第3話
「なんでぇぇぇ?!普通この状況で断る?!」
「いやだって何だか面倒だし。」
「面倒ってそんな!酷い!」
「そもそも、仮に俺が代行者として行動した場合、俺を神だと勘違いして信仰する者も出てくるんじゃないのか?」
「ああ、そこは問題ないよ。【神】という存在を認識して信仰さえしてくれれば、それはどんな神であれこの世界では全て僕への信仰になるんだ。」
「宗教というものが出来て宗派が違ってもか?」
「うん。【神】という存在を信仰することが大切なのであって、その対象がどんな神かってのは重要じゃないんだ。」
「それが邪神であっても?」
「結局、邪神という存在もそれは立場が違ったりするからそうなるわけであって、ボクたちからすれば神も悪魔も一緒なんだよ。【大いなる未知なる何か】を信仰すれば、それは全てボクを信仰することになるんだ。」
「随分ざっくりしてるな。」
「考えてもごらんよ。キミの元居た国では八百万の神が居るって思われてたらしいけど、いるわけないじゃん。でもいいんだよ。道に落ちている小石一つでも、それに神が宿ると本気で信じてくれるのなら、それは【神】を信仰しているということなんだからね。」
「なるほど。とにかく大事なのは【大いなる未知なる何か】を信仰させるということなのか。」
「そう。どう?やる気になったでしょ?」
「だが断る。」
「なーんーでー!!」
「だから面倒だって言ってるだろ。」
目の前の神様が頭を抱えてブンブン振り回してる。神様って随分と行動が演技がかってるんだな。
「…ふう。仕方ないね。せっかくの魂だから、これだけはしたくなかったけど…。」
「なんだ?隠し事でもあったのか?」
一気に警戒心が膨らむ。なんといっても相手は神だ。俺の存在を消してやるぐらいは平気で言いそうだ。
だがそれでもいい。俺はもう十分に生きた。元の世界に戻ってもどうせ記憶もなくなる。それならここで消滅しても何も変わらない。
「じゃあキミは記憶も何もない状態でこの世界の魂として生まれ変わってもらうことにするよ。」
「…それはつまり?」
「バカになってもらう。」
「すいませんでした。謹んで拝命させて頂きたいと思います。」
バカになるのは嫌だった。
◆◇◆◇◆
「いやー良かったよ!また先輩にお願いしに行くのちょっと嫌だったんだよね!先輩話長いし!」
「っく!なぜだか分からんが負けた気がする!!」
「まあまあ。これでキミはまた新たな人生を歩める。ボクは世界を発展させられる。ウィンウィンじゃないか!」
「あまり俺にメリットがない気がするが…。そもそも、人々がバカってどれくらいバカなんだ?」
「バカってのは少し言い過ぎた表現だけどね。普通の人と思えばいいよ。ただ、世界を変えるような大発明を思いつくような天才は現れないってぐらいで。」
「アインシュタインやエジソンのような人は現れないってことか。」
「そうそう。そういう認識で間違ってないよ。」
あれ?じゃあ別に普通にこの世界で生まれ変わってもよかったんじゃね?
あまりにバカバカ言うから、いつも鼻水たらして小枝ふりまわしてるようなガキンチョみたいなの想像してたわ。
「そんなにバカだったら、ある程度の文明も発展できないでしょ。」
おっしゃる通りだ。あれ?これは早まったか?あと心を読むな。
「もうやるって言ったもんねー!神との約束は絶対だもんねー!」
「わかったわかった。言った以上はちゃんとやるよ。お役に立てるかどうかはわからんけどな。」
「キミなら大丈夫さ!なんだかんだでボクとこれだけ会話をできてるんだからね!」
「普通の会話だと思うが?」
「会話の内容というより、神と直接対面して魂が壊れないってのが凄いんだよ。だからこそ出来ることがあるんだ。」
「それは?」
「神の能力の授与さ。」
「神の能力…。特別な力ってことか?魔法を使えたりとか?」
「そういうのもあるね。今のキミなら五つまで能力を授与することができるよ!」
「今のってことは、それ以上になる可能性もあるってことか?」
「キミが信者を獲得してボクの力が上がれば、それに伴って使途であるキミの力も上がる。そうすれば能力を増やすことができるよ。」
「なるほど。分かりやすいな。で、どんな能力が貰えるんだ?」
「いーっぱいあるよ!でもちょっと口で説明するのは大変だから、イメージを刷り込むね。その中から良さそうなのを五つ選んでくれたらいいよ。」
そういうと神様は両手を俺にかざし、何やら真剣な顔つきでモニョモニョと呪文らしきものを唱え始めた。
さっきまで子供のように騒いでいたのと同じ人(神)だとは思えないな。これが神の儀式というやつか。
「いや、単なる雰囲気作りだよ。」
「ほんと残念なヤツだなオマエは!」
その瞬間、頭の中に膨大な単語が流れ込んできた。
あまりに大量すぎて目の前がチカチカする。確かにこれは言葉で伝えるには時間がかかりそうだ。
なになに?炎を操る力か。いわゆる魔法だな。他には…棒をくるくると綺麗に回せる能力?なんだそりゃ?
「ああそれ、コンパとかでやるとウケたりするんだよ。」
「宴会芸まで神々の能力に入れるんじゃねーよ!つーかコンパするのかよ!」
「仕方ないじゃん。ボクの持ってる能力なんだから。」
俺の中で少しだけあった【神】という存在への信仰心がどんどん下がっていく気がする。
まあいい。今はとりあえず能力を選ぼう。
「なあ、その新天地の文明度ってのはどんなもんなんだ?」
「キミの元居た世界でいうなら、かなり古代よりかな。」
「魔法とか普通に使えるのか?」
「普通の人がってこと?それは無理だよ。神の力を使えるのは神か、もしくはその使途だけだよ。」
魔法は神の力なのか。
しかし、かなり古代よりか。イマイチよくわからんな。
だが二つはもう決まっている。【神の目】と【知識の検索】だ。
【神の目】…目で見た対象の情報がわかる
【知識の検索】…元居た世界で常識的に公開されている知識を検索できる
「なあ、この【知識の検索】の常識的に公開ってのは、どのレベルなんだ?」
「んー。分かりやすく言うなら、Go○gleで検索して答えが出てくるものって感じかな。」
「分かりやすいが色々と台無しな発言だな。」
元居た世界のネットでの知識が身につくのであれば、それはもう新しい世界では神のような知識だろう。やはり必要だな。
残りは三つ。
まず古代よりってことは、恐らくだが野生動物との戦いも大いにありえるだろう。【剣技】や【格闘】を取得するか?
いやまて。そもそも剣なんかあるのかどうかも怪しいし、残り少ない枠に応用が利かないものを入れるのは危険だ。もっと全体的に底上げになるものがいい。
そんなわけで三つめはコレ。
【身体強化】…自分の心肺機能、身体能力を最大五倍まで引き上げられる
「俺は一体どういう体で新世界に行くんだ?」
「基本的には前の世界の体だと思ってもらっていいよ。ただ、87歳なんかで行っても意味ないから、18歳ぐらいの体で行ってもらおうかな。」
18歳か。ちょうどモテたくて体を鍛えていた頃だな。あの頃は握力は60kgちょっとあったハズだから、最大で300kg超えか。そりゃもう神の力だな。
機械なんかがなく手作りで色々とやっていかないとダメな世界だ。力は大事だろう。
そういう意味ではこれも外せないな。
【超回復】…怪我や病気から快復する自浄作用が五倍になる(他の能力に重ね掛けされる)
おそらく医療なんて無い時代だ。絶対にいるだろう。それに他の能力に重ね掛けってところも魅力だ。身体強化の能力強化には回復力も含まれるだろうから、最大25倍の回復速度になるってことだ。ちょっとした怪我なら一日寝てれば治ってしまうだろう。
「うんうん。そうだよ。その能力は重ねることができる。良いチョイスだね。最後の一つは何にする?ボクとしては全身が光る【体発光】ってのがウケがよくてオススメだよ!」
「お前らのコンパになんかいかねーから!」
最後の一つか…。
【炎操作】は良い気がする。が、炎を発生させるわけではなく、既にある炎を操作させるのか。温度を上げたりすることもできるらしいが…。最初の能力としてはやっぱり微妙か。
そういう意味では【風操作】や【液体操作】なんかの魔法系は神が見せる奇跡としては分かりやすい気もするが、スタート時点で必要かと言われれば、なんともつぶしのききにくい能力な気もする。
「よし。最後の一つはコレだ。」
「お?それいっちゃう?ある意味、本当に神の能力だよねそれ。他では絶対再現できないし。」
【等価交換】…自分の所有物と他の世界のものを同価値で交換することができる(ただし、加工されていないものに限る)
「コレは俺の元居た世界のものと交換できるってことでいいんだよな?」
「うん。そうだね。他の世界でもいいけど、キミ他の世界しらないから事実上不可能だね。」
「未加工ってのはどのレベルなんだ?」
「自然界にそのままの形で存在しないものはダメだって思えばいいよ。原材料って意味じゃない。例えば灯油が欲しい!って言ったとしても、灯油はそもそも重油からの加工品だからダメ。」
「生物は?」
「人に接触していないものであれば大丈夫。早い話、他の世界で騒ぎになるのが困る。」
なるほどな。人に管理されていない自然に存在するものであれば大丈夫ということか。交換価値の判断が難しいが、そこはおいおいやっていこう。
「それじゃあこの五つでいいかな?」
「ああ。頼む。」
「よし。それじゃあ我が使途ナオヒロよ!新たな世界で信者を増やしてくるのだーーー!」
「だーー!」
「だー!」
「だ…」
頭の中で神の言葉にエコーがかかり、抗えない力で世界が暗転していく。
神の家から放り出されたのがわかる。身動きはとれない。ただひたすら落下していくような感覚に耐える。
しばらくして浮遊感がなくなり、感覚が戻ってくる。
つぶっていた目をゆっくりあけ、思わず息をのむ。
遠くで鳥のさえずりが聞こえ、何一つ人工物が見えない鬱蒼とした森が目の前に広がっている。
さらに遠くには火山のようなものも見えた。
そんな様子が一望できる丘の上に俺はたたずんでいた。
なぜか裸で。