異世界転生したけど地球に戻ってみる。
俺の名は龍造寺 成帝。
仰々しい名前を授かってしまったが俺自身は大した人間じゃない。
地元のパッとしない大学を出て上京し、零細のブラック企業に就職してしまった
30歳独身の冴えない社畜だ。
5年前に両親は交通事故で他界した。
俺は一人っ子だったし、親戚の話を一度も両親から聞いたことがない。
上京後、地元の友達との関係は切れてしまったし
東京に出てからは友達も恋人も作れなかった。
天涯孤独ってやつだな。仕事に忙殺される日々を
ただ過ごしているだけのつまらない人間だ。
今日は待ちに待った週末。
コンビニでアルコール度数高めの缶チューハイと
おつまみを買って帰りの電車に乗り込んだ。
電車の中で他人の目を憚らずに煽る缶チューハイ。
最高だぜ。週に一度のささやかなお楽しみ。
お酒弱くてすぐ二日酔いになってしまうから
翌日仕事の日は飲まないようにしてるんだよね。
ロング缶一本を飲みきって電車を降りる頃にはもうほろ酔いだ。
駅前の横断歩道を渡った先にあるドラッグストアでもう一本買って帰ろうかな。
おっと、歩行者信号赤に変わっちゃう。
まだ行けるな、ダッシュダッシュ~。
へぶしっ。
うううっ、足がもつれて盛大に転んでしまった。
ぐお~鼻痛ぇ、顔面からコケるなんて小学生以来じゃないか?
信号待ちしてたトラックの運転手さんすいませんね。すぐ退きますんで。
よっと、おっ?酔いと顔面をぶつけたショックで上手く起き上がれないぞ。
ちょっ!トラックが動き出した!?
運転手さん待って、下に俺が居ますよ。
あ、このタイヤの位置ヤバッ……
こうして龍造寺成帝は生涯を終えた。
のは今から12000年前の出来事。
死んで異世界で生まれ変わった俺は最下級竜種のレッサーワイバーンだった。
しかもまだ卵から孵る前に、騎乗竜として人間に重宝されている
ワイバーンの卵と間違えられて略奪されてしまった。
そうして俺は生まれながらの家畜として異世界での産声を上げた。
ワイバーンや飛竜であれば、プロの飼育師や現役の竜騎士が
手厚く大切に育ててくれたんだろうけど。
悲しいかな俺は飛行能力が低く騎乗に向かない最弱の竜種レッサーワイバーン。
使い物にならないので、飼育実習用個体として竜騎士育成校に送られた。
レッサーワイバーンもワイバーンも幼生期の育て方には大差ない。
飼育に失敗して死んでしまっても構わないとされた俺は初等科クラスの飼育実習に
丁度よいとのことで実質ガキ共のオモチャとして与えられ大分おざなりに育てられた。
いや、育てられたとも言えないか。
ほとんど放置されてよく餌や水を忘れられたし。
こいつレッサーかよレッサーとかだせぇよなとか言って
虐待してくるクソガキ共が居たし。
騎乗実習用のワイバーン達にはイジメられてたし。
ぼっちの俺は竜牧場に迷い込んできた鼠とか虫を捕って食い勝手に育った。
そうして半年ほど過ごしていたある日、隣の竜舎のワイバーンに餌やりをしている
飼育員達の話し声が聞こえてきた。
俺の飼育はガキ共まかせなのでこいつらが俺に餌をくれる事はない。
「隣のレッサーだけどさ、食育とかなんとかで成獣になったら潰すらしいぜ。」
「ふ~ん、じゃああと3~4ヶ月ってところだな。」
おいおいおい、冗談じゃねーよ。
あと3ヶ月で殺されてあのガキ共に食われるってのか?
こんな所はいずれ脱走してやろうとは思っていたけど。
のんびりしてる余裕は無いな。
それから俺は牧場で小型の鼠型魔獣やら土竜型魔獣やらを必死で狩って喰らった。
こいつらは普通の鼠や虫より不味いから避けてたんだが
もうそんな余裕は無いからな、とにかく魔獣を狩って喰らいレベルを上げねば。
そうして俺はスキル発動条件のLv10を達成して『超級:進化』スキルを発揮。
レッサーワイバーンからワイバーンへと進化を遂げた。
俺の首には低品質の従魔の首輪という魔道具が付けられている。
これがあると人間共の命令には逆らえない。
当然脱走を禁ずる命令を受けていた。
だが、レッサーワイバーンを従えるには十分だった低品質の首輪では
ワイバーンへと進化した俺を抑えるには不十分。
進化したことで首輪の効果を無力化し、ワイバーンの優れた飛行能力を得た俺は
このクソッタレな異世界での生家を抜けだしたのだった。
どういうことなのかと言うと
異世界転生もののネット小説でよくある主人公よろしく俺もチート転生者だったわけ。
前世でそういうの好きだったからねぇ。
あ、俺って異世界に人外転生しちゃったんだってすぐ気づいたわけよ。
そんでお決まりのステータスオープンとか試してみたらビンゴ。
『異世界言語翻訳』『超級:進化』『超級:鑑定』『魔石喰らい』
というスキルを持っている事が分かった。
『異世界言語翻訳』は異世界の言語を理解出来るスキル。
『超級:進化』は『進化』というスキルの最上位版。
規定のレベルに達すると上位種へと進化できる。
『超級:進化』は『進化』と比べると規定値が低く進化しやすい。
あと、進化時のステータスに超級のボーナスが付く。
俺はLv10で進化できたけど超級ではなく普通の進化スキルだったなら
レッサーワイバーンのレベル上限Lv99まで上げる必要があった。
『超級:鑑定』は目視した物の詳細を知れるスキルだ。
目視しなくても知れるけどな。
試しに、見たことは無いが名前だけは聞いて知っていた魔獣を思い浮かべて
『超級:鑑定』を試みたら発動した。
知りたい事は大抵なんでも知れるチートスキルだった。
『魔石喰らい』は魔獣が持つ魔石を食うとレベルに還元されるスキル。
最弱の鼠、土竜魔獣如きを倒して得られる経験値は少ないので
この『魔石喰らい』と併用しなければ3ヶ月以内にLv10に届くことは無かった。
『超級:進化』さんと『魔石喰らい』さんは命の恩人です。
こんなチートスキルを持っていたら人間に警戒されるか重宝されるのではないか?
と思うだろうがそうでもなかった。
レッサーワイバーンのような知能が低い生物はスキルが使えない
それがこの世界の常識だったからだ。
スキルを使うにはステータスで自分が持っているスキルを確認し
それを意識して使用しようとしなければ発動しない。
レッサーワイバーンはアホだしレッサーワイバーンがスキルを使ったという
事例が過去に一度も無いので俺のスキルはスルーされていた。
この世界、スキルを使えない種族に限ってとんでもないスキルを
持ってたりするんだよなぁ。
俺が直接見ただけでも
『超級:賢者』持ちのゴキブリとか
『超級:聖剣』持ちのカマキリとか。
俺の城の水槽で飼ってたアロワナに似た魚は『超級:勇者』だったなぁ。
宝の持ち腐れだ、どうなってんだこの世界。
まぁそういうわけでチートスキルを駆使して自由になった俺は
野生のワイバーンとしての人生を謳歌し順調に進化し続けた。
レッサーワイバーン→ワイバーン→飛竜→天竜→黒天竜→
暗黒天竜→暗黒邪天竜→暗黒邪天龍→ドラゴンゾンビ→
ドラゴンスケルトン→スケルトン→スケルトンソルジャー→
スケルトンナイト→アーマーグール→ハイグール→
レッサーヴァンパイア→ヴァンパイア→インキュバス→
サキュバス→インキュバス→ハイヴァンパイア→
ドラゴニュートヴァンパイア→吸血竜→吸血天竜→
聖天竜→聖天龍→聖邪天龍→暗黒天龍→暗黒天龍王→
暗黒天龍帝という具合に順風満帆な異世界人生だった。
途中で闇堕ちしたり1度死んじゃったり別種族に転生したりTSしてた
時期もあるけれど私は元気です。気にしないでくれ。
いやぁしかしこの10000年間で色々あったなぁ。
暗黒邪天龍時代は勇者召喚されて来た地球人を殺したり殺されたり。
逆に聖天龍時代は召喚勇者と共闘して魔王やら邪龍やらを倒したり。
レッサーヴァンパイア時代は人に紛れて冒険者とかやったなぁ。
ハイヴァンパイアの頃はスローライフだ!とか言って辺境開拓したなぁ。
最終的にはヴァンパイアの王国にまで発展したんだよね。
俺はそのままハイヴァンパイアとして過ごしたかったんだけど
邪龍に操られていた魔王に俺の国がちょっかい出されて
黒幕の邪龍を倒す為には龍の力が必要だったので龍種に戻っちゃったんだよね。
そんで今は暗黒天龍帝やってます。
暗黒天龍帝ってのは種族名なんだけど実際に皇帝でもあったりする。
世界統一して君臨してるからね。世界最強だからね仕方ないね。
世界皇帝になったのは今から約1000年前で9000歳の頃。
その前から種族は暗黒天龍帝だったけどね。
そして今日10000歳になったら自動的に暗黒古代龍帝に進化した。
古代龍への進化条件はレベルだけじゃなくて年齢も必要だったから。
これが龍種の最終到達点。もうこれ以上進化する事はない。
『超級:進化』さん今まで大変お世話になりました。ありがとうございました。
さて、古代龍に成って魔法能力が飛躍的に上昇した俺はふと閃いてしまった。
今の俺ならば地球に行く為の異世界転移魔法を作れるのではないかと。
この世界に地球人を召喚する一方通行の魔法は俺の目線で言えば簡単だ。
人間の国が勇者を召喚出来てたぐらいだからね。
でもこの世界から別の世界へ飛んだり飛ばしたりする魔法は俺でも不可能だった。
なぜ不可能なのか理屈は知らん。俺は魔法に関しては天才型で感覚でやってるから。
でも今ならいけそうな気がする。
世界皇帝になって1000年、平和すぎて俺は退屈してたんだ。
敵対的な強者は根絶やしにしちゃったし。
政治は優秀な配下達に丸投げしちゃえば世界は勝手に回って発展するし。
贅を尽くして遊び倒したからあらゆる娯楽に飽きちゃってやりたい事ないし。
世界皇帝の暗黒古代龍帝様は暇なのだ。
しかし世界皇帝って言葉の響、なんか間抜けすぎない?
そんなくだらない事を考えるぐらい暇だった。
なので双方向移動可能な完全版異世界転移魔法を開発して地球観光するぞ!
と意気込んでいたのが今から2000年前のわたしです。
皆さんお久しぶりです。2000年引きこもって魔法研究をしてた暗黒古代龍帝様です。
わたしのこと、覚えていますか?皆さんの世界皇帝ですよ、御年12000歳になりました。
本日、目出度く。完全版異世界転移魔法が完成したので研究室から出てきましたよ。
「セバスチャン、セバスチャンはおるか。」
「ここに。龍帝様、お久しぶりでございます。」
「うむ、久しいな。世界に変わりは無いか?」
「はい、100年ほど前に定時報告をした頃のまま世界は平和でございます。」
こいつはセバスチャン。俺の側近的ポジションをしている龍王種の男だ。
なんとかって龍王種だったはずだが正確な種族名は知らん忘れた。
ちなみに本名も忘れた。セバスチャンは俺が与えた役職名だ。
側近と言えば執事、執事と言えばセバスチャンだからな。
世界皇帝の筆頭執事はセバスチャンだと俺が定めた。
「そうか、我が世界帝国は平和か。よきかな、よきかな。」
「龍帝様が研究室から出るのは2000年ぶりですね、どうされました?」
「転移魔法が完成したのでな、研究は終わった。」
「おめでとうございます。」
「うむ、世界には問題も無いようだし早速地球に行ってみようと思う。」
「こちらに呼ばれた召喚勇者達が暮らしていた世界の惑星でしたかな?」
「そうだ、そして私が前世を過ごした世界でもある。」
「そういえば龍帝様の前世は勇者達と同郷と言うお話でしたね。」
「ああ、では行ってくる。100年以内には帰る予定だ、こちらの世界は任せた。」
「行ってらっしゃいませ。」
皇帝モードでセバスに偉ぶってみたがそれも暫くはお休み。
今から地球でバカンスだからな、俺はウッキウキで転移門をくぐった。
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