プロローグ
ここは日本にある1つの高校。そこには“天才”と呼ばれる少年が通っていた。
少年はどんなことをしても完璧で学校であるテストは全て満点、その上運動神経も良かった。その少年の事は、校内だけでなく他の学校の生徒の中でも噂されるほどであった。
だが、
少年は今、道路の上に横たわり頭から血を流していた。周りを歩いていた人たちが駆けつけてくる。しかし、少年は5秒前にトラックに跳ねられ既に虫の息だった。誰が見ても分かる、もう助からない。
(だめだ、目も開けてられない。もう体の感覚もなくなってる。こりゃ死ぬな)
“助からない”それは本人が1番理解していた。
(16年、実にくだらない人生だった。やっている事は、勉強と運動ばかり。彼女の1人もいない。親の言うことばかりを聞いていた人生)
思い返してみれば、実にくだらない人生だった。
(もし、もう1度生きれるならもっと自由に、自分のやりたい事をやろう)
そんな事を考えながら、夜神月輪廻の16年の生涯は、幕を閉じた。
…………はずだった
目を開けると、そこには1人の女性が自分の顔を覗き込んでいた。20代くらいで銀髪の髪に青色の目をしたとても美人な女性だ。
(……俺は死んだんじゃないのか。それにこの人は誰だ)
輪廻は自分に何が起こったのか分からなかった。そこで、取り敢えず体を起こそうとするが、全く力が入らない。それどころか、段々と眠気が襲ってくる。少し頑張ったが、結局睡魔には勝てずそこで輪廻の意識は途切れた。
誰かが喋っている声が聞こえて段々と意識が覚醒する。
目が覚めるとそこには、最初に見た女性がベットに座っていて、その隣の椅子に腰掛けた金髪の男性と話をしていた。どうやら輪廻は、女性が寝ているベットとは違うベットに寝かされていたようだ。
体が動かないので、2人に話しかけようと口を開くが、輪廻は言葉を発する事が出来なかった。代わりに口から出たのは、
「あー、あうあー」
というものだけだった。おかしいと思いもう一度喋るが結果は同じで、
「あー、あうあー」
と声が出るだけだった。
おかしいと思いそこでふと気がつく。自分の手がとても小さなまるで赤ちゃんの手のような大きさだった。いや、そこにあったのは紛れもなく赤ちゃんの手だった。
それに気がつき輪廻は、更に現状が理解できなくなった。それに、先程から喋っている2人の会話を聞いて見ると、全く知らない言語だった。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
そこで一旦輪廻は現状をせいりしてみることにした。
体はほとんど動かす事が出来ずに、喋る事も出来ない。更に、産まれたばかりの赤子の体に、2人の喋る聞いたことのない言語。
そこまで考えて、1つの仮説が浮かび上がってくる。1度だけ読んだことのある娯楽小説。その内容が、地球で死んだ少年が、異世界に転生するというものだった。
もし、今自分がそれと同じことになっているのだとしたら、
(ここは、異世界……なのか)
結果から言うとこの結論はあっていた。
どうやら俺は、生まれ変わったらしい。
半年の月日が流れた。
半年間周りの人間が喋っている言葉を聞いているうちに、まだ喋る事はできないが、言葉自体は分かるようになってきた。
転生から半年でわかった事は、先ず生まれ変わった後の自分の名前は、フィルム・エルガーと言うらしい。
父の名前は、グレイン・エルガー。母はレミル・エルガーということ。
そして、1番驚いたのが、この世界には魔法があると言う事だ。
地球では、空想上のものだったが、この世界には普通にあるらしい。
なぜ生まれ変わったのか、それはもう考えないことにした。前世は後悔して死んだ。なら生まれ変わったと言う事は、もう1度人生をやり直す機会を与えられたと思うことにしたのだ。
そして、フィルムは誓った。今世では、もっと自由に生きようと。
更に1ヶ月が過ぎた。
フィルムは、ハイハイで今ある場所を目指して移動していた。目指している場所は、グレインの書斎だ。
生まれ変わってから7ヶ月、何度かグレインやレミル、この屋敷に仕えているのであろう何人かの使用人のような人の使っている魔法を見る事があった。
それを見て見て、フィルムは自分も魔法を使って見たくなったのだがどうすれば使えるのかがわからないためグレインの書斎にある本の中に魔法に関する本があるかもしれないと思い書斎を目指しているのだ。
廊下を数分移動すると、ようやく書斎の扉が見えてくる。
扉をあけて中に入ると、かなりの量の本が置いてあった。その中から魔法に関する本を探す。時間がかかるかな、と思っていたが案外簡単に見つかった。本は”魔法の基本”という題名だった。
その本を床に置いて開いて見ると、最初のページには魔法の発動の仕方が書いてあった。
要約すると、こうである。
魔法を発動するためには、自分の体内にある魔力を使う必要がある。
発動するには、2つの方法がある。
1つ目、詠唱による発動。これは、最も一般的な方法で、それぞれの魔法には決まった詠唱呪文があり、それを詠唱することによって魔法が発動するという方法だ。
2つ目は、魔法陣を書きそれに魔力を流し発動する方法だ。戦闘の中では、いちいち魔法陣を書いている暇はないのであらかじめ服などに書き込んで置いてそれに魔力を流し発動させると言う使い方をされる事が多い。
と、このように魔法自体は詠唱さえ出来れば使う事ができる。だが、魔法を使うには詠唱とは別に、魔法適性が必要となる。
魔法には、火、水、風、土、雷、光、闇、という7つの属性がある。魔法は、この7つの属性の内適性のある属性の魔法しか使う事はできない。
それとは別に、特殊魔法というものもあるようだが、この本には載っていないようだ。
適性魔法を調べるには、それぞれの属性の魔石を使うことで分かるそうだ。だが、特殊魔法は、そもそも持っている者が1万人に1人くらいの確率でしか現れない。自分の持っている特殊魔法を知るためには、調べるための専用のプレートに触れて魔力を流すと分かるそうだ。
ここまで、本を読んでフィルムは、学理と肩を落とす。魔法を使う為に適性を調べる必要があるという事は現状適性属性がわからないフィルムには、魔法を使う事は出来ないからだ。
かといって、グレインやレミルに魔石を借りる事は出来ないが。何故なら、まだ喋る事が出来ないフィルムでは、自分の言いたいことを相手に伝える事が出来ないからだ。
「はー」
ため息をつきながら次のページをめくるとそこには、魔力について書かれていた。
体内にある魔力は人それぞれ量は違うし、質も違うそうだ。
そして、魔力の総量は、元の魔力を使い切ることによって少しずつ増えていくそうだ。
魔力自体を体から放出するのは簡単で、自分の体から魔力が出て行く感覚をイメージすれば良いだけだ。
フィルムは、これを読んで魔法自体は使えないが魔力の総量は増やす事ができることを知ったので、毎日これだけはしっかりとやろうと決めた。