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180 レアの命 


---------勇者ナツト---------------



「うあっあっあっ・・たっ高い!ひゃゃゃゃ~~!なっナツトさん!放さないで下さいよぉぉ~。」


「心配ない。怖かったら目を瞑ってても良いんだぞ。」


「いや、おっ俺だっておとおとおとととこですからこの位だっ大丈夫ぶぶでしゅうひゃゃゃゃ~~。」


「いや大丈夫そうに見えないが・・・」



今ボクはシトラルからフェスタから応援要請が入ったと聞き浄化の森を目指し

シフォンの命の恩人と云うレイを連れて飛んで居る最中だ。


フライは相手の身体を包む様に抱き抱えればその作用の範囲に入る為

レイを軽く抱き抱えてその作用内に入れて居るのだがやはり初めて支え無しに空を飛ぶ事は怖いらしく

この様な状態になって居る。


初めて飛ぶ事になった彼には申し訳ないが浄化の森までの数十分間我慢してもらうしかない。

その彼を見て居て一つ気になっのが

彼の腰に下げて居る筒状の布製の袋に包まれた細身の剣が僕の目を引いてならない。

布に包まれて居る為その外観は良く判らないがこの世界で普通使われて居る物とは違い様に思えた。

おそらくあれは・・・

飛びながらその様な事を考えて居ると時々風に煽られ


「うひゃゃぁぁ~~。おっ落ちちちち。」


とっ言う具合に先程から叫び声が途絶える事無く響き渡って居るレイには

申し訳なく思いつつ飛んで居るとようやく目の前に浄化の森が見えて来た。


事前にミラエスに居場所がわかる様頼んでおいた所、

浄化の森入り口の少し先に不自然に細く高く聳え立った樹が目に入って来た。


『あそこだな。』


その樹の下へ直接レイを抱き抱えたまま降り立つとそこには

泣き叫ぶフェスタとミラエスの治療を受けるボイス達がそこに横たわって居た。


「フェスタ。どうした?一体何が有った?」


泣きじゃくるフェスタに近寄り屈みこみ動く事も出来ずに横たわるレアの様子を見ながら

静かに聞くとその涙を拭いながら彼女が答え始めた。


「勇者様。レアがレアが死んじゃう!お願い助けて。」


「フェスタ!落ち着いてくれ。一体何が有ったんだ?」


勇者が言葉を強め聞き直すとフェスタは少し落ち着くを取り戻し

レアから聞いたと云う話を始めてくれた。


そのフェスタの話によると自分達を置いて先へ行ったレアが

遅れてナリエス方面へ移動して居た魔物を倒しさらに先へ進もうとした時

突然フェスタに化けた悪魔のエリアに声を掛けられた

まさかエリアだとは思わず油断して近づいた所へフェスタに化けたエリアに刺され

隠れて居た魔族達に魔法攻撃を受けた言う事だった。


悪魔は内に豊富な魔力を持つ故少々の傷は瞬時に治るが

逆に一度に大きな傷を受けると受肉した身体の許容量を一気に超える。

しかも悪魔は根本的な構造が人族とは違う為竜人であろうとも治療が出来ない

本来であれば魔力を身体全体に覆いその様な傷を負う事は殆ど無いが

今回の様にフェスタ本人だと誤認させ油断したレアが魔力を弱めた時に

その傷を負ったので有ろう事は想像に難しく無かった。


その傷の為数時間程時間は伸ばせても最終的には救う事は出来ないだろうとミラエスに云われたらしい。


「そうか・・・」


勇者は言葉を失った。

フェスタは育ての親と言うべき魔族のラモルを幼い時失った。

そして今又友と言うべきレアを失おうとして居る。

この少女にとってどれ程辛い事か。

勇者はシフォンが死んだとした手紙を受け取った時の自分の事を思い出し掛ける言葉が見付からなかった。


「ナツトさん俺一人で追います。だからレアを連れてシトラルの所まで

連れて行って下さい。」


振り向くとレイが袋に包まれたままの剣を片手にじっとこちらを見つめ立って居た。


「僕の場合転移が出来ないから一人しか運べない。出来ればシフォンとミナトを呼んでフェスタとレア2人を運んだ方が良いだろう。ミラエス」


ミラエスの方を見ると治療を終え丁度こちらへ歩いて来る所だった。


「勇者様その事はご心配なく既にシトラルへ連絡を入れ白銀の魔女様が此方へ来る事になって居ます。」



「そうか助かる。

ミラエスすまないが僕達は魔族を追って先へ行く。

シフォン達が来るまでレアの延命を頼む。少しでもフェスタとレアの時間を作ってやってくれ。」


「はい。延命の方は任せて下さい。ただ・・」


そう云うとフェスタ達の方を一瞥すると


「幾ら私が延命してもおそらく後半日も持たないかと思います。」


「判った出来る限り2人の時間を作ってやってくれ。」


「ハイ」


そして僕達はミラエスに魔族達の場所を聞きレイと共に魔族を追い掛けて行った。




---------シフォン---------------


勇者様が浄化の森へ飛んで行ってから間も無く

敵のアジトBで2階からレイラとシェルシアが落ちて来たその場に座り込んだまま

共に話をして居る事に呆気に取られて居た。

普段私以外の人には殆ど無関心を装い自分から話し掛ける事等無いレイラが2階へ上がる時には

到底考えられ無い位シェルシアと仲が良くなって居る。

知らない人が見れば普通に話しをして居る様に見えるがレイラにしてみればそれ自体が驚くべき事だ。

一体2階で何が有った?

後でじっくりレイラに聞いて見て見なければ。

その様な事を考えていると私の元にシトラルからレターリーフが届いた。


『レアが浄化の森で倒された。至急レアとフェスタを連れ戻しに行って欲しい』


「レイラ!浄化の森へって来る」


「判った。気をつけて。」


その時脇に居たミナトが私の腕を掴み外へ出ようとした私を止めた。


「シフォン俺も行く。」


ミナトは今迄人質として捕らわれていた身

相当身も心も疲弊して居るに違いないのに私達と?

おそらく今迄人質として捕らわれて居た事を悔やんでの言葉に違いないけれど今はまだ

体力を回復する事を優先して欲しい。


「ミナトはもう少し休んで体力が回復してから・・」


その私の言葉を遮り立ち上がると私の手を引き外へ出ようとする。


「シフォン、何が有ったか判らないけどキミがそんなに慌てて居ると言う事は

相当な事が起きて居るんだろ?俺は今迄散々皆に迷惑を掛けた。

これからはそれを返さなくてはならないんだ。行かせてくれ。」


「ミナト誰もそんなこと考えてなんかいないわよ。それより」


「シフォン頼む。俺の気が済まないんだ!」


「・・・判った。そこまで云うなら一緒に行きましょう。」


それからは2人で王都を飛び出し浄化の森へ飛び続ける事

数十分シトラルのレターリーフに書かれていた様にミラエスが作り出したと思われる

目標が見えて来た。


そこへ2人で降りると何時も強気でレアを叱って居るフェスタが涙ぐんで

座り込んで居た。

その前にはレアが身動いせず横たわっているのが見える。


「フェスタ・・・」


声を掛けると彼女は驚いた様に振り返りそこにはずっと泣き続けて居たのか

目を真っ赤にし泣き腫らした顔がそこにあった。


その周りにはミラエス始めボイス達が

誰もが一言も声を上げる事無く立って居る。

そのミラエスを見るとただ黙ったまま首を横に振って居る。

その時私の脳裏に蘇るレイラを失った時のあの記憶

あの辛い思い出

今は隣に居るレイラだけれどもあの苦しさは未だ忘れる事の出来ない。


あの時シトラルが私にしてくれたようにそっとフェスタの身体を抱くと

力無く彼女は私の腕の中へと身体を預けて来てくれた。


「シフォン・・すまねえ。下手討った。」


首だけを此方に向けてレアが謝って来る。


「レア、傷の具合はどう?」


そんな事は十分判って居たけれどそれ以外返す言葉が見付からなかった。


「ああ、問題ない。・・・と言いたい所だが・・

フェスタを泣かせちまった。我ながら情けなねえよ。」


レアらしくも無い悲しそうな顔を見せる。

それを見てしまうと余計胸が熱く苦しくなって来るのが判る。


「フェスタ、ここでは何も出来ないから王都へ戻るけど大丈夫?」


「シフォン、お願い。」


「ミナト悪いけど転移行ける?」


後ろに控えていたミナトに確認すると

頷いてくれた。


「大丈夫だ」


そのまま王都のシトラルの待つ施設まで

ボイスを含めた全員で転移魔法を使い戻ると既にそこには

レイラ始イズミ達も戻って来ており

私達がその部屋に入ると今迄話をして居た人達も

一瞬にして静まり返り横たわったままのレアに視線が集まって来る。

それに対し照れくさそうに無理に苦笑いをして返すレアの姿が更に

彼等の心に痛みを感じさせていた。


その中レアをベッドに寝かせ戻ってから一言も喋らないレアの耳元に口を近づけた。


「レア。貴方フェスタを守るんじゃ無かったの?

こんな所で倒れてて良いの?」


正直本当の自分の思いじゃ無い、ただそれを自分に言い聞かせたかった。

きっとレアは大丈夫この傷さえ治れば又フェスタに怒鳴られる姿が見られる。

そう思い込みたかった。


「フェスタの事を考えると俺も苦しくなる。シフォン、フェスタの事を頼む。」


レアがそういう間も無く私の後ろで黙って話を聞いて居たレイラが私とレアの間に割り込んで来た。


「おい!ガキレア!何勝手に契約者を置いて行こうとしてる!立て!そこで男を見せて見ろ!」


「レイラそんな無茶な事。」


私が止めようとしてもレイラは止まらない。


「そんな事だからガキと云われるんだ!立て!」


「うるせえ!ガキ!ガキ!煩せんだよ!ババア!」


「ほう、言い返す元気位有るんじゃないか!だったらそこに立ってみろ!」


「ああ、立ってやるさ!見てろ!」


今迄動く事も出来ず寝たままだったレアが身体を少しづつ動かし

横向きになると両手をベッドに付け上半身を起こす。


「レア!動けるの?」


目を見開きフェスタだ驚いた様子で見て居た。


「フェスタ、見てろよ。」


そう云うと両足を床に着けふらつきながらようやく立ち上がると

側で見ていたレイラが近寄りそっとレアを正面から抱きしめた。


「ババア、何を・・」


「動くな。黙ってろ。」


レイラはそう云うとレアの頭をそっと片手で抑え自分の顔を近付けた。

震え今にも崩れ落ちそうなレアを抱きしめて居ると

黒い靄が2人を包み呆然と見て居る私達の足元へも

その霧が伸びて来る。


その様子が1、2分位だっただろうか短くも長くも感じた不思議な時間が過ぎると

その霧が消えると。


レイラがレアからそっと離れた。

一人立つ事になったレアはバランスを崩しその場でしゃがみ込んでしまったが

何故か不思議そうに自分の両手を見て居る。


「おい、ババア。俺に何をした。」


「・・・」


「レア!大丈夫なの?」


先程と違い力のある声でレイラに食って掛かるが

レイラは無言で返す。

そしてしゃがみ込んで居るレアにフェスタが近づき抱き寄せると

レアは大切そうにそっとフェスタを抱き返しながら

未だ一言も返さないレイラを見つめた。


「お前まさか!・・余計な事を・・・」


そしてフェスタを優しい目で追うとレイラに顔を向けて言葉を続けた。


「そこまでさせてすまない。有難う。」


「レイラ、一体どういう事?レアは大丈夫なの?」


私が聞くと何故か疲れた様に力無く私の側椅子に座ると俯き気味の姿勢で

『フッ』と軽く溜息を付いた。


「後はレア次第だ。」


レイラはその一言を私に云うとレアに向き直り


「おい、()()、後は自分で何とかしろ。」


「待て!そんな事・・・って・・?今レアって云ったか?」


「男ならもう2度と契約者を泣かせるな。・・」


レイラはそう云い立ち上がろうとしたが

足に力が入らす又座り込んてでしまった。


「レイラ!大丈夫?一体何をしたの?」


「・・・何でもないわ。」


レイラからはそれ以上聞き出せそうに無かったのでレアに聞く事にした。


「レア、今レイラがしたのは?」


「このお節介ババア・・イヤ・・レイラは自分の命を削って俺に分けやがった。

おそらく此方に居られる時間はもう殆ど無い筈だ。」


そう言い気まずそうにソッポを向いた。

私は驚きレイラの方を見ると彼女はにこっと微笑み返して来た。


「シフォンそんな心配そうな顔をしないで

本当なら200年待たなくちゃならなかったのがこんなにも早くシフォンに会えたんだもの

私はとても幸せよ。

でもレアが今ここで向こうへ行ってしまったら2度と彼女とは会えない。

比較的レアの傷は浅くこのままでも早ければ20年もすれば来られると思うけど

人が悪魔を召喚できるのは一生に一度だけ。

だからフェスタは2度と悪魔を召喚出来ないわ。

でも、私はあと200年もすればシフォンに召喚して貰えるんだもの、

だからその力を少し分けただけ。」


「待て!だったらシフォンだって2度とレイラを召喚出来ない筈じゃないか!」


レアが不思議そうにレイラに疑問を投げかけると

微笑みながらレアに向き直り。


「シフォンは、私を召喚してない。私を召喚してシフォンに引き合わせたのはメイリよ。

だからシフォンは200年後私を召喚出来るわ。」


「そんなの初耳だ!」


「だって・・聞かれても無いし、云っても無いもの・・・」


辛そうに肩で息をしながらそう答えるレイラ。

そして私の方を見てニコッと嬉しそうに微笑むその姿を見て

私をそこまで想ってくれているレイラがとても愛おしく感じる事が出来た。


「レイラ大丈夫?無理をしないで。」


「少し休めば大丈夫。」


「でも、レイラがレアに自分の命を削ってまで助けるなんて思っても居なかった。

そんな事まで出来るなんてレイラは凄いね」


「んん、ちょっと違う。自分の命と言うより今尚私の中に有る再生の力を分けただけ。

まあここで使える力も此方に居られる期間も少なくなったのは確かだけど200年後

シフォンに召喚して居らえるのは何も変わらないし

それに・・シェルシアの影響も有るかな?」


そう云いつつ後ろの方で見て居たシェルシアを一瞥した。


「シェルシア?そういえばあの2階で何が有ったの?」


「何も無いわよ。それよりシェルシアって変な人ね。あれが女神候補なんて信じられない。」


そう云ってハハハッと笑うレイラ。

とても嬉しい事だけれども以前と比べ随分と感情表現が豊かになった気がする。

何しろ私と始めて会った時など全く自分の感情を表に出さなかったのだから。


そして私がシェルシアの方を見るとレイラの言葉が照れ臭かったのか

何故かふっと視線を避けられた。

しかしその顔には満更でもない笑顔が見て取れたのはここでは黙って居ようと思った。


そしてレイラの見立てでは結局レアが全回復まで少なくとも後2~3年かかるだろうと言う事と

レイラが此方に居られるのは後2日程じゃ無いかと言う事が判った。

『後2日か』そう思うととても寂しく感じるけれども

その2日間レイラと共に大事に過ごそうと思う事にした。


後問題は、私や勇者様そしてレアさえもその手に掛けようとした

油断ならない悪魔エリアを倒す。


「レイラ、エリアが今何処に居るか判る?」


「探す必要も無い、今この上にいるわよ。」


私はその言葉にぎょっとして見えないはずの屋根の上を見ていた。

すみません

4月11日一部書き直しました。



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