3登目
「諸君! 我々は今、山の半分を超えた!」
「おー、やっと半分か。 結構いい眺めだなぁ」
「これは頂上が楽しみですねぇ」
「ナイブアツリョク ヘンカ。 チョウセイ シマス」
あれから特に大きな襲撃もなく、6合目に辿り着いた一行。
丁度良い大きさの岩盤が飛び出しているところがあったので、軽い食事を取りながら休憩を取っていた。
ここから更に崖は険しさを増し、90度を超える角度になっている。
「よし、休憩終了! ゴミは各自持っていくように! それが登山家としてのマナーである! みな、弁えよ!」
「みんなー、忘れ物は無いな―?」
「では、ここからは私が先頭ですね」
「ココヨリ キョウフウイキ 二 トツニュウ シマス。 カゼタイセイ ヲ キョウカ シマス」
ミイが先頭になって登り始め、残りもそれに続く。
急勾配の崖、強風、低くなる気温と気圧。
さすがの一行でも、自然の驚異に対しても無敵という訳にはいかない。
さらにここまで登ってきた疲労と、ここから落ちたら確実に死ぬであろう緊張感。
そんな張りつめていた糸が途切れたのは8合目に差し掛かったあたりだった。
「あっ・・!」
アレクの腕が崖を捉え損ねてしまう。
そのまま宙に、崖から離れてしまう。
「掴まれ、アレク!!」
間一髪のところでレストがアレクの腕を掴む。
「あぶねぇ、助かったよレスト!」
「あと一歩なのだ、こんなところでの退出は許さぬ」
「お二人とも大丈夫ですか~?」
「なあレスト。こういう時、異世界には気合を入れるための特別な掛け声があるらしいな」
「ああ、我も聞いたことがある。 我々と同じ登山家らしいな」
「じゃあ、やってみないか?」
「ふふ、これも一興か・・・よいだろう。 では我からゆくぞ!」
「ファイトォォォォォォォ!!!!!」
「ファイヤー――――――――ー!!」
そのままグイっと引き上げられるアレクの体。
そして元の位置にまで戻り、お互いの顔を申し訳なさそうに見つめる。
「えーっと、なんかごめんな?」
「・・うむ、まぁ、あれだ」
二人は勇者と魔王と言っても、同じ世界に存在していたわけではない。
当然、登山以外の趣味についても全くのノータッチである。
改めて意思疎通は難しいと感じたのだった。
「遊んでないで先行きますよー?」
再び崖を登りだす一行。
道中、ワイバーンも現れたが、ガーゴイル同様にあしらわれてしまった。
間もなく9合目、最後の舞台へとコマを進める。