復讐
加寿Side
「まだ、受け入れてくれるか・・・?」
頭の中でずっと考えていた。
その場に立ち尽くしていても何も変わらない。
俺は首元を噛みちぎられた冬馬を一目見て、みんなが進んだ方向へ歩き始める。
・・・・・・・・・
しばらく歩くとトイレがあったので、入った。
「・・・ひでぇ顔。」
鏡に映った俺の顔は、口の周りに血を付け、両目は赤く充血していて、全体的に顔が青白くなっていた。
こんな顔じゃ、あいつらに顔向けできない・・・。
受け入れてくれるとか、今更考える余裕はない。
顔を洗って血を落とした後、俺はトイレを出た。
しかし、どこまでも静かだ。
赤い血痕は残っているものの、感染者の姿が見えない。
「感染者からも忌み嫌われてきたのか・・俺」
だんだん悲しい気持ちになってくる。
人間としての倫理観はすでに俺には存在しない。
なら、これからは自由だ。
何にも縛られることはない。
俺の考えは、既に人間ではない。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、美結が前を歩いていた。
「あのクズ・・・」
殺したい衝動を抑えながら、物陰に隠れて様子をうかがった。
するととある一室のドアを開き、何か話している。
「何を言ってんだ・・・?」
聴覚に意識を集中させ、聞き取ろうとする。
「もうこの世界に倫理も価値観も存在しないの。いい?」
聞き取れたのはこの言葉だけだ。
そんなセリフはどうでもよかった。
俺に突き刺さることは今更ないし、なんなら聞き流しても構わなかった。
しかし、次の光景に俺は堪忍袋の緒が切れた。
扉から真奈美が吹き飛び、意識を失っている。
「・・・」
言葉も出ない。
心の底から湧き上がってくる感情がある。
怒りでも、憎しみでもない。
心の底からの悲しみだ。
「なんで・・・」
冬馬を食った時の感覚が広がる。
しかしそれは罪悪感ではない。
無意識的に、俺は扉を蹴り破り、本能のままの行動に出ていた。
「俺の友達を殺そうとする肉、ミツケタ。」
ふと、意識が戻る。
しかし目の前にいる女に対する感情に変わりはない。
俺は銃を俺に向けている美結に詰め寄った。
「動かないで、撃つよ。」
警告をするが、かまわない。
頭を打たれない限りは俺は無敵だ。
後三歩で殴れる距離になったところで美結が俺の心臓をめがけて銃を撃った。
しかし少し後ろに下がったくらいで、変わらないペースで詰め寄る。
「許さない。」
俺が出せる限界の言葉だった。
美結の銃を掴み、銃身を折り曲げる。
その時の美結の絶望した顔は忘れられないだろう。
「このっ!」
美結が蹴りを出してくるがたやすくつかみ、膝をひねる。
「あああぁあぁああぁ!!」
苦痛に顔がゆがみ、美結が立てなくなる。
「終わりか。」
俺はうずくまっている彼女の両肩を外し、その奥にいる人に近づいた。
「どういうことだ、なぁ。」
大毅に静かな声で問う。
いや、声が出せなかった。
涙が出ないほどに、今置かれている状況が悲しかった。
現状に追いつけなかった。
「見ての通り・・・噛まれたから・・・ワクチンを入れたんだ。」
「助かるのか・・・?」
大毅は渋い顔をした。
「半分・・・」
やはり追いつけなかった。
言葉の意味が分からなかった。
「そうか。」
理解するしかない。
頭の中がまとまらないが、詰め込んだ。
優が死んでしまうかもしれないこと、感染者になってしまうかもしれないこと。
優の中から俺たちの記憶が消えてしまうかもしれないこと。
その可能性が、50パーセントに詰め込まれていた。
「お前たちにあらためて言っておくよ。信じてくれないだろうから、身をもって証明してやる。」
俺は威圧的に、かつ伝わりやすいようにその場にいるみんなに向けて話し始めた。
しかし、俺が人間としての定義から外れていることは、話したとしても伝わらない。
いまだに呻き、痛がっている美結に近づく。
「この・・・クズ!」
俺に向かって捨て台詞を吐くが、大したダメージではない。
俺は美結のジャケットを裂き、シャツを裂き、腹と胸をあらわにさせた。
「ちょ・・・!」
「なにしてんだ、加寿!」
大毅や真奈美は俺を止めようと声をかけ、美結は怒りを露わにしている。
俺は口を開き、美結の腹を噛みちぎる。
すると今までで一番大きい悲鳴を上げて、転げまわろうとした。
しかし俺は腕をつかみ、動けないようにする。
周りの音も気にせず、俺ははみ出た内臓を食い始める。
肉とは違ったグミのような食感と、苦みが口の中に広がる。
やっぱり生は苦いみたいだ。
「もう用済みだ。」
俺は美結の首を掴んで持ち上げ、廊下に連れて行った。
「ごめん・・・な・・さ」
「黙れよ、クズ。」
謝る美結を無視して、俺は廊下の奥をめがけて投げ飛ばす。
鈍い音がして、声が聞こえなくなるが、俺は構わずにみんながいる場所に戻った。
「これが俺の正体だ。もう俺はお前たちには関われない。」
それだけ言ってその場を去ろうとする。
しかし真奈美は俺の腕をつかんだ。
「行かないで・・・もう失いたくない・・・」
To be continue....................




