魔石鉱山発見
記憶を思い出してから数日、エルビンは今雲の上に居た。
バルフィナンス侯爵家が所有する飛空船に乗っているのである。
あの後母のフェリーネを味方に付け、父のカザールから飛空船を一隻借りて領内散策に出掛けたのだ。
一応過去に二、三回飛空船に乗って領内を見て回った事があったので、もしかしたら記憶が少しは戻るかもしれないと許可が降りたのである。
朧気な記憶を頼りに、魔石がありそうな場所を飛ぶ。
暫くすると、船長が異常を知らせにやって来る。
「この辺りの魔力濃度が異常な程高いです。すぐに避難しましょう」
魔力濃度が高い場合、殆どは凶悪な魔物や魔獣が生息している可能性が高い、だからこの船長の判断は間違いとは言えないだろうが、今回ばかりは違う。
何故魔石の鉱山が発見され難いのか?それは殆どがその魔力濃度の原因が魔物や魔獣だからである。
だが、今回は断言させて貰うが違うと言えるだろう、何故なら地面の景色を見れば一目瞭然だからである。
山は禿山だが、山の下は異常な程草木が生い茂っている。
「これは、当たりだな」
「エルビン様、何か仰いましたか?」
侍女が聞いてきたのでエルビンは禿山を指差して「彼処、光ってない?」と答える。
すると侍女は指差して場所を凝視して「確かに光って見えますね」と言う。
侍女の言葉を皮切りに、他の船員達も山を見る。
すると一人の部下が「もしかしたらあれって魔石か?」と呟く。
その部下は魔物や魔獣を討伐した経験が何度となくあり、魔物や魔獣から魔石を採取した事があるのである。
「何!?だとしたらあの当たりの光って見えるのが全てか?だとしたらとんでもない事だぞ!」
「ええい!今はそんな事よりもエルビン様の身が大事だ!一旦引き返して後で調査隊を派遣すれば良かろう!」とベテランの兵士が言うと、皆納得して頷き飛空船は旋回して発着場へと引き返す。
発着場へと飛行船が到着すると、早速父カザールへと船長は報告に向かう。
暫くするとカザールの命令で兵士達が次々と用意された飛空船3隻に乗り込んで行く。
そして3隻の飛空船は旅立って行く。
その光景を屋敷の自室の窓からエルビンは眺める。
(これで魔石は一定量を常に確保出来るだろう。国に幾らかは納めなければならないだろうが、新造船を数隻作るのも可能だし他の領地に魔石を売って資金を稼ぐも良しだ。多分これ以上の事は、幼い今だと出来ないだろうな。いや、まだ人材確保があるか。物語の後半は人材不足で職人の弟子やまだ未成年の学者も即戦力とされた。実際頭角を表す者も居たな。それを確保すれば良いだろう。………後は将来に備えて飛空船での戦い方や、体を鍛えなければならないだろう。
今の飛行船の使い方は主に兵員輸送や食料輸送などが主な役割だったな。
他の航空戦力と言えば飛竜乗りしか居なかったな。
まあ、飛空船は今はまだ貴重であるからあまり前面に押し出して使えないのだろう。
確かゲームのスタート時の年齢は今から9年先の15歳からだった筈だ。それまでに大きなイベントは…………ああ!そう言えばどっかの国と戦争があった筈だ。それで主人公は難民として王都の教会に流れ着き、そこで治癒魔法の才能を開花させて教会の援助もあり学園に入学する予定だった筈だ)
「何処だ?何処の国と戦争になるんだ?可能性のある国が多過ぎてわからないな。今の世界情勢も知らないし、教えて欲しいって言っても僅か6歳の俺に教えてくれるとは思えないしな」
勝つ事は分かっているが、確かその戦争によってエルビン従姉が亡くなる筈だ。
それでエルビンの幼い精神に多大な影響を来す初めての出来事だった筈だ。
だからこそ必ず助けて見せる。
先ずは人材集めから始めるか。
先ずはこのバルフィナンス侯爵領にいる者達から集めよう。
物語後半ではエルビンの圧政に苦しむ者達の中に、数人ばかり良い人材が居た筈だ。
その中に新たな魔導動力炉を開発した若き天才も居たな。
後は教育の見直しもしないと行けないな。
このゲーム世界の識字率はとても低い。
殆どが貴族か商人だけしか出来ず、殆どの平民は理解していない。
だからそれもいずれは改革しなければならないだろう。
■
「失礼します。件の山から確かに魔石が発掘出来ました。山周辺の安全も確保出来たとの事です」
部下の声には喜色が滲み出て居た。
それもそのはずである。
魔石を得るには危険な魔物や魔獣を討伐しなければならず、少なからず死者が出る。
だが、採掘出来る場所はごく僅かであり、広大な帝国全土の必要とする供給量にはとても足りない。
なので新たに魔石が採掘出来る場所が見つかり、しかも自領内となればその価値は計り知れない物になるだろう。
「そうか、ご苦労だったな。新たに部隊を組織して送り込む。それまでしっかりと防衛してくれ」
「はっ!」
魔石が採れるとなれば、良からぬことを企む者も出て来るだろう。
取り扱いには十分に注意しなければならない。
本格的に稼働させるには暫く時間が掛かるだろうが、十分に投資して見返りも得られる物である。
先程の部下とは別の者が新たにやって来る。
「失礼します。例の魔獣の足取りが掴めました」
「報告してくれ」
「はい。あの魔獣共はこのミトン商会が捕らえ、この領地へと運び込んだようです。何でもとある貴族に依頼され運び込むルートも指名されたそうです。怪しい依頼と思ったそうですが、提示された金額に二つ返事で了承したようです。それに調べたところ、何回かこの手の違法取引をこの商会は行っており、今回も何時もと同じだと判断したようです。それと例の魔獣を運んで居た檻を確認したところ、数カ所人為的な切れ込みが入っており、通常よりも檻の耐久力が低い事がわかりました」
「依頼した貴族とやらは判明したのか?」
「いいえ、残念ながら間に仲介人を入れておりその仲介人も遺体で発見されたとの事です。これ以上の調査は難しいかと」
「わかった。通常よりも警備体制の強化と見直しを実地せよ。同じことが二度と起きないように励んでくれ」
「はっ!」
バルフィナンス侯爵領は広大ではあるが、警備隊や領兵が定期的に領内を巡回しているので、野盗の類や魔物や魔獣が比較的少なく治安の良い領地である。
それに兵も強く隣の領は親類であり、エイラムの武の象徴と言えるトゥーラム公爵領である。
時折、マサイアスが兵士達を訓練してくれるので、エイラム帝国の数ある貴族家の中でも突出した強さを持つ。
なので、普通ならちょっかいをかけて来る輩は居ない筈である。
「舐められたものだな。必ず尻尾を捕まえてみせる」
カザールはそう一人呟き、書類仕事に戻る。




