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西方決戦・前編

今回は3話連続投稿です。


これは1話目です。

 翌朝、朝日が昇った頃エルビンは起き出した。


 流石に今回はルクレアも同行していないので、全て自分で身支度を整えて行く。


 手早く身支度を整えると、食堂に向かう。


「おはようございます。若」


「ああ、おはようリオネル。それで戦況はどうだい?」


「はい。昨日夜襲を行った結果、先遣隊八万は半減しました。今は残った将兵が何とか纏めて居ますが、ラクラトルト辺境伯軍とまともに戦える状態ではなさそうです。更にこの結果からリレディー伯爵領の部隊も、一時撤退した模様です。それとラクラトルト辺境伯の騎馬部隊が、援軍に赴いてくれたとの報告も上がっております」



「そうか。飛空船団はあとどれくらいで到着する?」


「はっ!そちらは2日後到着予定です。更に現在編成が完了した帝国軍3万が、現在こちらに向かって来ているとの事です。東側南側にも順次援軍が到着予定との事です」


「そうか……ここまでは順調に進んでいるな。だが、まだ油断は出来ない。……それでみんなの様子はどうだ?初の戦争だ。精神的に参っている者はいるか?」


「いえ、幸い一人もその様な者は居ません。やはり領内での盗賊退治や、魔獣や魔物狩りのおかげかと思います」


「そうか、それは朗報だな。もしかしたら今日も働いて貰うかもしれん。まあ、昨日大打撃を与えた敵が、そうすぐに行動に移れるとも思えんが、念の為にいつでも出陣可能な様に、準備だけは怠らない様に訓示しといてくれ」


「はっ!畏まりました」


 リオネルにそう命じて、エルビンは朝食を食べる。



 スクランブルエッグに、ソーセージにバゲットを更に取り分けて、エルビンは食べる。


 暫くすると、スカーレットアイの隊員達も、続々と食堂に集まって来る。


「よう、エル」


「おはようございます。エルくん」


「おはよう。ラック、ミュゼ」


 寝起きなのか、寝癖が酷い状態で入って来たラックと、ピシッとちゃんとした対称的なミュゼの二人が食堂に現れた。


「ラック。寝癖が酷いぞ?」


「んあ?まあ、後で水でもぶっかけたら直るさ」


「はぁ、相変わらず、ずぼらなんだから」


 ミュゼはラックの言葉に溜息をする。


「二人も食べなよ」

「ええ、そうするわ」

「だな」


 二人も料理を取り、エルビンの前の席に腰掛ける。


「それにしても豪華な船だな。俺の家よりも立派な部屋だったぞ」


「本当に素敵な所ね。全てが揃ってる感じだもの」


 二人ともとても嬉しそうに、エルビンに語る。


「ありがとう。内装には気を使ったからね。長い間この艦に乗ることも、あるかも知れないからね。そうなると、どうしてもストレスなんかも感じるから、それを出来る限り軽減する方法を色々模索した結果だよ」


「へぇ、やっぱり領主の息子ともなると、色々考えているんだな」


 感心した様にラックはそう告げる。


「まあね。さてと、食べ終わったら早速ミーティングを開こうと思う。二人も参加するかい?」


「ええ?会議とか苦手なんだよなぁ」


 露骨に嫌そうな顔をするラックに対して、ミュゼは「私は参加したいかな。色々な事が学べるからね」と意気揚々だ。


「わかった。ならミュゼは参加でラックは不参加でいいか?」


「ああ、それで良い」


「うん」


「わかった。じゃあ後で第一会議室に来てくれ」


「うん、食べ終わったらすぐ行くよ」


「わかった」


 エルビンは食器を戻してから、会議室に向かう。


 会議室には既に、副長のリオネルと各戦闘艦の船長が既に待っていた。


「待たせたね。後で各部隊長達も来るけど、その前に大詰めの計画について話しておこうか」


 そう切り出して、エルビンは話し始める。


 1時間後、ミュゼや部隊長達も会議室に集まって来る。



 エルビンが席から立ち上がり、会議室の面々を見ながら話し出す。


「さて、大体の戦況がラクラトルト辺境伯閣下から、齎された。我々の夜襲とラクラトルト辺境伯閣下の奇襲攻撃により、敵部隊は半壊し、指揮する指揮官の悉くも討ち取った事により、我々の勝利かと思われたが、どうやら敵本隊は別に存在しており、その部隊が、西方国境防衛軍を、砦内に押し込めている部隊であった様だ。現在その部隊は抑えの兵を少し残して、此方に急行中との事だ。先程の敵は先遣隊であり、殆どが傭兵や徴兵された者達で構成されていた事が判明した。なので次の一戦こそが、この西方の戦いの行末を左右するだろう」


「敵本隊はいつ頃此方に到着予定なのですか?」


「正確な日数はまだわからないが、あと数日以内には確実に此処に来るだろう。後から来る我が軍が間に合うかは微妙な所だな。帝国軍の方は間に合わないだろう」


 エルビンが一人の質問に答えると、他の部隊長も次々と質問してくる。


 リオネルに補足されながら、情報を答えていく。


 その様子をミュゼは熱心にメモしていた。


 2時間後、漸く長い軍議が終わり、一息つけると思っていたが、次はラクラトルト辺境伯の元へ行き、そこでまた会議を開かなくてはならない。


 今度は部下達では無く、全員年上の貴族の当主などを相手にしないと行けないので、心労はこれ以上だろう。


 気が重いが行かないといけない。


 普段よりも豪奢な軍服を着用して、小型船で地上のラクラトルト辺境伯の本陣に向かう。


 同行するのはリオネルと数人の部下達だ。


 到着すると大歓迎を受けた。


「おお!よく来たな!俺がガルゾルだ!昨日は助かったぞ!」


 ガハハと豪快に笑いながら、ガルゾルは近づいて来た。


 顔には戦化粧が施されており、ただでさえ強面の顔が、更に凶悪になり顔面凶器と化している。


 それにラクラトルト辺境伯の家臣も、筋骨隆々で強面が多いように感じる。


 更に近くにはケンタウロス族と言う半人半馬の種族がいる。


 彼らはラクラトルト辺境伯の祖先であるダラク族とは友好関係にあり、仲が良く互いに助け合って来た歴史がある。


 今回も中央平原に遊牧生活を送る、ケンタウロス族や騎馬民族が救援の為に駆けつけてくれている。


 帝国広しと言えど、ケンタウロス族や騎馬民族とこれ程までに、交友関係が深い貴族はラクラトルト辺境伯家ぐらいだろう。


「おっと、紹介しよう。ケンタウロス族はアルサンレ部族の族長のカケンドラ殿だ」


「初めまして。アルサンレ族長のカケンドラだ。この蹄で敵を蹴り殺してくれるわ!ワッハッハ!」


 筋骨隆々な女性であるカケンドラは、豪快に笑うので、はち切れんばかりの爆乳が揺れている。


 タプンタプンである。


 は!俺は何を言っているんだ!


 ペースを乱されてしまう。


「で、こっちののっぺりとした男はメルボー・ス・ラテだ。ラテ部族の族長で帝国一の弓騎兵だな。二の矢要らずのメルボーと言えば、弓兵達の間で伝説だぞ」


 対照的にもう一人の男性は小柄であり、カケンドラの横に並ぶと余計に小さく見える。


「メルボーだ。指示を出せ。射ってやる」


「お!どうやらメルボーに気に入られたな。珍しくメルボーがご指名だぞ」


 ガルゾルはそう言って、また笑う。


「は、はぁ。コホン。バルフィナンス侯爵カザール・フォン・バルフィナンスの息子のエルビンです。皆さま何卒よろしくお願いします!」


 ペースを乱されたが、何とか挨拶だけはする。


 その後は普通の貴族達なので、幾分か楽に挨拶が出来た。


 漸く挨拶が終わり、やっと現在の戦況について話し合う。


 こんなにもゆっくりと、していると言うことはまだ余裕があり、そこまで切羽詰まった状況では無いことの証明でもある。



 そして話し合われた結果、我々バルフィナンス侯爵軍は普通なら後方待機だが、ラクラトルト辺境伯軍と共にゲリラ戦で、敵をある場所まで誘引する事になった。


 エルビンが某国の特殊部隊並みの訓練を、スカーレットアイは元より、バルフィナンス侯爵軍全体に施した事で、今回の共同作戦に繋がったのである。


 他家の練度であれば、共に轡を並べて戦うのが難しい所だと、ガルゾルを感心させた。


 バルフィナンス侯爵軍の兵士なら、身体強化魔法を使えるのも理由である。



 一応一般市民も、生活魔法なら使える者が結構な数がいるが、身体強化魔法も含めて、それらを使えても魔法使いの括りには入らない。


 なので、精鋭兵の殆どは身体強化魔法を習得していると考えてもいい。


 バルフィナンス侯爵軍はエルビンの指導の元、一般兵も普通に身体強化魔法は使えるのである。



「もう昼か」


 気が付けば既に太陽が真上にある。


「そうですね。昼食にしますか?」


「そうだな。一旦アインシュバルツに戻るか」


 そう言って戻ろうとした時、後ろから声が掛けられる。


「おう!エルビン!俺たち所で飯を食うぞ!」


 そう言っていきなり現れたかと思うと、抵抗する暇もなく拉致られる。


 いきなりの事に、唖然としていたリオネルと部下達も、慌てて追いかけて来る。



 連れて行かれた場所には、ラクラトルト辺境伯家以外にも、アルサンレ部族やラテ部族の面々の姿もある。



 よく見ると昼間から酒を飲んでいる。


 流石に戦場でこれは駄目だろうと注意したら「ワッハッハ!我らアルサンレ族に取ってこの程度の量で酔うような輩はおらん!仮にいて討ち取られても其奴が未熟だっただけのことよ!」とカケンドラはそう言って豪快に馬乳酒を飲んでいる。


 同じくメルボーも同じ様な事を言っていた。


 もう異文化だと思って放っておく事にした。


「さあ、たんと食ってデカくなれ」とガルゾルは皿一杯に肉を入れて渡して来た。


 断れず受け取りなんとか完食する。


「うむ!いい食べっぷりだ!」



 そう言った感じで数日が過ぎた頃、何とか敵よりも先に我が軍の増援が到着した。


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