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残念な神様の残念な世界  作者: けいもっさん
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第5話

いつまでも大地を殴り続けても仕方ない。とりあえず今はやるべきことをやろう。


森の中から感じていた視線に注意しつつ、そーっと後ずさりする。


反対方向ももちろん原生林だ。道なんてものは当然ないし、森の中に何が潜んでいるのか分からない。かといって、こんな丘の上に突っ立っていても何も解決しない。


やるべきことはいくつもあるが、今この瞬間一番大切なのは生き残ることだ。


そう、正真正銘のサバイバルである。


サバイバルで大事なことは三つだ。


一つ目が拠点の確保。これは最重要課題だ。


人は寝なければ死ぬ。三日も寝なければ正気を保てないだろう。ましてや周りは肉食獣が徘徊する原生林だ。安心して眠ることのできる拠点を早急に確保する必要がある。


二つ目は水の確保。


できれば沢なんかがあれば望ましい。滲みだしていて常に流れている水であれば、最悪煮沸しなくても飲むことができる。もちろんそれは最終手段ではあるが。


三つめが火の確保。


野生動物は火を怖がると言われている。


絶対大丈夫というわけではないが、火の確保は水の煮沸や調理にも必須だ。煮沸するための鍋は無いが、炭は水のろ過にも使えるし、歯磨きもできる。


歯は虫歯などで欠けると自然に治癒しないから、歯磨きは重要な行為だ。虫歯になっても歯医者に行って詰め物を入れてもらうことも出来ないこの環境であれば尚更だ。


優先順位は一、二、三の順。拠点確保は仮であれ、今すぐ必要だ。


とは言え、裸のままで武器もなく原生林をさまようのは怖い。


ひとまず下に落ちている手ごろな石をいくつか拾い、持って歩く。


【身体強化】で最大5倍になっている今であれば、ただ投げるだけでもそれなりの威力になるだろう。


ふと思い立って、取得した能力を試してみる。


『【等価交換】この石と黒曜石を交換してくれ』


拾った石を手にもって、能力を発動してみた。

すると頭の中にメッセージが流れる。


『等価交換の価値が認められません』


黒曜石とは自然界に存在する鉱石だ。特殊なマグマが一定の条件で冷やされるとできるとされている。


それなりに固く綺麗なので、鋼鉄製の工業ナイフほどではないが、いわゆる鉱石ナイフと言われるナイフでは定番の素材だったと記憶している。


価値の基準が明確ではないが、元居た世界で売り物になる黒曜石が、地面に落ちているただの石と同じ価値とういうことはないようだ。


まあそれが認められるなら、サファイアやルビーなんかの宝石も自然界のものだから交換出来てしまうしな。


おそらくだが、元居た世界の金銭価値と大きくはなれていないという認識でいいだろう。


しかしそうなると困った。しばらく価値のあるものは手に入れられそうにない。

まずは自力である程度までモノづくりをしなければいけないようだ。


そうとわかれば日が昇ってるうちに早速行動を開始する。


目指すは川沿い。


先ほどの丘を下り、視線を感じた方向を迂回しつつ、南にあると言っていた川を目指す。


天候は晴れ。風も強くなく裸でも寒さをあまり感じない。周りの植物を見ても春から夏の間といったところか?


視覚、聴覚、嗅覚に最大限に注力し、慎重に川を目指す。


途中手ごろな木が落ちていたので拾っておいた。

棍棒より少し長いが、今の身体能力であれば振り回すのに苦労はしなだろう。


日中の行動だったこともあり、かなり時間はかかったが、なんとか川にたどり着いた。


降り立ったのが夜だったら即終了していたかもしれない。


大きな石が転がる河原に出て、石を探す。探しているのは固く尖った石だ。

だが川辺の石というものは上流から転がってきたものが多いので、角が削れて丸くなってるものがほとんどだ。


理想の形そのものを探すことは早々にあきらめ、頭ぐらいの大きさの石を持ち上げて、鋭利に砕けそうな岩や石めがけて力いっぱい投げ落とす。石が割れた時に鋭利な角ができることを利用したものだ。


中々思うように割れてくれなかったが、太陽が頂点に差し掛かったころ、ようやく大きめの鋭利な石とハンドサイズの鋭利な石を手に入れることができた。


小さなハンドナイフ用の石で拾った棍棒の先を削り、大きめの鋭利な石を挟み込んでツタで縛る。簡易の石斧の完成だ。


余ったツタで小さな籠をつくり、腰に括り付けてこぶし大の石を入れておく。


右手に石斧、左手に石ナイフ。腰には投擲用の石。そして裸。


お巡りさん、ここに危険人物が居ます!(自首)


遊んでいる場合じゃない。既に昼を回ってしまった。

早く拠点の場所を見つけないと、日が沈めば無防備な状態で眠ることも出来ずに怯えることになる。


川沿いを西に移動し、流れ込んでくる小さな支流を探す。


しばらく歩くと支流が見つかったので、その支流の上流側に上ってく。


運良くすぐに開けた場所が見つかった。


大きく開けているわけではないが、朽ちて倒れたであろう大きな大木が横たわっており、10畳程度のスペースがある。


すぐに周りにある細い目の杉の木を石斧で切り倒していく。

石斧が少しづつ欠けていくが、今は気にしていられない。


強化された力をフルに使い、5本の木を切り倒した。更にその木を半分にし、10本の杉の丸太を手に入れた。


「よし皆!丸太は持ったか!」


うん。言ってみたかっただけだ。他意はない。


何事もなかったかのように大木に7本を斜めに並べ掛け、片屋根のシェルターを作る。


残り3本は大きさを調節して三角に開いた部分の片側に埋め込んで立てて、壁のように蓋をする。ツタで縛り上げて少しでも強度が上がるようにした。


これで切り倒した木は無くなった。


もう日も傾きかけている。急いで仮設の拠点を出てあるものを探す。


それは運よく拠点のすぐそばところにあった。


竹林だ。


竹はいい。何にでも使える。


元の世界でも未だに高層ビルを作るときに使用する足場が竹だという国もあるぐらい丈夫だし、食器にも水筒にも建築資材にもなる。


だが今欲しいのは生えている竹じゃない。既に折れて乾燥している竹だ。


幸いにも足元には折れて枯れた竹がいくつも転がっていた。そのうち比較的乾いてそうなものを何本か持って拠点に戻る。


河原から大きな石をいくつか運び、壁状に蓋をしなかった入り口側に丸く並べて簡易のかまどを作る。

もちろん乾いた枝や木を集めておくのも忘れていない。


竹を二つに割り、一方の真ん中に横に刻みを入れ、小さな穴をあける。


更に乾いた枝や竹の表面をナイフで削り取り、火口を作る。


火口とは種火を落として一瞬だけ大きく炎が燃え上がるようにするための細かい木くずなどだ。


あとは火口の上に溝を刻んで穴をあけた竹を置き、その溝に沿ってもう一つの竹をひたすら前後にこすり合わせる。


【身体強化】のおかげもあって、すぐに煙が出て焦げた匂いが広がる。


そっと竹をどけると火口に小さな種火が落ちている。

それをやさしく救い上げ、軽く息を吹きかけてやる。

何度も吹きかけると、煙がたくさん出と思った瞬間、火口が一気に燃え上がる。


その一瞬の炎をすぐにかまどに放り込み、小さな木片、小枝の順に投入していく。火が消えそうになったらかまどの横から息を一気に吹きかけると炎が復活する。


小枝まで火が付いたら順々に大きな木を入れ、炎を安定させる。これで火起こしが完了だ。


完全に日が沈み切るまでに、周囲にある薪になりそうなものをひたすら集める。


ついでに竹を切ってコップを作り、比較的綺麗な支流から水も汲んでくる。


かまどの位置を調整し、その上に水の入った竹コップを置く。


一回でダメになるだろうが、今の手持ちでは仕方ない。

一回でも水を煮沸させられるならそれでいい。どうせ竹はいっぱいある。


そこまでしたところで、完全に日が沈んでしまった。

今から朝までは肉食獣の活動時間だ。この拠点に訪問してこないことを祈ろう。


煮沸し終えた水をさまし、一口飲む。


うまい。


何の味付けもないただの水だが、この世界で初めて口にしたものだ。五臓六腑に染み渡る。


俺はこの味の無い水の味を忘れることはないだろう。


前世では知識はあったものの、こんなことをしたことはなかった。


子供が小さいときは家族でキャンプに何度も行ったが、テントがあり、鍋があり、ガスボンベがあり、鉈やナイフ、調理器具などが普通にあった。


もちろん周囲に肉食獣なんか居るような場所じゃなく、整備されたキャンプ場でのキャンプだったから、水道も整備されていた。


「これ…俺じゃなくてもよかったよな…。」


満点の星空を眺めながら今更ながらそんな真実に気付き、呆然とする。


どうせなら元自衛隊とかサバイバルが趣味な人のほうが良かったんじゃないだろうか。


俺は前世では特に取り柄もない普通のサラリーマンだった。


「だからいいんだよ!」とかアイツなら適当なこと言って煙に巻きそうだが。


黒焦げになったカラの竹のコップをかまどに放り込み、余った竹を薪代わりにくべたあと大木に寄り添って目をつむった。


少しでも寝よう。明日からは食料の調達や拠点の整備など、やることが多くて大変だ。

当面は死なないことを目標に頑張ろう。


ウトウトと眠りに誘われながら意識が朦朧としたころ…






ボンッッ!!






大きな音を立てて、火にくべていた竹が爆発した。






死ぬほどびっくりした。



本日の投稿はここまでです。

お読みいただき、ありがとうございました。

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