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バルフィナンス侯爵家①

10/11

誤字修正

 

 魔獣とエルビンの間に現れたのは、エルビンの家であるバルフィナンス侯爵家の武官である。


 彼はこの剣を素早く抜き放つと、一瞬にして間合いを詰めて魔獣の首を斬りとばす。


 そして周辺を警戒して、他に脅威が居ない事を確認してから、急いでエルビンの元に駆け寄って来る。


「エルビン様!すぐに治癒士の元へとお運び致します!」


「あ、あの少女も……」とエルビンは少女を指差す。


「畏まりました」


 そう言って武官が笛を吹くと、すぐに数名の男達が駆け寄って来た。


 彼らは全員バルフィナンス侯爵家子飼いの家臣達である。


「俺はすぐにエルビン様をお屋敷にお運びする。お前はあの少女を、他の者達は他にも魔獣が紛れ込んで居ないか徹底的に調べろ!」


 そう言ってエルビンを抱えた男は屋敷に向かって走り出す。


 助かった安堵感からエルビンは気を失ってしまう。









 ■



 眼が覚めると、自室のベッドの上に横になって居た。


 服も取り替えられている。


 それにしても大怪我であったはずだが、全然痛みを感じない。


 それにしても喉が渇いたな。


 枕元に置いてあるベルを鳴らす。



 するとすぐに部屋に侍女が入って来た。


「エルビン様、お加減はいかがでしょうか?」


「ああ、大丈夫だ。それよりも喉が渇いたので水をくれ」


 エルビンの口調に少しばかり眉を動かしたが「畏まりました。すぐにお持ち致します」と頭を下げて出て行った。


(しまった!そう言えば普段はどう言った口調だったか忘れてしまったな。一応最低限の事は覚えてるけど、少しばかり記憶が朧気だな。一応今は6歳だったか?)



 少しばかり頭の中を整理していると、コンコンコンとノックがしたので入室の許可をすると、お盆に水差しとグラスを持った侍女と白いローブを羽織った医者っぽい人がやって来た。


 確か治癒士だったな。


 魔法が使える者の中でも治癒に特化した者達の総称である。


 基本魔法は攻撃魔法ばかりなので、治癒魔法を扱える者は希少である。



 殆どの治癒士は教会所属である。


 教会は彼らを庇護し、その絶大な権力の一部にしている。


 その為に教会は一定以上の力を持った、独立した組織であり迂闊に手を出す事は出来ない。


 閑話休題。


 目の前にいる初老の治癒士は、記憶が確かなら教会に所属していないバルフィナンス侯爵家所属の治癒士であった筈だ。




 常々このエイラム帝国で、軍部のトップである元帥の地位に座る祖父マサイアス・フォン・トゥーラム公爵は教会は信用ならない。と言って憚らない人物である。


 そんな祖父の親友でもある宰相も同意見なのか、魔法省を建設して治癒士や一般の魔導士を積極的に登用している。


 他国なら魔導士ギルドと言った独立した組織だが、エイラム帝国はそれがない代わりに魔法省が存在しており、しっかりと帝国内の魔導士を管理している。


 なので教会の入り込む隙は限りなく狭く、他の国と違い帝国内には教会の影響力は少ない。


 何せ帝国には教会と対立する神殿が存在するからだ。



 教会と神殿の話をすると、その成り立ちから話さなければならない為割愛する。



 バルフィナンス侯爵家所属の治癒士は、教会の治癒士に負けず劣らず素晴らしい腕前の持ち主であるので、あの程度の怪我なら大怪我の内に入らず、すぐに治してくれた様だ。



「異常はありませんな。エルビン様、何処か痛い場所や違和感を覚える所は御座いませんか?」


「いや、大丈夫だ。ただ、記憶が少し曖昧だな」


「ふむ。確かに普段と言葉遣いも違いますな。聞いた話では魔獣に吹き飛ばされて、木にぶつかったとか。その時に頭でもお打ちになったのでしょうな。今までも頭を怪我をして記憶が無くなった事例はいくつかありますからな。

 数日で戻る場合もありますが、戻らない場合もありますな。エルビン様の場合は私達の事は分かっている様子ですので、記憶の一部が欠落した状態でしょうな。

 では、安静にして過ごして下され」


 そう言って治癒士は下がって行った。


 暫くすると廊下から足音が聞こえて来る。


 扉を勢いよく開けて入って来たのは、銀髪赤目の妙齢な美女が入って来た。


 白い陶器を思わせる滑らかな肌を持ち、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでるまさに女性としての理想の体型の持ち主である。


 目には涙を溜めており、此方に近付いて来る。


「誰?」と思わず呟くと、美女は泣き崩れてしまった。


 その美女の後から侍女長を筆頭に、続々と使用人がやって来た。


 侍女長は部屋の中にいた侍女に「何故奥様はお泣きなさっているの?」


「それが……」と侍女は先程の治癒士の話をして、エルビンの事を話す。


「そう、記憶の欠落ね。それで奥様の事を誰と」


 その事を侍女長は奥様と呼んだ人物に説明する。


(えっ!?何?どういう事?えっと、確か侍女長はゲームに登場したよな?名前は………そうマリーナだった筈だ)



「えっと、マリーナ」と名前を呼ぶとマリーナは此方に来る。


「はい。エルビン様」


「あの女性は何故泣いているのだ?」


 そう言うと女性は更に泣き。マリーナの顔も悲しそうになる。


「エルビン様。あちらの女性は貴方様のお母様であるフェリーネ様です」


「えっ!?あんな綺麗な女性が俺の母さんなの?」


 ピク!と"綺麗"なと言った部分にフェリーネは反応した。


 涙は止まり、立ち上がる。


「そうね。記憶が曖昧なのよね。大丈夫よエルちゃん。少しずつ思い出していこうね」


 そう言ってエルビンを優しく抱き締める。


(なんだか安心するな。それにこの匂いはラベンダーか?)


 安心して眠くなったエルビンは、フェリーネの腕の中で眠りに落ちる。





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