第三話「とりあえず、『何をするか』を考えよう!」
そう言うと、カッペーは右手の人差し指でテルの顔を指差した。
「ええい、人の顔を指差すな」
テルは指差したカッペーの右腕ごと払いのけた。
「わっはっは、【キッチナーの募兵ポスター】だ」
「なんだよそれ」
「ググれ」
「検索しろってか。・・・えっと何だったけ?キッチンハイターの租税公課?」
「そうそう」
テルはカバンからスマホを取り出し、言われた通りに検索してみた。
「・・・なんだよ、花王のウェブサイトが出てきたけど?」
「画像検索だとどうだ」
「画像・・・なんかグラフとか犬猫の白黒写真が出てきたんだが」
「えー、なんでこんな写真が出てくるんだろう」
「いや、知らんけども」
「また話が脱線してるから元に戻そう」
「なんだったんだ、一体」
「で、だ」
カッペーは右手の親指と人差し指でアゴを摘んだ。
考えながら話すときのクセらしい。
「ユーチューバーじゃなくてもいいから、ひとまずネット上に【キャラ】を作ってもらう」
「ほう」
「本名と素顔を公開して活動してる人もいるけど、ひとまず【匿名】でやってみよう」
「ふむ」
「で、そのキャラは【何をするキャラなのか】を考えてほしい」
「うーん、何をする、って言われてもなぁ」
「逆に言うと、【何ができるか】が大事になってくるね」
「何が・・・できるか・・・か」
「まぁ、慌てて考える必要はない」
「でも、考えないと何も始められないだろ?」
「別に締め切りがあるわけじゃないし、焦ってもいいことないからさ」
「そう言われりゃそうか」
「『焦ることは何の役にも立たない。後悔はなお役に立たない。前者は過ちを増し、後者は新たな後悔を生む』とは【夢枕獏】先生の言葉だ」
「うーむ、深いな」
「元ネタは【ゲーテ】みたいだ」
「どういうことだよ」
「なるべく早く成功したいのは間違いないが、慌てて焦って失敗する必要はないってことだ」
「いや、それはわかるんだけど・・・」
「テル君に先駆けて、そういうことを考えてたヤツがいるわけだろ?」
「カッペーのことか?」
「まずはそいつの考えを聞いてみて、参考にしてみるってのも一つ手じゃないか?」
「なるほどね、それがいい」
テルの言葉を聞いたカッペーは、改めてスマホを手にし、何やら操作を始めた。
どうやらウェブブラウザにウェブサイトを表示しているらしい。
目当てのサイトが表示されたのを確認し、テルにスマホの画面を見せた。
「ん・・・?何これ、【小説家になろう】?」
「そうそう、知っての通り、国内最高峰の小説投稿サイトだよ」
「いや、オレあんまりよく知らないんだけど」
「かぁ~、マジかよ。【なろう小説】とか聞いたことあるだろ?」
「うーん、知らない」
「・・・まぁ、いいや。別に知らなくても」
「いいのか?」
「これから知ればいいし、そういうサイトがあるってことだけ知っておいてくれ」
「わかったよ」
「で、話の流れとして、オレが何を言いたいか、わかるか?」
「うーん、つまり・・・カッペーは小説家のキャラを作ろうと思ってるんだな?」
「ご名答。というかもう作ってある」
「え、どれどれ」
「この【98(きゅうはち)】ってのがオレだ」
「へぇ、もう小説は書いてるの?」
「小説・・・と呼べるような文章じゃないけど、一応投稿はしてある、これだ」
「『「小説家になろう」へ小説を投稿する前のテスト』ってやつか」
「そう。実際に文章を投稿する前に、サイトの機能を知るために書いたんだ」
「ふーん、で、ここで小説を書いて、それを売って儲けようって話か?」
「そんな大それた考えはないよ」
「じゃあどうすんの?なんだっけ、アカウント作ってサイト作って広告を掲載するとか言ってたけど」
「それはこっちだ、投稿者の名前を押すとマイページに移動する」
「うん」
「で、そこにあらかじめ作っておいた自分のブログへのリンクを貼る」
「これのことか?【98のブログを見てみる】ってあるけど」
「そう、そこから移動できる」
「へぇ、なんか凄いな。オレは、こういうのどうやったら作れるか知らないから」
「大したことはしてないんだけどな、まぁ、知りたきゃ後で教える」
「うん。で、下記のリンクをクリックって出てるけど、これを押せばいいのか?」
「それを押すと98のブログに移動する感じだ。押していいよ」
「おお、なんか出てきた。えっと『「多くの人が広告について詳しくなることで景気が良くなるかもしれない説」を検証中』ってこれ何?」
「それも知っておいてもらいたいことだから、後で教えるよ」
「そうなのか。なんか、難しそうなことを書いてるけど」
「そうでもないから心配するな。それと、広告が掲載されてるか確認してくれ」
「なんか【楽天】の広告が出てるよ」
「商品は何?」
「えっと、なんかパソコンの機械・・・ハードディスクとか?」
「あぁ、昨日だったかな、パソコンの自作しようと思って、そのスマホでそんな感じの検索したからかな」
「検索結果によって広告の表示が変わるんだ」
「そういう広告のサービスがあるんだよ」
「へぇぇ。なんか面白そうだな。これでいくらくらい稼げるの?」
「広告が表示された回数とかクリックされた回数によるみたいだけど、このブログ自体まだ作って間もないし読者もいないから1円も稼げてないよ」
「そうなのか」
「でも、例えば有名人が同じことをやった場合、当然ファン=読者がいるから表示される回数は多いし、その分クリックされる回数も増えるってわけだ」
「はぁ、なるほどねぇ。でもさ、こういうのって誰でもできるの?カッペーがやってるのはわかったけど」
「条件付きだが、基本的には誰でもできる」
「なんだい、その条件って」
「これも詳しくは後で話すけど、一番のネックは【年齢】だな」
「あぁ、そうか。でもカッペーがやってるし、未成年でも平気なのか?」
「やり方次第さ。オモチャで遊んでる子供のユーチューバーが何億も稼いだりしてるだろ?あれと同じよ」
「何それ、そんなことが起きてるのか?」
「テル君は野球やサッカーだけじゃなくて、もう少しネットの動向も気にしたほうがいいな」
「いやぁ、面目ない」
「まぁ、オレも記事で読んだくらいで、実際に稼いだわけじゃないから偉そうなことは言えないんだけどさ」
「でも、それって本当なのか?オモチャで遊んでるだけで何億も稼げるとか信じられないんだが」
「遊んでるだけじゃなくて、ちゃんと考えて作り込まれてるんだと思うよ。ただ我武者羅に、闇雲にやって成功できるほど世間は甘くないよ」
「そういうもんかぁ」
「また脱線してるから話を戻すと」
「うん」
「オレは【98(きゅうはち)】ってキャラを作ったわけだ。で、こいつは【ブログ】では【広告】について書いていて、【小説家になろう】では【オレたちの会話】を書く」
「そういや、さっきもそんなことを言ってたな、まだ録音してるの?」
「もちろん」
「でも、なんのためにオレたちの会話を文章にするんだ?意味がよくわからんのだが」
「オレがテル君に話しているのは、オレがやろうとしていることを理解してもらいたいからだ」
「うん」
「そして、その会話を文章にするのは、二度手間を防ぐためだ」
「うん?」
「さっき見せた98のブログに書いてあったこと、覚えてるか?」
「えぇっと・・・なんだっけ、大勢が広告を知ったら景気がどうのとか」
「【多くの人が広告について詳しくなることで景気が良くなるかもしれない説】だな」
「そうそう、それだ」
「要するに、オレは多くの人に広告の仕組みや、広告の在り方、広告そのものを知ってもらいたいと考えている」
「何のために?」
「何のって・・・景気が良くなるかもしれないからだよ」
「なんだか、話がよくわからなくなってきたなぁ」
「その考えについてもちゃんと理解してもらえるように説明するつもりだ。っていうか、さっきのブログにまとめていく予定だから参考にしてくれ」
「文字とか話だけだと難しいよ」
「だから、実践として、テル君にもキャラを作ってもらって同じことをして欲しいんだ。『百聞は一見に如かず』って言うだろ、いや、どっちかって言うと『習うより慣れろ』か?」
「いや、知らないけど、まぁ、そういうことになるのか・・・でも、オレは小説も書けないし動画も作れないからなぁ」
「オレだって小説なんて書けないよ。思ったこと、考えたことを文章にして書いてるだけだって」
「それならオレでもできそうだけどさぁ・・・」
「どうだい?ここまで話をして、何か思いついたことはないか?」
「うーん、ネット上にキャラを作るねぇ・・・」
「そうそう」
「で、オレができる範囲で、オレがやりたいこと・・・か」
「うん」
「あー、ん~・・・うん?んー・・・」
「どうよ」
「そうだなぁ、わかんないけど、【人生相談】とかってどうだろう?」
「いいねぇ、決まりだ」
「いや、ちょっと待ってくれよ、何となく言っただけなんだけど」
「そういう直感?ファーストインプレッション?って大事なんだよ」
「なんで疑問形なんだよ」
「まぁまぁ。でも、いいよ、マジで。たしかに、テル君がやりたいことに準拠してるし」
「うん、文章を書くのは苦手でも、会話というかコミュニケーションなら当たり前にすることだしさ」
「よしよし、いいね。その方向で話を先に進めよう」
「でも、なんだかなぁ、不安っちゃ不安だなぁ」
「とりあえず、やってみればいいんだよ、誰からも相談されなけりゃ、悩んでる人はいないってことになるし」
「そういうわけでもないと思うんだけど」
「そしたら、キャラの名前とか、年齢とか性別とか設定を決めようか」
「いや、性別は男だろ」
「別にいいんじゃね?要するに、そのキャラで別人に成りすまして騙したりとか詐欺とかをしなきゃいいんだよ」
「人生相談と詐欺じゃ大違いな気がするが」
「人を騙そうってやつは、優しい言葉を掛けたり、うまい話をしてくるもんさ」
「今のカッペーみたいにか?」
「わっはっは。うまい話をしてるつもりはないぞ?困難だし簡単にはいかないって説明したはずだが?」
「何億円稼いでるとか言われるとなぁ」
「あれはあくまで例えだよ、例え。世の中にはそういう人もいるってだけの話で、最低限の生活ができて、少し贅沢ができればオレは嬉しい」
「まぁ、オレもそうだけどさ」
「それに、やるかやらないかは、納得できるだけ話を聞いてから判断するって感じでもいいぞ。オレは無理強いはしない。やるかどうかの判断は、テル君自身が決めることだ。何をするにしたって、基本的には自分の責任だ。何かあって、オレのせいにするのは勝手だけど、やるのはテル君だし、責任もテル君にある。いくら匿名だからって、ネット上は【社会】だからな。逮捕されるのも炎上するのも自己責任だよ」
「いや、やるよ。疑うようなことを言って悪かった」
「その判断が大事なんだ。ネットだろうが、現実だろうが、何をするにしても、基本的には自己責任さ。人に言われただとか、何かに書いてあったとか、そんな言いわけするやつにオレは話をしたくない、ってのが本音だ」
「うん、大丈夫だ、そんなことは言わないよ」
「あぁ、ごめん。今のはテル君じゃなくて、文章を書くために言った感じ。忘れちゃいけないことだから」
「まぁ、たしかに重要なことだよ」
「ちょっとキツい言い方になったけど、それだけ大切な話ってこと」
「なるほどね。ところでさ」
「はい」
「この会話を【小説家になろう】に投稿するって言ってたけど」
「えぇ」
「オレたちの名前はどうする気だ?まさか、本名で書くわけじゃないよな?」
「そりゃそうさ、本名で書いたら、オレたちが【アシュラ】だってバレちゃうだろ」
「そうだよ」
「だから【テル】と【カッペー】にして書こうと思うんだが」
「それでもバレるだろ!」
二人の会話は、まだまだ始まったばかりだ。
2019/06/27 追記
なぜか後書きを書いてなかったので追記。とりあえず、そろそろ再開しようかな。