167 知らぬ悪魔2
シトラルの前に立つその悪魔は怒鳴りつける様に口を開いた。
「トカゲ!私のシフォンをどうした!お前が守る筈だっただろうが!」
「レイラどうやってここへ来た。」
「そんな事はどうでも良い!シフォンだ!私のシフォンは何処に居る!」
その2人のやり取りを聞いて居たイズミはシフォンの言葉を思い出していた。
あの冒険者学校で模擬戦の時。
「私の親友。」
シフォンのその言葉の相手は今目の前に居るレイラがその親友なのでは無いかと思い始めていた。
レイラのシフォンに対する想い、口は悪いがそれがヒシヒシと伝わって来る
それはシトラルに怒りをぶつけながらもシフォンを守れなかった自分に対しての怒りにも見えた。
そんなレイラに対しシトラルがシフォンから送られて来たレターリーフを見せると
レイラはそのレターリーフを胸に抱き抱え今迄の緊張の糸が切れたかのように
その場にしゃがみ込んでしまった。
「シフォンの字だ・・生きてる・・良かった・・」
そのレイラがしゃがみ込んだまま顔を上げシトラルを見上げると先程までと違い落ち着いた声で
シトラルに訪ねて来た。
「トカゲ、所でシフォンは今何処?」
「それは判らない。そのレターリーフに書いて有る様に回復しつつあると言う事だけだ。
それまでシフォンからの連絡を待つしかない。」
「判った。」
レイラはそう云うと立ち上がり自分の空けた結界の穴から
外へ出ようとして居た。
「レイラ何処へ行く?」
シトラルがレイラの肩を掴んで止めるとレイラが振り向き
その手を荒く振り払った。
「触るなトカゲ!シフォンを探しに行く。」
「探すと言っても何処へ?レターリーフも送れない状態でどうやって探す?
得意の探索魔法もこれでは役に立たないだろう?」
「煩い!探すと云ったら探し出す。そしてシフォンに・・」
その時何かを思いついた様にレアが口を挟んだ。
「ちょっと待て。今探しに行くと云ったがお前この王都から出られないんじゃないのか?」
「煩い!ガキが口出しするんじゃない!」
一瞬核心を突かれたのか怒りの言葉を吐いたレイラだったが出て行こうとした窓に手を掛けたまま動きを止めてしまった。
それを見て居たイズミがレアにその事が気になり尋ねると
レアから思いもしなかった答えが返って来た。
「悪魔は契約する為に召喚されるのが本来の姿なんだがその他にもこちら側に来る方法がある。
それは自分の力を使い此方に来る方法なんだがこれには幾つかのマイナス部分が生じる。
一つはこちらへ来る為自分の力の殆どを使い果たす為こちらで本来の自分の力を使えない事。
しかしこいつはあれだけの魔法を使ていたからきっと違う方法で此方に来たに違いない。
そしてもう一つ自分から此方へ来た悪魔の誰もが逃れられない事
それはその場に縛られると言う事だ。
つまりこの女はこの王都から外へは出られない。
しかも話を聞くと此方に居られなくなって間もないんだよな。
すると此方に居られる期間が限定される。」
そこまで話すとレアはレイラに向き直り顔を覗き込んだ。
「どうやって来た?何時まで居られる?」
「は~、全部お見通しか。・・話すわよ。」
レイラは近くの椅子に座ると全員の視線が自分に集まって居るのを見て
静かに話し始めた。
「向こうに居ても断片的にだけれども此方の事を知る方法は有る。それはアンタも知って居るわよね」
レイラがレアを見て頷くのを確認すると言葉を続けた。
「兎に角私はシフォンの事が気になり此方の事を見て居たら
シフォンが死んだと云う噂が広がって居るのを知り居ても立っても居られず、
シフォンが居ると思われるトカゲの居るこの王都へ来る事を決めたのよ。」
「それでどうやって来たんだ?」
「煩い!今話す」
レイラはレアの言葉に怒りながらも話を続けた。
「それで使ったのが此方へ初めて召喚された時にメイリから代償として貰った再生の力を使ったのよ。」
「メイリ?ロディの妻メイシェの事か?」
「煩いトカゲ!兎に角あの時はメイリと名乗ってたわ。その力を使い此方へ来た。
まあ本来の使い方と少々違う使い方をしたからもう二度と使えないけれどね。
そしてこちら側に居られるのはおそらく10日程。
でも私が大きな力を使えばその期間も短くなる。
だからこれからも自分の力を使う事を考えると7日が良い所かしらね。」
「つまりこの王都から出られずしかも7日間しか居られないにも関わらずシフォンの為に
此方へ来たと言う事か。」
「ガキ!私のシフォンを呼び捨てにするな!」
「ガキ!ガキ!言うな!俺はレアと言う名がある!ちゃんとレアと呼べ。」
「ガキはガキじゃないそれで十分よ。
でっガキのレアあんたの契約者は誰?」
「あ~~?フェスタだ!この可愛くねえ女が俺の契約者だ!」
「可愛くない?ああアンタがフェスタね。」
「可愛くないで納得するな!」
『可愛くない』発言で直ぐにフェスタを特定したレイラと発言者のレアに
怒ったフェスタが棍棒を取り出し2人を睨みつけた。
「あれ?俺何か悪い事言ったか?」
オドオドしながら自分を見るレアを見たレイラは溜息をつき呆れた様に呟いた。
「ガキのレア、アンタバカでしょ。」
「うっ・・」
しかしその言葉に答える事無く棍棒を持ったフェスタに腕を掴まれ隣の部屋に
引き摺られて行ったレアをレイラは呆然と見て居た。
「所であの似非勇者は何処?もし又シフォンが狙われたらシフォンの身代わりにしてやるのに。
まさか本当に死んだんじゃないでしょうね。私の仕返しが終わる前に死ぬ事なんて絶対許さない。」
レイラがシトラルに問うとしばし沈黙の後今迄起きた事をシトラルが話し出し
その話を一通り聞いたレイラはスクッと立ち上がるとシトラルへ視線を向けた。
「トカゲ、これだけの施設なら私とシフォンの部屋位有るんでしょ。何処?」
「空いてる部屋は幾つも在る何処を使って貰っても構わない。」
「それなら私が案内します。」
その案内役をイズミが自分から申し出るとそのままレイラを案内して
空いて居る6人部屋の一室まで案内してその部屋の中へ入ると
イズミはレイラとシフォンとの間の事を聞きたくなり
思い切ってその話を切り出してみた。
「レイラさん。」
「?」
黙ったまま振り返るレイラに
思わず言葉を詰まらせそうになりながらも言葉を続けた。
「あのシフォンさんとレイラさんの間柄の事を聞いて良いですか?」
「・・・・」
『うっ話を続け辛い。何と言って話を続けたら良い?』
そう思いながらもう一度聞こうとした時レイラが口を開いた。
「シフォンは私の大事な人、掛け替えの無い人」
そう云うとベッドに腰かけ少し寂し気な表情を見せ
イズミを見つめ言葉を続けた。
「・・・貴女はシフォンとどんな関係?」
レイラがイズミの事に興味を持ってくれた事が嬉しく思いながらも
その気持ちをグッと抑えた。
「私はシフォンさんと親友になる事が出来ました。とても良い関係が築けていると自分では思って居ます。」
「・・そう。私が居ない間にシフォンは色んな人と出会い色んな関係を築く事が出来たのね。
さっきも周りは知らない人ばかり皆シフォンと良い関係だと思うけど・・
でも、・・・私はそんなシフォンを知らない。
何だか私だけ取り残された様な気がする。・・」
「そんな事無いですよ。シフォンさん何か有ると必ず私の親友は
ってレイラさんの事を話してくれますから。」
「・・・ア・・イ」
「レイラさん・・?」
「シフォンに会いたい!」
そのままレイラは黙り込んでしまった。
イズミはそっとレイラの部屋を出ると皆の居る部屋に戻る事無く
自分の部屋に戻り誰も居ないその部屋のベッドに1人横たわった。
「シフォンさん・・・ミナト。」




