西方決戦・中編
飛空船が次々と、臨時で作った広場に次々と着陸して来る。
食料や武器などの各種物資と一緒に、続々とバルフィナンス侯爵軍の兵士達も降りて来る。
彼らを率いて来たのは、バルフィナンス侯爵軍で長年兵団長を務めるグレキンス・ド・ブルームである。
彼は一兵士からの叩き上げの軍人で、実直な性格をしており、父や祖父からの信頼厚い人物である。
更に巧みな戦術で一度も本陣に攻め込まれた事がない事から、鉄壁のグレキンスの異名を持つ名将である。
「おお!ご無事でしたか若君!」
「五体満足だよ。グレキンス」
「それは良うございました」
既に49歳とこの世界ではだいぶ年寄りの部類に入る、グレキンスは既に頭が真っ白になっているが、その茶色の瞳は少年の様な輝きを放っている。
グレキンスはエルビンに戦術などを教えた先生でもある。
「さてと、バルフィナンス侯爵軍。第一兵団総勢8千名只今現着しました」
ビシッと敬礼してグレキンスが報告して来る。
「御苦労。グレキンス兵団長」
エルビンも答礼する。
締める所はちゃんと締める様に、教育されているので普段はその分結構緩かったりする。
問題はラックだ。いつまで経ってもタメ口のままである。
前世の感覚から、エルビンは特に気にしていなかったが、それはどうやら侯爵家の嫡男としては異端らしく、それとなく注意された。
なのでそろそろ分別を付けなくては行けない。とも思っている。
例えばラックとミュゼと自分の三人だけなら、あの口調でもいいが、他の人が居る時などはちゃんと敬語が使える様にしなくてはならないだろう。
なので、この争いが終結した後は、ラックとミュゼに礼儀作法の家庭教師を付ける必要があるな。
と、別の事を考えながらも、しっかりとリオネルに指示も出しておく。
「リオネル。後でグレキンスに戦況や我々の配置場所なども教えといてくれ。私はラクラトルト辺境伯に援軍の到着を知らせて来る」
「畏まりました」
「なら擦り合わせは儂の副官に任せます。儂も挨拶に伺いましょう」
「うん。そうだね」
エルビンはグレキンスと共だって、またガルゾルの野営地へと向かった。
「うむ。見たことのない作りですね。面白い」
グレキンスはガルゾルの野営地を囲む、柵の配置の仕方などを楽しそうに見ている。
自分ならこう攻める・こう守ると楽しそうに試行錯誤を繰り返しているのだろう。
やはりグレキンスは生粋の武人であるな。とエルビンは改めてそう認識する。
ガルゾルがいる天幕に着くと、天幕前の守兵に用件を伝える。
守兵4名のうちの一人が天幕内へと入って行く。
暫くして、守兵が戻り中へ入る事を許された。
「どうしたのだ?」
「はい。我が軍の増援が到着しましたので、その挨拶へと参りました。今回の増援部隊を率いるのは此方の者です」
「お初に御意を得ます。グレキンス・ド・ブルームと申します。以後お見知り置きを下さいませ」
「うむ。よろしく頼む。俺はガルゾル・フォン・ラクラトルトだ」
簡単に自己紹介をして20分ほど確認などをしてから、バルフィナンス家に与えられた、野営地の設営場所へと戻る。
■
「エルビンの小僧も。中々良い部下を持っているな」
ガルゾルがそう答えると、腹心の部下の1人が同意する。
「左様でございますな。それにしてもお嬢から話は聞いてましたが、何とも頼りになる若者ですな」
「ああ、前々からそれとなく警告はされていてな、そのおかげで前もって準備が出来たから、何とか瀬戸際で抑え込む事が出来た。もし警告が無ければもっと深くまで、それこそ西部の大部分を占領されていた可能性もある。それにしてもよく鍛えた良い兵士達を持っているな。
あのグレキンスと言った男も、中々の力量を持っているな。
久しぶりにワクワクする感じがしたぜ」
「仮にも同国の、それも援軍として来てくれた彼らに戦いを挑まないで下さいね」
「わかってるさ。流石にこの状況でそんな事はしねぇよ」
「本当ですか?貴方と言う人はそんな事を忘れていつの間にか、突撃して行くような人ではないですか」
「おいおい、仮にも俺はお前の主人だぜ?もう少し信用してくれても良いんじゃないか?」
「確かに貴方は私の主人ではありますが、三度の飯よりも戦闘が好きな、戦闘狂の貴方が大人しくしているとはとても思えません」
「これでも、由緒あるラクラトルト辺境伯の当主だ。流石に時と場所は考えるさ………多分」
最後の言葉はだいぶ小さくなる。
「今"多分"と仰りましたか?」
「相変わらずの耳の良さだな、ウンガル。その辺で勘弁してあげてはどうかの?小僧もあまり周囲には迷惑を掛けぬことじゃな」
そう言って、ウンガルとガルゾルの2人の会話に加わったのは、今しがた天幕に入って来た老人である。
「老師!いつこちらにお出でになられたので!?」
「おお!ロベールの爺さん!生きてたのか!」
「勝手に殺すな!それとお前達の部下はなっとらんの。儂がここまで来るのに気付かんとは、弛んどるのではないか?」
「老師それは無いですよ。老師が凄すぎるだけです。何せ剣の名家である剣聖アルシュタイナーの中でも、歴代最高峰と名高いロベール・ソル・アルシュタイナー程の方何ですから」
「そりゃ、そうだ。それと何せ二年と音沙汰が無かったんだぜ?なら死んだと思ってもしょうがないだろ?」
「まあ、それもそうだの。それと剣聖の称号は既に儂の息子に譲渡しておると、それと儂が死んだとな!それは赤の他人の場合じゃ!弟子が師匠の生存を確認せんうちに死んだと思うとはなんたることじゃ!これは性根を叩き直さなくてはならぬの。外へ出ろ!一から鍛え直してやるわい!」
「老師!お待ち下さい!今は戦時中故に、終わってから存分におやり下さい」
「む!確かにそうだの。しょうがないの」
「ふぅ、助かったぜウンガル。それで爺さんは2年間何をしてたんだ?」
「何、山籠りして鍛え直していたのじゃよ」
「はぁ〜、歴代最高の剣聖と言われた爺さんが、今更鍛え直す必要性が感じられんがな」
「何を言っとる。剣の道は生涯鍛錬あるのみじゃ。未だにその頂きは遠い」
「へぇ〜そんなもんなんだな」
そう言うガルゾルの頭に、神速の鉄拳をお見舞いする。
「馬鹿もんが!お主も儂の弟子なら、剣の頂きを目指さんかい!」
「いっっってぇぇえええ!!!」
ガルゾルは頭を抑えて悶絶する。
その声に外の兵士達が飛び込んで来たが、ウンガルが退室する様に命じる。
兵士達は悶絶するガルゾルを見て、怪訝にに思ったが、上司からの命令には素直に従い退室する。
「さてと、戦況を教えてくれ」
「わかりました老師」
ウンガルは悶絶する主君であるガルゾルに、呆れた目を向けてからロベールに戦況を報告する。
「ほう、エルビン・フォン・バルフィナンスか。面白そうな者が出て来たものだの。どれこの戦争が終わった後、鍛えてみるかの。さてと、久し振りにお主らの腕前を確認するとするかの。二人とも表に出ろ」
「マジかよ。ウンガル何とかならんか?」
「意外ですね。嬉々として向かっていく貴方が」
「いや、爺さんはマジでやべぇから。あれは楽しむ楽しまないじゃなくて、生きるか死ぬかの瀬戸際だから、何回訓練で死に掛けたと思ってるだ?俺は絶対に勝てない強者に嬉々として向かっていく程の、戦闘狂じゃねえよ。そこそこ強くて命の危険がある相手だけだ。戦ったら確実に命を落とす相手には流石に向かって行けんよ」
「まあ、私の理解は出来ますがね」
「お前ら早くこんかい!」
天幕の外から、ロベールの催促する声が聞こえて来る。
「早く行きましょう。老師の機嫌を損ねると、手解きが厳しくなるだけです」
「そうだな。それにしてもあの爺さんに、目を付けられるとはエルビンもご愁傷様だな」
「全くです。ですが才能がある事は確かですね」
「違いない」
■
ブルっと寒気が襲う。
「なんだ」
「どうされましたか?」
「いや、何だか悪寒がした様な気がしただけだ」
「そうですか?戦士にとって勘は大事ですからな」
「ああ、気をつけるよグレキンス」
「それがようございましょう」
この悪寒の原因が数週間後に判明するとは、神ではないエルビンにはわからない事であった。




