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西方決戦・後編

 数日後、ガルゾルの作戦通りに敵本隊の誘引に成功した部隊が帰還した。


 何故か少しガルゾルはボロボロだったが、その理由を黙して語らず、憐れみに似た目をエルビンに向けて来たので、謎が深まるばかりであった。


 だが、今はそんな事よりも目の前の敵である。


 数日に渡る嫌がらせじみた攻撃に、敵兵士達がイラついている事が、数キロメートル離れた此処からでも、いやでもわかる。


 敵もこちらの軍勢に気付いたのか、横隊に部隊を変化していく。


「どうやら此方に気付いたようですね」


「そうだな。では手筈通りに頼む」


「わかりました。いくぞグレキンス」


「はっ!」


 エルビンはグレキンスを伴い自軍の元へと向かう。


 ちょうどエルビンが自軍に戻った時、敵軍が動き出した。


 先ずはガトーレン連合王国の先鋒5千が前進を開始する。



 先鋒の軍勢は、重厚な鎧を見にまとった重装歩兵である。


 敵はいきなり主力部隊を出してきた。


 多分ラクラトルト辺境伯軍の長弓部隊を警戒してだろう。


 ラクラトルト辺境伯軍の弓兵は、通常の弓兵の実に2倍近く長い射程とあり得ないほど正確無比な命中率を誇る精鋭部隊である。


 更に警戒すべき騎馬隊も、殆どが機動力を重視した軽騎兵なので、重装歩兵に突っ込ませるのは得策では無い。


 エルビン率いるバルフィナンス侯爵軍は、そもそも今回は歩兵が主で騎兵は小隊規模しか用意出来て居ない。


 どうするのかと、ラクラトルト辺境伯軍の様子を伺うと、普通に先ずはセオリー通りの弓の応酬を始めた。


 そのまま黙って様子を見ていると、いきなり敵先鋒軍の最前列が崩れる。


 何事かと目を凝らすと、最前列の兵士の幾人かの足が、地面に仕掛けられた落とし穴や、雑草で編んだ簡単な罠に引っかかっているのである。


 よく見たら気付く程の拙い罠だが、上空から降り注ぐ矢の雨に、どうしても意識が上を向き、足元が疎かになったのだろう。


 体勢を崩した所に、矢が突き刺さりそれで更に混乱が広がる。


 一人が倒れると、密集隊形の為に周りにも揺らぎが生まれ、それが連鎖的に広がっていきより多くの犠牲を出して行く。


 しかし敵も精鋭であり、すぐに混乱から立ち直るが、その僅かな隙にいつの間にか飛び出していた、騎馬民族とケンタウロス族が突撃して、敵を切り裂いて行く。


 それに気付いた、敵軍が重装騎兵部隊を出すが、敵の重装騎兵部隊が到着する前に、軽騎兵が中心の騎馬民族とケンタウロス族達は、悠々と矢を放ちながら離脱した後であった。


 敵重装騎兵部隊は、深追いはせずに本陣に戻ろうとするが、踵を返すと騎馬民族達は、その後ろから矢を射かける。


 嫌がらせの様にチマチマと付かず離れずの距離で、矢を射かけられて激怒した数騎が後ろに向かうと、騎馬民族達は見事な手綱捌きで数騎を翻弄して囲んで叩いて行く。


「ええい!煩わしい!野蛮人共を早く倒さんか!」


 ガトーレン連合王国の指揮官の一人が、激昂して部下達に命じる。


 後方で待機していた軽騎兵部隊を向かわせる。


 これでガトーレン連合王国の後方の騎兵部隊を全て導入された形になる。


 残されたのは、レリジオーネ法国の騎兵部隊600騎のみである。



「作戦通りに、敵の騎兵部隊の釣り出しには成功しましたが、中隊規模の騎兵部隊がまだ残っておりますな。あれはレリジオーネ法国の騎士共です。奴らは少ないとは言えど、ちと厄介な相手ですな」


「大丈夫だよ、グレキンス。もう間も無くレリジオーネ法国はこの戦線から離脱する筈さ」


 エルビンがそう言うのと同時に、レリジオーネ法国軍が突如撤退を開始した。


 一瞬罠かと警戒したが、ガトーレン連合王国の動揺を見る限り、罠ではなさそうである。


「一体全体どう言うことですかな?」


「何、簡単さ。レリジオーネ法国の敵は私達だけでは無いと言うことだよ」


 エルビンがした事は簡単である。


 レリジオーネ法国の守りの要である法騎士達の大半が、自国を離れてエイラム帝国に遠征に来ている事を、ドグル獣王国に知らせただけである。


 即断即決で知られる獣王の事だ、必ずやこの好機を逃さんとレリジオーネ法国に侵攻する筈だと、エルビンはそう確信して手紙を送っていたのである。


 母国の危機を知ったレリジオーネ法国軍なら、必ずや撤退すると読んでいたのである。


 そして現実にエルビンの読み通りに、レリジオーネ法国軍は撤退を開始した。



 予めガルゾルには大体の事を話していたので、混乱する事なく好機とばかりに全面攻勢を掛ける。



「さて、そろそろ私も出るぞ!我らが神聖不可侵であるエイラム帝国に土足で踏み込んで来た奴らをただで返してなるものか!行くぞ!」


「「「「おお!!!」」」」



 スカーレットアイとグレキンス率いる第一兵団を率いて、エルビンが動き出す。


 後方から大きく迂回して、撤退途中のレリジオーネ法国軍の横腹を突く。


 予め撤退予想ルートには、当たりを付けていたのでスムーズに移動出来た結果である。


「スカーレットアイ!雑兵には構うな!将の首を狙え!兵士達の指揮は任せたぞグレキンス!」


「心得ました!若君は存分に暴れて下され!」



 まだ大軍の部隊運用には慣れて居ないので、其処は経験豊富なベテランであるグレキンスに任せて、エルビンは自分の手足とも言えるスカーレットアイのみを率いて、将の首だけを狙い攻撃する。



 本国の危機に、気が急いて警戒が疎かになって居た所に奇襲を受けて、レリジオーネ法国軍は前後に分断される形になる。


 とは言えど、兵数的にはバルフィナンス侯爵軍約8千に対してレリジオーネ法国軍は2倍近い1万5千の軍勢である。


 前後に分断したとは言えど、このままでは挟撃されてしまう恐れがある。


 実際法騎士達はには、その様な動きが見られる。


 だが、その事は織り込み済みである。



「「「ウォォォオオ!!!」」」と鬨の声がしたかと思うと、レリジオーネ法国軍の後方からケンタウロス族約2千が襲い掛かる。


 一見2千と数は少なく思えるが、ケンタウロスは一人で騎兵5騎分と言われており、実質1万の援軍と同等の力を秘めている。


 グレキンスはケンタウロス族の動きに呼応して動き出す。


 スカーレットアイは順調に指揮官を倒して行くが、流石にそう何度も上手く行かずに、指揮官も周りを固めて後方に下がって行く。


 これ以上の深入りは危険と判断して、エルビンは第一兵団の元へと戻る様に指示を出す。


 エルビンも踵を返して戻っている最中、戦場に不釣り合いな豪奢な服を着た神官服の禿げた男を見つける。


 護衛には法騎士が二人も付いている。


「あれは……」


「あれはレリジオーネ法国の高位神官かと思われます」


 どうする?無理をする場面では無い。無いが……レリジオーネ法国に置いて神官の立場は高く、その中でも高位神官は国の中枢部に位置する、国家を動かす側の人間の一人である。


 ここでもし倒す事が出来れば、これ以上はない手柄にも繋がるだろう。


 将来の事を考えれば是非とも欲しい所だ。


 だが、頭の冷静な部分ではこれ以上無理をする必要は無い。と訴えかけている。


 それにもうすぐ戦闘艦が到着する。だが、戦闘艦の圧倒的な火力の前では原形をとどめて居ない可能性があるな。


「私があの神官の首を刈り取るまで、後ろの法騎士二人を足止め出来るか?」


「お任せ下さい。それに足止めと言わずに、仕留めろと命じて下されば、見事に討ち取って見せます」


 自信満々に部下の一人が答える。


 もう一人も頷いて同意する。


「ならば任せたぞ」



 そう言ってエルビンは身体強化魔法を重ね合わせて、20メートル程先にいる高位神官の元へと駆け出す。


 エルビンの存在に気付いた法騎士が、素早く高位神官の前に出て盾を構え待ち構える。


 その法騎士へ部下の一人が放った《ファイアボール》が当たるが、見事に耐え切り反撃の魔法を放って来る。


 法騎士は味方の兵士達の事を気にせずに、魔法攻撃を繰り出す。


 味方を巻き込んだ攻撃に、一瞬動きが止まった所をもう一人の法騎士が横から突っ込んで来る。


 だが、エルビンにその凶刃が届く事は無く、部下の一人が素早く反応して防ぐ。


「今のうちです!」


「すまん!助かった!」


 エルビンは部下に礼を言い、法騎士の相手は任せて神官の元へと向かう。



 よく見ると、神官は戦場であるにもかかわらず、武器防具の類は持って居ない。


 いや錫杖があるので、そうとも言えないかも知れないが、指にはキラキラと光るルビーやダイヤモンドの指輪をはめており、首には真珠のネックレスを掛けている。


 その事にエルビンは怒りを露わにする。


「貴様の国の民が必死に戦っているのに!なんだその格好は!それでも神を信仰する者の姿か!俗物に塗れた貴様には過ぎた物だ!斬り捨ててくれる!」


 わざと一撃では殺さずに、痛ぶり殺してやる!と思ったが今尚部下達が命懸けで、法騎士の足止めをしてくれてるのに、思い至り神官の首を一撃で斬り落として、その首を素早く拾い、何か他にないか漁ると、懐から書簡が見つかった。



 今検める時間は無いので、首と書簡を手にしてこの場を離脱する。


「退くぞ!」



 部下に合図を送ると、エルビンが撤退や奇襲の時に考案したオリジナル魔法である、閃光魔法を発動させる。


 いきなりの眩い光に、法騎士の二人は思わず目を瞑る。


 その隙に離脱して安全圏まで走り抜ける。




「クソッ!逃げられた!どうする?神官殿がやられてしまった」


「チィ。だが仕方がない。まあ、俺は清々したがな。コイツは偉そうな癖に欲深くて手柄欲しさに勝手に戦場にまで来たコイツが悪い。本来の目的は占領した町や村を統治する役目なのに、占領した町や村から宝飾品の略奪までは許可されていたが、まさか異教徒の浄化の名目に、家畜(エイラム人)共を焼くとは流石に思ってなかったがな。まあ良い。団長に話してこの戦争の戦犯にして、戦争の全責任を被って貰おうぜ」


「だが、そうすると一応コイツも神殿派だぞ?俺達の派閥の力が弱まり、法王府が其処に漬け込んで勢力の拡大を模索しないか?」



「まあ、細かい事は上に任せて俺達も早く撤退しようぜ。何でも獣共が本国に攻め入って来たらしいからな」


「ああ、そうだな。だが情報封鎖は完璧だった筈だがな」


「戦端が開かれたんだ。完璧な情報封鎖は流石に無理があったんだろう。ケッ!使えねえ獣人奴隷共だぜ」


 レリジオーネ法国は、人間以外の種族を身分などに関係なく、全て奴隷にしている。


 その為にドグル獣王国との戦争で、捕虜にした獣人は全て奴隷にして、酷使しているのである。


 その中でも特に優秀な獣人を防諜に使っているのである。



 彼らは従属の首輪と言う、隷属魔法が付与された首を着用しているので、命令に逆らう事が出来ないのである。


「さてと、さっさっとこの場を離脱するぞ」



「そうだな。周りにはまだ敵が………居ないな」


 相方の言うように、先程までいた敵兵の姿はない。


「どう言う事だ」


 その時大きな影が覆い被さる。


 雲が出て来たのか?と上を見ると「お、おい!上を見ろ!」


「どうした?」


 相方に言われて上を見ると、上には合計8隻の巨大な真っ黒に統一された色をした飛空船が浮かんでいた。


「な!なんて大きさだ!通常の物の倍以上あるぞ!それに下を向いているのは砲なのか?」


「馬鹿な!まさかあの全てが砲なのか!不味い!逃げるぞ!」


「おう!」


 すぐに事態に気付いた法騎士の二人が身体強化魔法を付与して、すぐに逃げ出そうとしたが、時すでに遅く下を向いた魔砲が一斉に砲撃を開始した。





 ■



 戦闘艦による艦隊砲撃をエルビンは少し小高い丘の上から眺めて居た。


 一撃毎に地形が姿形を変えて行く。


 それが一度に数十発も休みなく地面に降り注いでいる。



「こちらの被害はどうだ?」


「はっ!スカーレットアイ隊は軽傷者17名出ましたが、何も治療は完了しており、いつでも戦線復帰可能です」


「第一兵団は、死傷者3名、重傷者15名、軽傷者61名です。負傷者達は皆、スカーレットアイ治療部隊の活躍により、怪我は回復しておりますが、疲労のためにすぐに戦線復帰は難しいでしょう」


「そうか。戦死した者達の遺族には充分な手当てをしてやれ」


「はっ!畏まりました」


 もっと早くに戦闘艦を投入していれば、犠牲者も出ないで済んだかもしれない。


 だが、最新鋭の戦闘艦であるが、魔砲をまだ続けて何度も撃てる程ではない。


 ここまでの長距離を飛んで来ただけで、著しく魔力を消費したので、魔砲を撃つのに魔力の充填をしなければ行けなかった。


 まだまだ改良の余地がある。


 それにそれだけが理由ではない。


 今回は援軍といった形での参戦なので、後から来た我々が手柄を全て横取りする様な事は、今後のラクラトルト辺境伯家との関係を考えれば、良くない事である。


 今は少しでも味方を増やして、俺の死亡フラグを片っ端から叩き折って行かねばならない。


 成長して口調も改めたのもその一環である。


「ふぅ、戦闘はひと段落しても、まだまだする事は山積みだな」


「はい。それが戦争と言うのです若君」


 グレキンスがエルビンの問いに答える。


「さてと、残りの戦後処理もどうするかだな」


「はい。ですが、それについてラクラトルト辺境伯から話し合いたいとご使者が来ております」


「わかった。行こうか」


「はい」


 エルビンは椅子から立ち上がり天幕の外へと出て行く。

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