面白いはなし
こんこん、と。
だしぬけにノックの音が聞こえてすこし、ビクッとする。
俺はスマホから目を上げて、相手の声を待った。
けれど、予期に反してドアの向こうはただ、しんとするばかり。
「…なに?」
じれったくて、俺の方から声をかけてみる。スマホは手に持ったまま。
誰とは訊かない。
こんな時間、夜中の一時過ぎだ。だいたい限られてくる。
どーせ妹の美咲――みー子だろう。
うちの大人はみんな、夜更かしとは無縁だから。
…不思議と返事がなかった。
最初のノックから、十秒ぐらいは経った気がするのに。
スマホを置く、くらいのことが妙に億劫で。
俺はそれを手にしたままで、おもむろに立ち上がる。
…なんやねん、と。
若干面倒くささを感じつつ、ドアに向かう。
(ドメスティック・ピンポンダッシュか?)
なんて、しょうもないことを考えて、ノブに手を伸ばして。
一応確認しておこう、と。
――きいぃいい…
軋ませながら、ドアを開ける。
じいちゃんが立っていた。うおっ?!
「じ、じいちゃん?!」
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…まあ、あたしが悪かったんだろう。
彼もきっと、たぶん頑張ったのだ。
とはいえ、『面白いはなし、して♡』
っていうあたしのむちゃぶりに。
『まかせろ!』
なんて、頼もしい顔つきで応えたのは彼なので…
ぶっちゃけ、もちょっと頑張ってほしかった。
「…えー。ホントにおじいちゃん登場でおしまいなの?」
一応、そう訊いてみる。
オチもへったくりもないはなしに、あたしゃ付き合わされたのか、と。
うろんな目を彼に向ける。と、
「…聞きたい?」
なぜかちょっと、意味ありげな笑みを口元に置いてそんな風に尋ね返してくる彼。
質問に質問しやがった…!
「う、うん」
「…いや、実はさぁ――」
あたしが苦笑気味にそう頷くと、彼がからだをずい、と近づけてきた。
…なんだろ。
妙な興奮を感じるぞ。
よっぽど面白いオチが語られるんだろーか。
なんて思いながら、彼を待つ。
そうして――
彼は口を開いた。
「じいちゃん――先月死んでんだよね」