賭けと懸け
真奈美Side
「離せよ。」
加寿は冷たく言い放つ。
でも、私には分かる。
彼の苦悩が、どれだけ苦しんでいて、悩んでいるか。
離せと言葉では言うが、その手をどけようとはしなかった。
「懐かしいね、覚えてるかな。加寿。」
思い出すように、ぽつりぽつりと話し始める。
初めて加寿と話したあの日のこと。
優が加寿に弁当とかジュースとか渡して、一緒に食べたあの日のこと。
「加寿、よく言ってたよね。生きてる限りは別れが来る、その時まで俺がお前たちを守るってさ。私が忘れてると思ったの?」
微笑みながら加寿の顔を見る。
「まだ人間だよ。優がいなくなるかもしれないって悲しくなったんだよね。今にも泣きそうででも涙が出ないんだよね。私も同じだよ。」
加寿は何も言わなかった。
何も言わなくていい。今は、ここにいてくれるだけで私の救いだった。
「悪い、真奈美。ここまで俺のことを考えてくれて、引き留めてくれるのはうれしい。守るべきものがあることも忘れてない。けどな。」
一息置いて、加寿が喋る。
「俺が決めたことだ。それでも・・・もし俺のことを気にかけてるなら・・・屋上に来い。優を連れてだ。」
「そんな・・・」
私は立てなくなり、膝から崩れた。
そのとき、懐かしい声が聞こえた気がした。
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優Side
暖かい光に包まれていた。
私は神とか、非現実的なことは信じたことはなかった。
幽霊など、いるわけもないと。
しかし、今私がいるこの空間は、どんな科学の原理も通用しない、神聖な場所だった。
目の前に女の人がいる。
「ここはどこかしら・・・」
「ようこそ、ここは審判の場。わたくしは審判の女神である。」
厳格な声で私に説明をしてきた。
私の最後の記憶は、感染者に噛まれ、ワクチンを投与されたところまでだった。
「そう、審判ね。私は死んだのかしら。」
純粋な問いかけをする。
その言葉に女神は落ち着いた声で説明し始めた。
「あなたの現世の行いはこの場において模範的であり、非常に聖人的な人間であった。よってあなたには選択する権利が与えられる。」
女神がそういうと、左右のスペースが光る。
「右の道を選ぶと、あなたは現世に戻ることができる。左の道を選んだ場合、あなたの魂は天国へと向かい、永遠の極楽を約束される。どちらを選ぶかは貴方次第だ。」
私に迷いはなかった。
右に、歩き始めた。
・・・・・・・・・・・
「ん・・・」
重い瞼を開ける
光がまぶしい気がした・・・・
無理やり体を起こす
「優・・・・!」
お父様が私に抱き着いてきた。
「ちょっと・・・重いわよ。」
「まだ休んでてくれ、お前には重すぎる現実を見ることになるからな。」
お父様はそう言って、再び私を寝かせた。
「重すぎる現実・・・加寿は・・・?」
私が加寿のことを聞くと、お父様は何も言わなかった。
「・・・そう。」
「今は話せないんだ。」
大きな声が聞こえた。
「最後にもう一度だけ言う、優が生きてるなら、屋上に連れてこい。もし・・・優がダメならその時は考える。俺は屋上で待つから、お前たちも生きて屋上に上がってこい!」
加寿の声だった。
加寿のもとに行こうとするが、お父様がそれを制止した。
首を横に振る。
「なんで・・・こんな近くにいるのに・・・救うこともできないなんて・・・」
何もできない無力さに、私は涙をこぼした。
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加寿Side
言いたいことは言った
やりたいことはやりたいだけやった
後は、みんながどうしてくれるかにかかっている
真奈美の思いを振り切ってまで選択したことだ
ここから先は、俺の賭けと、みんなの命懸けの戦いの交差になるだろう・・・
こみあがる後悔を踏み潰すように、俺は歩く速度を早めた。
To be continue.....................




