感染した世界で 新たな始まり
最終回です。
感染拡大が急激に加速し、半年が経過した
依然として感染は収まらず、人間と感染者の戦いは続いている
目の前で家族を殺されたもの、人間に裏切られ殺されたもの、絶望して自殺に図るもの....
世界が終わってゆくなかで、最後まであきらめない集団がいた。
感染拡大の原因になった製薬会社の社長、井上大毅と社長令嬢の優。
優の親友である金沢真奈美、竹中加寿。
彼らは諦めることなく戦い続けたが、悲しくもその抵抗は終わりを告げる結果になってしまった...
しかし、まだ一人、あきらめずに戦い続けている女がいる
_____________
優side
お父様も真奈美も、以前より絶望した顔が多くなってきていることには前から気付いていた
目の前で広がっていく感染爆発を前にすれば、無理もないけれど...
「二人が考えていること、なんとなく分かるわ。何のために生きているのか、世界が終わってこれからどうしていけばいいのか...」
聞き取りやすいように、ゆっくりとした口調で私は話し始める
「私も、加寿が死んだことは受け止めきれないから、背中に加寿をおぶっているわ。彼はまだ死んでない...はずよ...」
「優...」
お父様が、悲しそうな声で呼びかけてくる。しかし私は反応を返さずに、再び話し始めた
「壊れてしまったなら、また作り直せばいいわ。何年かかるかわからないけれど、作り直す途中で私たちも死んでしまうかもしれないわね。そうなら死ぬ前に...」
_幸せな思い出をたくさん作りましょう。_
空を見上げると、朝焼けが私たちを赤色に染めていた。
まぶしい光に目を瞑ると、一瞬だけ加寿の笑顔が浮かんだ気もする。
__これが、私の幸せな思い出なのね。__
「ねぇ、お父様、真奈美。あなたたちの今までの一番幸せな思い出、教えて頂戴?」
振り向いて二人に聞くと、真奈美が口を開いた
「私の一番の幸せな思い出は__」
______________________
いつの間にか映像も途切れ、暗闇の道をまた歩いていた。
何もない道をしばらく進むと、女神が問いかける
「あなたの幸せな思い出は何だったかしら」
さっきのような感情のない、冷たい声ではなく、やさしく語りかけてくるような問い方だ。
頭を回転させ、人生で一番幸せだった思い出を引っ張り出す。
「友達が、初めてできた日だ...名前は忘れちまったが...女だったな。面倒見のいい奴らだったよ」
正面を向きながら、ゆっくり答える。隣にいる女神の表情はわからなかったが、きっと頷いているのだろう。
「名前を忘れてしまうのは、一番悲しいことよね...」
「さぁな、その時が一番幸せだったことは間違いねえから...名前はどうでもいいのかもしれねぇ」
強がっているが、今にも泣きそうだ。
_本当はつらいよ、最後くらいあいつらの名前を思い出してやりたかった_
涙をこらえながら歩いていると、暗闇の道が途切れ、少し光がさしていた
「あなたは根っからの罪人ではないわ。模範的に生きてきたとも言い難いけれど、道を踏み外したわけではない。救われてもいいと思っているの」
俺の背中に、女神が声をかける。仕方なく振り返ると、俺の頭の中にあいつらの名前が浮かび上がってきた
お調子者でうるさいけど一緒にいると楽しい真奈美、謙虚にまじめで面倒見がいい優、お父さんらしい威厳を持った大毅さん...
__あぁ、俺は...俺は結局最後まで...__
女神が涙を流している俺の肩にやさしく手を置く。
「あなたの友人たちへの感謝は届いているわよ。間違いなく、後悔はしてほしくないの」
女神の慰めを聞いて俺は涙を拭いた。
「後悔なんかしてねえよ、今までの人生でな!」
決意を固めて、光のさす道へ一歩踏み出す。
「きっと、あなたたちは救われるわ。私が保証する!」
最後の女神の言葉を背中で聞き、意識は光の中に吸い込まれていった。
_____________________________
優side
みんなの幸せな思い出は、私だけの秘密にすることにした。
特に真奈美は恥ずかしくてお父様に聞かれたときには顔が真っ赤になってしまったから...
でも、思い出を聞いたことで、私たちは決意を固めることができた。
「今、ここで私は現実を受け止めるわ」
朝焼けの見える公園、私はベンチに加寿を寝かせて語り掛ける。
「加寿、あなたの幸せな思い出は何だったのかしら...もっと前に聞いておけばよかったわね...私の一番の幸せな思い出は、あなたに会えたことよ。嘘じゃないわ、あなたに変えてもらったところもあるし、何よりも私はあなたが...」
好きだったの、とは言い切れなかった。言葉にする前に涙がこぼれてしまい、言葉にできなかったから...後悔するかもしれないけれど、せめてこれだけは伝えておくことにした
「加寿、私たちに出会ってくれて、ありがとう。私は....あなたのおかげで幸せよ。」
手を合わせて、私はお父様と真奈美の横に並んだ
まだ、できることはある。
「私たちで、終わらせましょう。この.......悪夢を」
Fin.




