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こんなワタシ(AI)でどうですか!?  作者: Matthew・S・H
第0部 出会いと始まり
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第5話

 扉の先は、別世界のように思われた。宇宙戦艦の司令室といった感じだろうか。六角形の大きな部屋の中央に、円形の台座のようなものがあった。ホログラムの投影台だ。六角形の辺のそれぞれに金属製の重々しい扉がある。

「なんだか学校じゃないみたい」

 と和が言葉を漏らした。

「そうだな、入ってみるか」

 部屋に一歩足を踏み入れると、中央の投影台が起動した。台と、その真上にある装置から光が出て、やがて人型の3次元映像が投影された。それは金髪で、背はそれほど高くはない。俺たちと同じくらいの歳の少女だった。

「こんにちは、ワタシはアイリーンデス!」

「こんにちは!」

 と和は元気に挨拶した。さっきの不安な表情はどこへ行ったのやら。

「あの方からお話はうかがっておりマス! 菱川和さんデスね!」

「はい! あなたに一目会いたくて来ました!」

「Oh! それは照れマスね!」

 二人は、もうとっくに打ち解けたようだった。

 それにしても、俺は「アイリーン」に少し違和感があった。なんというか、AIにしては不自然すぎる会話だと感じたのだ。機械にしては明らかに会話が流暢すぎる。所々語尾が変だとはいえ、これが本物の人間だと言われても、まったく気づかないような会話をしている。こんな技術があるのか、と俺は信じがたい気持ちでいた。

「隣のアナタは・・・・・・鹿野令さんデスね!」

「ああ、はい、そうです。なんでわかったんですか?」

「愚問デス! PALシステムを使えば一目瞭然デス!」

「ああ、そっか」

「その隣のアナタは・・・・・・」

 「アイリーン」は大門先生を見たまま、数秒間黙っていた。なにか考え事でもしているのだろうか?

「ア、ア、アナタ、出ていくデス!!」

「ええっ!?」

 先生も驚きを禁じえないようだった。

「いいカラ出ていくデス! 今スグ! でないとシアンガスをぶっかけるデス!」

「ああっハイハイ出ていきますから! 出ていけばいいんでしょ!」

 先生はおどけたピエロのようにはねながらサッと部屋を出て行った。先生も怖がりだなあ、と俺は心の中でにやっと笑った。大体シアンガスなんてあるはずないだろ?

「どうして追い出しちゃうの?」

 と和はもっともらしい疑問を投げかけた。

「イロイロあるです! 今はお答えできません!」

 と「アイリーン」は答えをうやむやにした。

「それで、えっと・・・・・・」

 「アイリーン」は俺を指さしたまま言葉に詰まったようだった。もしかして、俺の名前を忘れたのか!? AIのくせにか?

「俺、令だけど」

「Oh! 忘れてマシタ!」

 今、完全に忘れてたぞこのAIは! 本当に機械だとは思えない!

「令さん、アナタまだワタシのことを疑ってマスね! 体温と脈拍がそういってマス!」

「おうとも、お前がAIだって信用ならないんだ、明らかに人間だ」

「そうね、確かに人間っぽいね」

 と和も賛同してくれた。

「ワタシのこと、人間だと思ってくれるんデスか!?」

「えっ?」

 いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけどな・・・・・・俺がかける言葉に困っていると、「アイリーン」の顔はくしゃくしゃになって、今にも泣き出しそうになっていた。

「っ・・・・・・びぇぇぇーーーーー!!!」

 なんでそうなるのかは分からないが、ついにダムが決壊した。勢いよく泣き出すと、とたんに俺たちの上から滝みたいに大量の水と泡が襲いかかってきた!

「―消火設備作動! 消火設備作動!―」

 スプリンクラーが作動したようだ! まったくなんて泣き方だ!

 やっと消火装置が止まった。結局俺と和は泡まみれになった。部屋の床は水浸しである。「アイリーン」はまだすすり泣いている。

「ワタジっ、ワタジっ、嬉しいデズっ! 人間だと認めてくれるんデスね!」

「あ、ああそうだな、げふっ」

 泡が口のなかに入りそうになりながら、俺はやっとのことで返事した。何が何だかわけがわからないが・・・・・・。

「では、これからワタシたちは友達デスか?」

「うん、友達だよ!」と和が泡の中から返事した。この状況を楽しんでいるようだった。

「友達デス、嬉しいデス!」

「ねえ、今度からアイちゃんって呼んでいい?」

「アダ名デスね! じゃあ私もノドカって呼ぶデス!」

「それ、あだなじゃないよ~」

二人は笑った。まるで俺だけ除け者にされたようだった。

「ええーっと・・・・・・ナンデシタッケ?」

「俺、令な」

「そう、レイデス! レイもワタシのことアイと呼ぶデス!

「えー?」俺は少し恥ずかしかった。

「いいカラ呼ぶデス」

「『アイリーン』じゃだめか?」

「まあ、それでもいいデスが、せめてカギカッコをはずすデス!」

「アイリーンでいいか?」

「GOODデス!」

 それにしても、めちゃくちゃなAIだな・・・・・・よく喋るわ、物忘れが酷いわ、スプリンクラーで泣くわ、こんなのが本当にAIなのか? と俺は思った。

 「アイリーン」・・・・・・もといアイリーンに別れを告げて、部屋を出た、扉のそばには大門先生が、罰が悪そうに立っていた。

「どうしたんだ? そんなに濡れて」

「まあ、いろいろあったんですよ」と和はにっこり笑って答えた。

「それにしても、あんなのが本当にAIなんですか? 中に人が入ってるんじゃないんでしょうね?」

「いや、正真正銘のAI、アイリーンだ。ただ・・・・・・」

「ただ?」

「壊れる前はあんな流暢には話さなかった。あれは異常だ! 最新鋭の並列コンピューターでもあんな会話できんぞ! それになんであんなめちゃくちゃな性格になったんだ」

「やっぱり、おかしいと思ったんですよ、何もかも分かりません」

 俺と先生は少し考えたが、結局地震でなんらかの不具合が起こってしまっているという結論が出た。もちろんありえない話である。

「まあ、いいじゃん」

 と、和は笑顔で俺たちに言った。

「まあ、そうだな」

 和の屈託のない笑顔で、俺のもやもやした心が少し和んだ。

「スプリンクラーも問題なく作動したようだし・・・・・・」

「いや、それなんだが」と先生が割って入った。

「あれは誤作動だ。あくまで“正常”に作動しなきゃならんから、たぶん審査は通るまい」

「そうですか・・・・・・」

 学校存続の一縷の希望が見えていたが、それも立ち消えになった。それでも、俺は諦めなかった。

「じゃあ、明日アイリーンに掛け合ってみましょうか? 正常に作動させられるかどうか」

「すまん、じゃあ二人に頼もうかな。俺を入れてくれそうにないからな」

 先生はそう言って笑い飛ばした。


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