも美しい一枚の織物が置いてありました。
「この野郎! 恩は返すなと言っただろうが!!」
おじいさんは織物を蹴飛ばし、織物を作るために毛を使い地肌が見えてしまった部分に緑色の液体をバシャバシャと塗りたくりました。
そして不恰好なおにぎりを幾つか置き、おじいさんは荒々しく扉を閉めました。外を覗くなよ、と念を押して……。
織物が気に入らなかったのかと思ったツルはまたしても一枚の織物を作り始めました。完成する頃にはツルの羽は無くなり殆ど残っておりませんでした。
織物が完成すると、扉の外からドタバタと言う足音と、二人が酷く言い合う声が聞こえてきました。ツルはその音が気になり、こっそりと覗いてしまいました。
「居たぞ!! そのツルをよこしやがれ!!」
酒臭い老人がツルを一目見るなり扉を開け放ち、斧を持ってツルに襲い掛かりました!
「止めねぇか!! ツルの恩返しなんぞ夢物語だ! そいつはただの食料だ!!」
「なんだとう?」
荒れ狂う老人を必死でおじいさんが説得しています。しかし老人は部屋の隅に置かれた美しい織物を見て笑顔になりました。
「あるじゃねぇか!! さあ、俺の所で一生恩を返させてやるぞ!!」
老人はツルの首を掴み、織物を抱えました。
「止めろ!!」
おじいさんは猟銃を放ち老人を殺してしまいました。ツルは血の気が引き、慌てて逃げましたが羽が無くて上手く飛べません。その後ろからゆっくりとおじいさんが近付きます。
「お願いします殺さないで! 女に化けて貴方様と添い遂げますから!!」
おじいさんは緑色の液体をツルにぶちまけ、こう言い放ちました。
「二度と人里へ下りてくるな!!」
恐れおののいたツルはバタバタと不恰好な飛び方で山へと帰りました。そしておじいさんは老人を麻袋へと詰め込み、山へと向かい穴を掘りました。
穴を掘ると昨日埋めた麻袋が出て来ました。袋が破けて穴からツルの細い足が見えていました。その隣に老人が入った麻袋を投げ入れ再び穴を埋めました。
「帰ったら織物を燃やさねぇとな…………」
百金に値する鶴の織物。
お金欲しさに恩返しに溺れた老人の罠がひしめく山で、おじいさんは無欲に生き続けました。
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