第4話
俺は無言で【知識検索】を使う。
すると頭の中にブラウザ画面のようなものが出てきて、文字を入力する欄があった。
『神と連絡をとる方法』
検索ワードをイメージで入力し、実行。
『神とコンタクトを取るには、右手の人差し指と中指をオデコにあて、左手を広げて適当にポージングしながら「我が大いなる力の源よ、この魂に刻まれし盟約により、我の問いに応えたまえ」とつぶやいてください』
うん。あいつ殴ろう。まず殴ろう。
言えるか!こんなセリフ!
智樹が中学に入ったころにこんなセリフ言ってた気がするわ!
「っく!だがこれ以外に…方法は…無いっ!!」
俺は覚悟を決めてポーズをし、プルプルと震えながら涙目でセリフを呟く。
「わ、我が大いなる力の源よ、…この魂に刻まれし盟約により、我の問いに…こ、応えたまえ…。」
『真っ裸で何言ってんの?正直ひくわー。』
「おまえが作った設定だろうがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
先ほどまでさえずっていた鳥たちが奇声を上げてあげて飛び立っていった。
今もし目の前に奴がいたら殴るでは済まなかった自信がある。
『あーそういや昔そんな設定にしたっけ。流石に呼ばれる側も恥ずかしいから変更しとくね。』
「ぜ、ぜひ、そうしてくれ…。」
『で、降り立って早々どうしたの?』
「いきなり放り出すんじゃねーよ!まず何で裸なんだ!」
『え?だって異世界の服なんか持ち込めるわけないじゃん。』
「そうだとしてもこの世界の服とか何かなかったのか!」
『あ、そういうのはサービス対象外ございます。』
「急に他人行儀だなおい!」
『まあ真面目は話をすると、そんなところもボクの力が及ばないところなのさ。そんなことホイホイできるなら、ボクが直接この世界を導いてるよ。』
「っく!急に正論ぶりやがって…。まあそこはいい。だが、ここはどこだ?見渡す限り人が住んでいる様子が見受けられないぞ?」
『あれ?おかしいな。…あ。』
「おい、なんだ今の『あ』は。」
『えーっと…ちょっとだけ降ろす位置がズレたみたい。』
「ちょっとってどれぐらい?」
『うーん…20kmぐらい?』
「おいぃぃ?!こんな原生林で20kmもズレてるって大変だぞ?!」
『ごめんごめん。でも【身体強化】あるからダイジョブダイジョブ。モンダイナイモンダイナイ。』
「大アリだよ!なんでカタコトで二回ずつ繰り返してんだ!」
『まあほら、急に人の目の前に現れてもね?ちょっとしたチュートリアルだと思って…。』
「裸で人前じゃなかったのは逆によかったかもしれんが、チュートリアルがハードモードすぎるだろう!」
『大丈夫、キミなら何とかn』
「待て」
『何だよ。神の話を遮るなんてよくないぞ!』
「静かに。何か居る。」
『え?人はその辺には居ないはず…。』
「違う。そういうモノじゃない。」
どこかから突き刺さるような視線を感じる。これは殺気?俺を品定めするようなそんな視線だ。
それも一つじゃない。森の中のあちこちから感じる。こちらは丘の上に立っているので、森の中からは丸見えだ。
まず視線を多く感じるところをじっくり凝視する。そこからはいくつかの視線を感じる。
見えた!あれは…
「ハスキー…いや、オオカミ?」
銀色の毛に金色の目。そこにある獰猛な視線。姿を確認することができたので【神の目】で情報を取得する。
【オオカミ(アラスカオオカミ)】…肉食獣。10頭ほどの群れを作り、連携して捕食対象を狩る。
「おい?」
『はい?』
「ここってアラスカなのか?」
『えーっとね。ボクが作ったのは『世界を作ろう!地球日本編』だよ。まだ日本って島を全部作れるほどの力はないから、せいぜい和歌山県ってところぐらいの大きさの島だね。』
「色々とツッコミたいところだが、まず和歌山県に火山なんてものは無い!」
『そりゃ、あくまで参考にしたベースがその場所ってだけで、実際の地形はボクが作ったからね。キミの知る日本や和歌山県とは同じじゃないよ。』
「生態系もか?」
『そこはある程度キミの元居た世界の和歌山ってところを参考にしてるから、動物や植物は似たようなものだよ。もちろん全て同じではないけどね。』
「じゃあ何でアラスカオオカミなんてものが居るんだ?」
『えーとね。それは『拡張パック 北米大陸の生物セット』を導入したからだよ。凄いでしょ!』
「凄くねぇよ!生態系破壊する気か!アラスカと日本の本州最南端じゃ気候も違うだろ!」
『そこは大丈夫。この世界はキミの元居た世界より全てが少しずつだけど強力になってるから!』
「大丈夫じゃねーよ!俺の生存率が普通に下がってるだけだよ!」
『あとねー。ピューマってのと、アメリカグマってのも居るよ!』
「なんでだよ!在来種のツキノワグマじゃダメなのかよ!」
『それはホラ。大きいほうがカッコいいから?』
「何で疑問形なんだよ!テメーぶん殴ってやるから今すぐココに降りてこい!」
『それは出来ないんだってばー。出来たとしてもわざわざ宣言されて殴られに行くわけないじゃん。』
不条理な会話をしながら他に視線を感じた場所を凝視する。
ああ、うん。居たわ。宣言通り居たわ。木の上からコッチを睨んでるわ。
【ピューマ】…肉食獣。木の上や背後から獲物にとびかかることが多い。シカなどの大型の獣も捕食する。
更に他に視線を感じるところにも目を向けるが、木々が邪魔をしてよく見えない。アメリカグマじゃないことを祈ろう。というか、元々この地域にいたであろう在来種もう淘汰されて居ないんじゃねーか?
『流石に今のキミでは素手で勝つってのは難しいと思うから、死なないように気を付けてね。死んじゃっても生き返らせるなんてことできないよ。』
「そこは神の力で何とかしろよ。」
『無理だよ。キミは一体神を何だと思ってるんだ。』
いや神なんだから神っぽくなんとかできそうなもんなんだが。
まあ今はこれ以上アレコレ言っても仕方ないところか。まずは生き残る努力をしなければ。
「とりあえず、人がいる方角を教えてくれ。」
『えっとね、今キミが居るところから南…今見てる方向だね。2kmぐらい先に川があるのが分かるかい?』
「川の水面は見えないが、木が断続的に途切れて線のようになっているのは分かる。」
『それが川だね。そこから川沿いに西側に進めば海に出るんだけど、その海の手前に集落があるよ。』
川と海か。人が生活をしていくのに必要な要素だな。まずはそこを目指すか。
『それじゃあ頑張ってね。次に用があるときは頭の中にコールボタンを仕込んでおいたから、それをイメージしてくれればボクとコンタクトがとれるよ。』
「よかった。もうあの黒歴史を繰り返さずに済むんだな。」
『うん。コールボタンのイメージの仕方は腕を全面でクロスさせて天を仰ぎ、『今こそこの両腕に秘められた力に応え、世界の真理を知るものと魂を共有させよ』と言って…』
「さっきと変わんねーじゃねーか!!」
『ははは。冗談だよ。じゃあ頑張ってねー。』
まるで友達に気軽に挨拶するように、手をヒラヒラ振りながら去っていくようなノリで会話が終わった。
俺はその場に四つん這いになってひたすら大地を殴り続けた。