92 アリサとカルーファ侯爵との和解
帝都カリスクまで後3日程の所まで来たシフォン達だが
帝都に近づくにつれて落ち着きの無くなって来た人が一人居る。
カルーファ侯爵の一人娘アリサだ。
「白銀の魔女様やっぱり私父に会うのは、止そうかと思うのですが」
「そんな心配しなくても大丈夫よ。案ずるより産むが易しって言うでしょ」
「どういう意味ですか?」
「心配して居るよりも実際行動にしてみると意外と簡単に出来たりする物だと言う事よ」
「そうでしょうか?でも私はもう2年以上帰って居ないし
色んな物を壊して悪態ついて出て来てしまったのに、それを今更・・」
「だけれどこの馬車もちゃんと直され今まで家に保存してあったでしょ。
それに家族の絵だって一番目立つ所に飾って有った。本当は、貴女が帰って来るのをずっと待ってるのよ」
「・・・」
それから暫く黙り込んでしまったがやはり家が近づくと共にその不安が生まれ出て来るようで
時折落ち着きが無くなる事があった。
そして当日カルーファ侯爵家の門番に着いた事を伝えると直ぐに中へ案内され
玄関に着くと既にカルーファ侯爵がその場に出ていた。
「勇者殿、白銀の魔女良くやってくれた。これで国王の目指す共同体への道がまた一歩前へ進んだ事になる
。嬉しい事だ。」
そう言って両手を広げシフォン達を迎え入れた。
まずシフォン達が馬車を下りた後暫くしてからアリサがその馬車から降りると
カルーファ侯爵の動きが止まった。
「アリサ・・・」
その顔には喜びとも驚きともとれる顔があった。
直ぐにシフォンがカルーファ侯爵の元に行き
「カルーファ侯爵アリサお嬢様をお連れしました。彼女は自分のやった事の大きさをきちんと把握し反省もして居ります。しかしまだ以前の蟠りが全て除けた分けでは無いようです。宜しければお二人でお話なさっては如何でしょうか?」
「白銀の魔女、余計な事を・・仕方ない」
そしてカルーファ侯爵がアリサの方へ向きなおすと
「アリサこちらへ来なさい」
その言葉に従ってアリサがカルーファ侯爵の元へ行くと
カルーファ侯爵がアリサの顔を覗き込み
「アリサ、良い顔つきになった。苦労もしたろう。」
それだけ言うと彼女を抱きしめた。
その夜報告は翌日にする事になり
カルーファ侯爵とアリサ親子が夜遅くまで話をして居た様だった。
翌朝シフォン達が食事を終え部屋へ戻ろうとした所頃へ執事長のセルビスがとてもにこやかな顔で
シフォン達の元へやって来た。
「勇者様、白銀の魔女様、お嬢様をお連れ頂き有難う御座います。昨夜は、主も大変ご機嫌宜しく
ここ数年見せた事も無い様な笑顔をお見せになられ、私共も大変喜んでおります。」
「それは良かった。それでアリサさんのその後の様子は、如何ですか?」
「お嬢様も来た時と比べ大分緊張感も和らぎ今では大分落ち着いて来られた様で元の様に主とお話しされ今はご自分の部屋でお休みされております。」
「カルーファ侯爵と元の様に過ごせると良いですね。」
その後2日程侯爵家で過ごしナリエス王国へ帰る当日その準備をして居るシフォン達の元へアリサがやって来た。
「白銀の魔女さま、この度は色々とお気遣い有難うございました。」
「アリサさんは侯爵様と住まわれる事にしたんですか?」
「はい。最初は、一時的に帰ってその後又冒険者を続けようとも考えたのですが父とも
話し合った結果私が家に戻る事になりました。ちょっとだけ我儘を聞いて貰いましたが」
そう言って笑顔を見せてくれた。
親子の間でどの様な話し合いが行なわれたか分からないが
シフォンは元の鞘に戻った様でほっとしていた。
侯爵家を出る時そのカルーファ侯爵も見送りに出て来たその顔が
今まで見た事も無い様な穏やかなカルーファ侯爵の顔を見てシフォンは、
「変われば変わる物なんだね。」
「余程嬉しかったんだろう。これで無理難題を押し付けて来なくなれば良いんだけどな。」
勇者は、苦笑いをしながら話したが侯爵の性格を考えると又何か無理な事を言い付けて来るんじゃ無いかと心配していた。
馬車はそのままシフォン達が譲り受けそのまま乗って帰る事になった。
帰りは、以前同様マチスタ経由で帰る事になるが既に何度か通った道なので
後どの位行けば何処へ行く位の事は分かって居た。
そして後2日程でマスタチアに着くころレターリーフの返事が来た。
見ると以前勇者がカルーファ侯爵に送ったレターリーフだった。
その裏面には、アリサから
『此度皆様のお陰で父と仲直りする事が出来ました。何とお礼を言って良いか分かりません。
本当に有難う御座いました。又会える日を楽しみにしております。』
レターリーフの返事の為長文は書けないがアリサの気持ちが伝わって来た気がする。
シフォン達もその嬉しい気持ちを胸にそのレターリーフを大事に懐にしまった。
そして又会える日を楽しみに。
その会える日が直ぐ目の前に来ているとも知らずにナリエスへ向かうシフォン達だった。




