有象無象
「お前が人をどう思っているか本心はわからないがどうせ顔の区別すらできないだろう。その程度しか他人に興味を持っていないんだろう。そういうのは案外周りも気づいているもんだ」
そういわれて俺は怒りもわいてこなかった。その言葉がストンと自分に収まったのでむしろ納得した。
自分が人より上だと思っていたし、内心周りの奴らを馬鹿にしていたんだろう。
どこまでもやさしい友人であるこいつはそれを気づかせてくれた。
「なるほどな。お前の言うことはよくわかったよ。今後は気を付けてみるか」
こいつはなぜそんな俺とつるんでいるんだろうか。
「気を付けたところでお前が人に気を遣っているところは想像できないな」
確かに。それは同感だが。
「お前こそ似たようなもんだろう?」
俺は何か仕返しがしてやりたかった。さてなんと答えるだろうか。
「僕はいいんだよ。それを自覚しているからな」
開き直りやがった。だがこいつには勝てないな。
「全くお前に相談してよかったよ」
「そいつはありがたいね」
嬉しそうにしているが俺が言ったことが嫌味だと気付いていないのか?幸せな奴だな。
しかし俺が周りから嫌われていてこいつが好かれる意味が分からん。顔か?
「周りと上手くいくコツでも教えてくれや」
俺は期待などしていないが聞いてみた。こいつと同じことをしたとして同じように好かれるなど想像もできないからだ。
「そうだな。まあ僕もお前もあまりいい性格とは言えないからまず邪な考えを捨てることだな。何かを相手に期待する前にまずは相手の期待に応えなければね。もらってばかりじゃ悪いだろう?」
意外とまともな答えだった。俺はそんなこと少しも考えたことはなかった。
「そこからがスタートだ。人間関係は持ちつ持たれつだからね。こちらが助ければ相手も助けてくれる。打算を働かすならここまでやらないと」
なるほどな。確かにいきなり人に何かしてもらおうとしたところでそう上手くはいかないだろう。相手が以前よくしてもらったなら今度は自分が相手によくしてやろうと思うってことか。
「結局はギブアンドテイクということだな」
「言葉にしてしまうとそうだけど。それだと少しドライすぎるな。自分のできる範囲のことは相手にしてやるといい。例えばこちらが2与えて相手から1しか返ってこなかったとしてもそれ以上は期待してはいけないよ。逆もあるからね。しかし何かは帰ってくる。相手からもらう1がこちらにとって10と同じぐらいの価値がある場合もあるからどんな相手にもよくしておいて損はないんだよ」
こいつがいつも幸せそうな利用が少しわかった気がした。だからと言ってこいつの言うことを全て実行する気にはなれないが。
「全くさすがだな」
「だろう?」
自慢げなこいつには腹が立つが俺が言い返せることは一つもない。
「だが俺がお前に何かしてやった記憶はないがそれでも俺とつるんでいるのには何か理由があるのか?」
ずっと疑問だったことを聞いてみた。
「なんでもさっきの話に当てはまるわけではないよ。例外はある。それがお前だ。僕だって誰にでもこんな話をするわけではないよ。こんなことを言える友人はお前くらいのもんだ。たまには愚痴をこぼしたりやガス抜きが必要だからな」
「俺はお前にとって都合のいい奴ということか」
「でもお前は満更でもないんだろう?」
にやりと笑う顔をはたいてやりたかったが図星だったので何も言えない。こいつにはこんな扱いをされても全く腹は立たない。
「最高の友人だよお前は」
俺はまた嫌味を言ったがこいつは嬉しそうな顔をしている。全く効いていないな。
俺たちはこの先こんな形でずっとつるんでいるんだろう。そんな予感がしていた。
結局何があってもお互いを本当に嫌いになることはできない。
なんだかんだ言いつつも笑いあっているんだろう。