バルフィナンス侯爵家②
バルフィナンス侯爵家執務室
「それで、他に魔獣や危険な獣は居たか?」
そう質問するのは、黒髪青目の男性である。
この人物こそエルビンの父である、バルフィナンス侯爵家当主のカザール・フォン・バルフィナンスである。
「はっ!領内には他に二匹の魔獣を確認し、これを駆除致しました。引き続き警備隊には探索を行わせて居ます」
報告するのは警備隊の隊長である。
「それと併せて何処から侵入して来たか探らせろ」
「了解しました」
「下がって良いぞ」
「失礼します」
敬礼して隊長は出て行く。
「失礼します。旦那様」
執事長のデキルが入って来る。
このバルフィナンス侯爵家の使用人序列二位の男である。
「どうした?」
「はい。エルビン様がお目覚めになられたようです。しかしどうやら記憶の一部が欠落したとの報告がされてます」
「何!?それは本当か!」
「はい」
「そうか、それにしても何故エルはあんな所に居たのだろうか?」
「何でも村娘を助ける為に林の中に行ったようです」
「いや、そっちじゃない。何故屋敷から抜け出したのかだ」
「多分ですが、飛空船を見に抜け出しただと思います。小さい頃からエルビン様は飛空船がお好きでしたから。今日は丁度定期便の到着の日で御座いますし」
「そうか、そうだったな。最近は仕事が忙しくてあまりあの子に構って居られなかったからな」
カザールは最近父から侯爵位を引き継ぎ、バルフィナンス侯爵家の当主になった。
それまでも父の仕事を手伝って居たが、やはり当主となると忙しさはだいぶ違う。
カザールの父は今、母親と一緒に小旅行に出掛けて居て居ない。
因みに使用人序列一位はカザールの父と母の旅行に付き添っている。
「これからはあの子には護衛を付けて置かないとな。それも信頼出来る者が良いだろう。誰かあの子と近しい年齢の子は居たか?」
「はい。何人か心当たりが御座います。それと実はエルビン様は最近良く抜け出しており、街の孤児院に通っているのはご存知でしょうか?」
「そうなのか?」
「はい。しっかりと護衛の者は付けております。今回は気付かずに申し訳御座いませんでした。如何なる処罰も覚悟の上です」
「いや、良い。私がちゃんと目を掛けてやらなかったのが原因でもある。それと何故孤児院に行っているのだ?」
「どうやら、お友達が出来たようです。どうでしょうか?彼らをエルビン様の側仕えにして見ては?」
「ふむ。面白そうだな。良いだろう孤児院には話を通しておけ。それと寄付金も出してやれ」
「畏まりました」
「それと紅茶をくれないか?」
「すぐにご用意致します」
一礼してデキルは執務室から出て行く。
カザールも書類から目を離して、窓際に行き外の光景を眺める。
「戦乱の気配が漂って来おったな」
■
あの後再び目を覚ますと、フェリーネに膝枕されて居た。
「おはよう、エル」
「母様……」
「無理に言わなくても良いのよ?先程は取り乱してごめんなさいね」
「いや、その………いつか必ず思い出してみせます!」
「ふふ、確かにショックだったけど、これから一杯一緒に思い出を作って行けば良いわ」
コンコンコンと部屋がノックされ入って来たのは、黒髪青目のエルビン顔立ちが似た人である。
「リーネ。エルは目覚めたと聞いて来たんだが、その様子だと目が覚めた様だね」
「ええ、エル。カザールよ?貴方の父親だけどわかる?」
「すいません」と素直に謝罪すると、カザールとフェリーネは哀しそうな顔になったが、すぐに微笑み「焦らなくても良い。ゆっくりと思い出していこう」と優しく言ってくれる。
「今日の夕食はエルが好きな物を用意したよ。これで少しでも記憶を思い出してくれると嬉しく思うよ」
優しくエルの頭を撫でながら、カザールはそう告げる。
「まだ、夕食までは時間があるね。それまではゆっくりとしてなさい。私はまだ少し書類仕事が残っているから、それを終わらせて来るよ」
そう言ってカザールは部屋から出て行く。
■
それから暫くしてフェリーネも何やら用事があるらしく、名残惜しそうに部屋から出て行き、自室にはエルビン一人になった。
「何でこの世界に転生したのかは知らないけど、折角の第二の人生だ。あんなバットエンディングは嫌だな。それにこの世界は戦争が多すぎる。死なない為にも強くならなくちゃな」
そう言えば、確か物語の後半にこの領で魔石が取れる鉱山が発見された筈だ。
場所は曖昧だけど、飛空船に乗せて貰って領地を散策すれば見つかる筈だ。
確かバルフィナンス侯爵領は北海道並みの大きさだった筈だ。
だから馬や馬車での移動は大変だな。
まあ、飛空船は大手の大商会で漸く中古を一隻持てるかどうか。って用語集か何かで見た気がするな。
領地を見て回る理由はそうだな………将来自分が治める領地の事を知りたい。とでも言えば良いだろうか?少し子供っぽくないか?でもそれぐらいなら少し早熟ってぐらいで変には思われないかな。
取り敢えず覚えているうちにゲーム知識や、現代知識を紙にメモして行く。
だが、これは見られたらヤバイ物なので書き終わると、部屋の中にある隠し棚に鍵箱の中に入れてから隠した。
暫くすると侍女の一人が、夕食の準備が整ったと伝えに来た。
食堂に行き一家揃って夕食を楽しんだあと、部屋に戻り眠りについた。
因みにあの村娘は無事に村に送り届けたらしい。




