表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなワタシ(AI)でどうですか!?  作者: Matthew・S・H
第1部 Stand Alone!
9/16

第3話

 放課後になった。結局、俺はその日を悶々とした感情で過ごすことになった。

 授業中に行われた重要なオリエンテーションも、昼休みの和や知り合いとの何気ない会話も、何から何までおぼつかない時間を過ごした。俺は座ったまま考えに耽っていた。

「令くん?」

 この二日間でいろいろなことが目まぐるしく起こった。学校生活に不安を覚えていたかと思えば、幼馴染の和に会って、アイリーンにも会って、楽しい生活が始まったかと思えば、今度はテロリストから犯行声明が届いた! 一体どうすればいいのか自分でも分からなくなっている。

「聞いてんのか~!!」

 突然、右肩に感触があったかと思うと、体を揺さぶられて驚いた。無防備だった頭が右に左に揺さぶられて吐きそうになった。だが幸いにも考え事から脱することができた。

「なんだよ・・・・・・」

 俺は肩に置かれた和の手をゆっくりどかして言った。

「帰るよ~」

 和はいつも通り、いや、いつもよりだいぶ穏やかな口調のように感じたが、俺はそこに怖さとか緊張を隠すような意図をかすかに感じた。ほんの少しわざとらしかったのだ。

 俺たちが荷物をまとめて、寮に行こうとしていたが、後ろの席の一ノ瀬が声を掛けてきた。

「おう、お前のお兄さんにあったぜ」

「ああそうなのか、そのことで言っとくことがあるんだ」

「なんだ?」

「実は兄貴に頼まれたことがあってな、ふたりの家にいって荷物を取りに行ってこいだってさ」

「ああ、そうか」

「なんか大変なことになってるそうだな」

「なんだ、みんな知ってるのか?」

「んなわけ無いだろ? 俺は兄貴から聞いたのさ。こう見えて俺は口の堅い方だからさ」

「そうか、迷惑かけるな」

「いいってことよ! それで住所を聞いておきたいんだが」

 俺は住所を伝えた。和も俺の家に住んでると伝えると・・・・・・。

「ほう・・・・・・」

 一ノ瀬が、小学生のアホ面のように、にやりとした顔になった。

「もしかして、二人は付き合ってんのか?」

「いやいや違うって!!」 

俺は必死で否定したが、一ノ瀬の冷やかしの眼差しが止むことはなかった。

「ほらっ和もなんか言え!」

「うーん・・・・・・違うとも言えるしそうだとも言える!」

「誤解を招くようなこと言うなよ・・・・・・」

 あっはっはっ! と一ノ瀬は豪快に笑った。こりゃ完全に勘違いしているな・・・・・・。

「まあいいや、荷物のことは任せておいてくれ! PALの配車サービスで夕方までには届けられるはずだ!」

「助かる!」

 俺はあらかじめ作っておいた持ち物リストを一ノ瀬に渡した。彼はサンキューと言ってその場を後にした。

 やるべきことは済ませたので、俺たちは寮に行くことにした。敷地内ではあるが、校舎とは完全に離れていて、少し歩く必要があった。色の違うレンガが敷き詰められた広場を歩いていくと、やがて寮が見えてきた。

「あ、あった。あれが寮か~」

 寮は、見た目は3階建ての校舎とそれほど変わりない造りであったが、壁の所々にスプレーで落書きがあって、治安がすこし悪そうだった。校舎からは何本かの並木で隔てられているため、平愛高校の裏の顔、といった印象が強かった。

 玄関に近づくと、3人の白衣を着た女子学生がなにか作業しているのに気づいた。床に建てられた2メートルくらいの円筒の周りにたむろしていろいろといじっていた。おそらく上級生なのだろうが、なんだか怖い感じがしたので素通りしようとした。

「こんにちは~」

 と和が3人に挨拶をした。

「おっ、ちわ~」と一人の女性が気さくに返した。明るい茶色だがボサボサの髪を後ろで無造作に束ねていて、独特のダミ声だった。

「何してるんですか?」

「ロケット作ってるんだよ。週末飛ばすんだ」

「へえ」と俺も思わず相槌を打った。


 俺たちの部屋は、寮の一番端の日当たりが悪い部屋だった。安いビジネスホテルくらいの狭い部屋だったが、思っていたよりも清潔だった。ベッドが二つ、その横にそれぞれひとつ机とランプが置かれている。玄関のすぐそばにユニットバスが備え付けられている。

「ちょっとくらいね・・・・・・電気!」

 と和が言った。だが何も反応が無かった。俺は明かりが切れているのかと不審に思った。

「電気つけて!」

 と俺も叫んだが、やっぱり反応がない。

「電気! 電気! デ・ン・キ~!」

 和が一生懸命、いろいろな言い方で悪戦苦闘しているのを横目に、俺は別の方法があるのではないかと壁を探してみた。

 すると、玄関のインターホン装置のそばに、白い板状のものが付いていることに気づいた。

それは、どうやら中心が押せるようになっており、小さく緑の光が付いている。俺がそれをカチっと押してみると、部屋の電気が着いた。

「わっ!?」と和は驚いた。

「どうやってつけたの!?」

「これがスイッチらしいな」俺はスイッチを指さした。

 俺も内心驚いていた。祖父の家でしかこんなスイッチを見たことがなかったのだ。となると、寮が造られたのはずいぶん前になるな。

 見たこともないスイッチに、和は興味を示して、何度も何度も押していた。


夕方になって、俺たちが喋ってくつろいでいると、インターホンがなった。俺が画面を確認してみると、そこには有坂さんと一ノ瀬さん、配送業者の2人の男が荷物を持って立っていた。俺は玄関に行って戸を開けた。

「こんばんは」

「ああ、どうも有坂さん」

「頼まれた荷物持ってきてやったぜ」

「ああ、すまんな・・・・・・有坂さんはなんか用でも」

「そのことですが・・・・・・いろいろあって私があなたたち二人を見張ることにしました」

「えっ!? そうなんだ」

「私はここの寮に一人暮らししているので、何かあったら呼んでください。すぐに行きます」

 俺たちは荷物を受け取って、有坂さんたちはすぐに帰っていった。


 その日は、何も起こることはなかった。寮の食堂で夕食を済ませて、それぞれ風呂に入ったあとパソコンは後付けだったが1、2年前に発売されたもので、古いわけではなかった。ネットでニュースを聞きながら、俺たちは寝る準備をした。

「―今朝、北海道大学で、大学助成金の大幅な減額に抗議した学生らが講堂に立てこもり、火炎瓶などで機動隊に抵抗しました。警官2名が負傷し、およそ30名の学生が拘束されました―」

 正直俺は、自分が危機的な状況にあることを完全に自覚してはいなかった。実際に現実で起こっていることでさえ現実ではないと感じるのだ。いままで、一体どうすればいいか、そんな堂々巡りを続けていたが、それはただ自分がその状況にいることを否定したかったが故に、考えたくなかっただけなのだと、冷静になった今はよくわかる。だからといって、そこで結論が出るかといえばそうではないのだが・・・・・・。

「和」

俺は和を呼んだ。布団を整えていた和は振り向いて「何?」と答えた。

「お前、怖いか」

「うーん」ちょっと考えてから

「怖いかな」

「そっか・・・・・・」

 俺は率直に怖いと言おうと思ったが、それより前に和が答えた。

「でも、令くんがいるし、多分大丈夫かな!」

 そのとき、俺の心の中に浮かぶ感情がひとつあった。恐怖で濁った心の底から沸々と沸き上がってくるものがあった。俺が和を守らなければならない。そんな気持ちを抱きながら、俺は床についた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ