初めての友達
投稿し忘れてました!
翌朝いつもよりも少しばかり早い時間に眼を覚ます。
「早く起きすぎたな。よし、少し早いけど鍛錬でもするか」
魔獣に襲われた後、父に頼み込み訓練の先生を用意してもらい、武術を習っている。
魔法は母のフェリーネから教わっている。
フェリーネは凄腕の魔法使いであり、帝国でも広く名を知られた人物である。
今は魔法の腕では無く、社交界の大物として名が通っており、母が出席するかしないかで、格が変わると言われるほどの影響力を持っている。
運動着に着替えて庭に向かう。
軽くストレッチした後にジョギングする。
その後は木剣を持ち素振りを行う。
素振りを100回を超えた辺りで、指導役の剣士が来たのでいつもの様に剣を習う。
一応実戦用の剣術と貴族の子弟が全員習う、宮廷式の物も教えてもらう。
勿論比重は実戦式の方が多くの時間を割いている。
一応一通りの型は教わったが、まだまだ身体に馴染みきっては居ないのでひたすら反復練習あるのみだ。
小一時間ほど剣術の先生と打ち合った後は、反省点などを色々と言われる。
それをしっかりと聞き、朝食の時間が来たので軽く井戸で汗を流してから向かう。
それにしてもこうして毎日稽古を受けて、バルフィナンス侯爵家が戦に強い理由の一端がわかった気がした。
先ず、他家と違ってバルフィナンス侯爵家には戦専属の兵士の数が違う。
ちゃんとした常備軍がおり、日々訓練に明け暮れている。
他家の場合は領民をそのまま招集して、武器を持たせるだけなのが殆どである。
まあ、一応最低限の訓練はさせてはいるらしい。
その点バルフィナンス侯爵家は、領民にも自分を守られようにと週に一度は集めて、兵士達が訓練を行なっている。
その分の手当も出しているので不満は出ていない。
そうするとバルフィナンス侯爵家の財政が破綻しそうに思えるが、貿易などで儲けており他家の貴族と違い無駄に宝飾品などを買わないので大丈夫である。
それに魔石鉱山も発見したので、さらなる収益が見込めるだろう。
閑話休題。
朝食を食べ終えると、早速何時もの場所へと馬車を向かわせる。
ワクワクしている様子が使用人達にも伝わったのか、微笑ましいものを見るような目で見て来る。
少しこそばゆく感じながらも、努めて視線を受け流した。
暫く進むと目的地の川に到着する。
「どうやら二人はまだ来て居ないみたいだな」
「そのようで御座いますね。馬車の中でお待ち致しますか?」
「いや、川のほとりで涼んでいるよ」
そう言って、いつもの様に護衛達を待機させて川のほとりに向かう。
10分ぐらい川のほとりで涼んでいると「お!エル!今日は早いな!」と遠くから声が聞こえて来たので、そちらの方を向くとラックとミュゼがこちらに歩いて来ていた。
「二人とも、おはよう」
「おはようエルくん」
「おう!おはよう!」
ラックは相変わらず元気いっぱいである。
「それにしても今日はどうしたんだ?いつもより早いじゃないか?」
「ああ、実はな。二人を家に招待しようと思ってな」
「えっ!エルくんの家に!でも、エルくんって良いところの商人とかの子供だよね。いつも良い服とか着てるしさ。私達が行っても本当にいいの?」
「そんな事気にすんなよなミュゼ。エルが良いって行ってるんだぜ?」
「もう、ラックは少しズボラ過ぎるのよ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。大丈夫だってちゃんと両親の許可も貰っているからさ。そうだ。先ずは君達の親御さんにも挨拶しといた方が良いよね。案内してよ」
「おう!任せとけ!付いて来いよ」
ずんずんとラックは村へと歩いて行く。
「ちょっとラック!もう!勝手なんだから。良いよエルくん行こう」
ミュゼはエルの手を取り村へと向かう。
その様子を遠くから護衛達は微笑ましそうに見て、静かに後から付いて行く。
ミュゼに手を引かれて歩く事20分程で、村が見えて来た。
「へぇ、結構大きな村だね」
「だろ?冒険者組合の支部は無いけど、出張所はあるんだぜ?だから村には冒険者もいるし、それを目当てに商人も来るから結構賑わって居るんだ。ほら、村の近くのあそこに大きな森があるだろ?あそこに冒険者達が依頼の薬草の採取とかに行くんだ。俺も行きたいけど、森の中には危険な獣や時々魔物も出るらしいから、子供は立ち入り禁止で中に入れるのは猟師のオッさんや、村長から許可を得た冒険者や大人達だけだよ」
確かに大きな森が見えるな。
それにしても立派な木の柵を建てているな。
村の周りをぐるっと囲む様に、木で柵を設置してある。
村の入り口には木製の槍と革鎧を着た若者が立って居た。
「お〜い!ベン兄ちゃん!」
「ん?彼はラックの兄なのか?」
「違うよ。まあ、村のみんなは家族見たいなものだからね。小さい子供は、自分よりも上の村の子供が親に代わって面倒を見たりしてるから、兄弟見たいなものよ」
「なるほどね」
向かうもこちらに気付いたのか手を振り返してくれる。
「よう!ラック、ミュゼ。今日はえらく早いな。どうしたんだ?ん?そっちの子は?」
「友達のエルだよ。これからエルの家に行くんだけど、母ちゃんから許可を貰いに帰って来たんだけど、母ちゃん達はまだ村の中にいる?」
「ああ、まだ村の中にいるぞ。わかったそういう事なら入って良いぞ」
そう言ってベンは村の入り口の扉を開けてくれる。
村の中に入ると、ラックに先導されてその後を付いて行く。
「それにしても冒険者の数が多いな」
「ええ、何でも森の中の薬草が人気の品らしいわよ。だから数多くの冒険者が集まって来るのよ」
「おう!それに商人のおっちゃんとかも来てな、色々と面白い話を聞かせてくれたりするんだぜ!」
二人は楽しそうに村での生活などを話してくれる。
そして暫く歩いていると、ラックが一人の女性の話しかける。
「母ちゃん!」
「ラック、帰ってきたのかい?今日はやけに早いね。父ちゃんの手伝いでもしに帰って来たのかい?」
「違うよ。今日は友達の家に行きたいんだけど良い?」
「別に村の中なら行っても良いって前にも言っただろ?」
「違うよ。今回はいつも話してるエルの家に行くんだよ」
そこでエルビンは一歩前に出て「初めまして。エルビンと申します。本日はご子息のラックくんを我が家に招待したく参じました。出来ますれば母君の許可を得たく存じます」と丁寧に挨拶すると、ラックの母親は戸惑いながら「あ、いや此方こそ丁寧な挨拶をありがとうね」と困惑気味に返事を返して来た。
少し丁寧過ぎたかな?とエルビンは思う。
「ちょっと失礼」と言ってラックを連れて少し離れて行く。
身体強化魔法を使えば聞き取れない距離では無いが、使うのは失礼だと思い使わずにしておく。
暫くするとラックが頭に拳骨を落とされていた。
そして話し合いが終わったのか戻って来る。
「頭の足りないラックですが、これからも仲良くしてあげて下さい」と丁寧に頭を下げられる。
「いえいえ、ラックには良くして貰ってますよ。頭を上げて下さい」と言って頭を上げさせる。
「では、ラックを家に招待してもよろしいですか?」
「ええ、勿論です。ミュゼの両親には私の方から言っておきますので」
「わかりました。では失礼します」
ラックとミュゼを連れて村の外に出ると、一台の馬車が停まっていた。
「うわぁ!見ろよ!スゲェ馬車だぜ!」
「うん!綺麗な馬車だね」
「二人ともこれに乗って行くよ」
そうエルビンが声を掛けると、二人共驚いた顔をしていた。
「ええ!マジかよ!こんな豪華な馬車に乗れるなんて!エルと友達でマジで良かったよ!」そう言ってバシバシとエルビンの背中を叩く。
その様子を使用人達が少し、眉間に皺を寄せるとそれを鋭敏に察知したミュゼがラックを突き飛ばして「ありがとうエルくん」と言いさりげなく頭を下げて使用人達にも詫びる。
突き飛ばされたラックは「何すんだよミュゼ」と文句を言っているが、ミュゼはそれには取り合わずに「乗っても良いエルくん?」と質問していた。
「勿論だよ。どうぞお嬢様」と言ってミュゼに手を貸して馬車に乗せる。
「ラックも早くおいでよ」と言うとぶつくさ言いながらも、素直に馬車に乗り込む。
「出してくれ」と御者に言うと「畏まりました」と言い、馬車が動き出して行く。
二人は馬車の内装を見たり、窓から見える外の景色を見たりと視線が忙しなく動いていた。
「そうだ。クッキーがあるけど食べる?」とサイドテーブルに置かれた包み紙を指差す。
「おう!」
「うん」と二人が返事をしたので、包み紙を開けて中からクッキーを取り出して二人に渡す。
「うまいな!」
「うん♪甘くて美味しい」
二人は喜んでクッキーを食べている。
暫く進むと漸く領都バルーズが見えて来た。
「おお!でっかい城壁だな!あれって領都か!」
「本当だ!大きな壁ね」
バルーズに気が付いたラックが声を上げる。
「そうだよ。あれが領都のバルーズだよ」
「へぇ〜あれがか。やっぱでかいな」
「うん、とっても大きいね。エルくんは彼処に住んでるの?」
「そうだよ。バルーズに住んでるよ」
「エルは都会っ子ってやつだな」
「もう、ラックったら何言ってるのよ」
「あれ?違ったか?」
そんな会話をしているうちに屋敷に辿り着いた。
「なあ、これが家なのか?」
「ちょっと……予想よりも大きいかも」
「てか!これ城じゃないか!?」
まあ、確かに最初は城として建てられたけど、その後を居住性を上げるために色々と改築したと聞いたけどな。
見た目はまんま城のままだしな。
ノイシュバンシュタイン城に似ている綺麗な城だしな。
「やっぱりエルくんってお貴族様?」
「えっ!?そうなのか!?」
「まあ、別に隠してた訳じゃないけど、確かにこの領地を治めるバルフィナンス侯爵家の者だよ」と告げる。
「マジかよ!!!」
「やっぱりそうだったんだね。普段の仕草から何となくそうじゃないかと思ってたんだ。でもこれでスッキリしたよ」
「貴族とわかってもこれまで通りに接してくれると嬉しいな」
「当たり前だ!俺たちは友達だしな!」
「もう、素直に少しだけそのお気楽さは羨ましいよ。勿論私も今まで通りにするよ」
「ありがとう。二人とも」
何だか胸のつかえが取れた気がして、晴れ晴れとした気持ちになる。
そして漸く城の前に辿り着いた。




