倫理と精神
人間としての倫理が崩れたとき、その精神は崩壊する
加寿Side
「・・・」
長い、夢を見ていた。
生まれてから今までで、一番幸せな夢。
「ねぇ、あんたっていつもぼーっとしてるよね。暇なの?」
昼休みに教室で暇してたら隣の女子に声をかけられる。
高校生とは思えないほどの濃い化粧をしていて、髪の毛も腰近く、茶髪に染めたギャルだ。
「なんだよ藪から棒に。あんたと話したことあったかよ。」
女が嫌いだった俺はそう突っぱねた。
しかしその女は構わず話しかけてくる。
「この時間になってくるとお腹すくよねー?」
ギャルが時計を見ながら言う。
「飯まだ食ってねぇからな。」
「なんでよー!」
ギャルは俺の近くまで顔を寄せてくる。
ふわりと香る柔らかい匂いに少し驚きながら、優しく肩を押す。
「近い。飯なんか持ってきてねえよ。いつもな。」
「なんでー!?親は?」
「どっちも死んだ。俺は一人暮らし。」
なんで俺は初対面の女にこんなに話してるんだろうか。
疑問を抱くが、この女は話しやすい。
飯を持ってきてないことを知ったギャルは教室を飛び出してどこかへ行ってしまった。
「なんだよ・・・人の話聞かねぇのかあいつ?」
身勝手すぎる行動に少し苛立ちながら、漫画を取り出して読み始める。
五分ほどするともう一人女を連れてきていた。
その子は片手にコンビニ袋を持っていた。
「この子はあたしの親友!」
「いきなり言われても・・・お前らの名前知らねぇし・・・」
俺が動揺していると、ギャルの親友が落ち着いた様子で話し始める。
「ごめんなさい、真奈美が失礼したわね。あたしは井上優よ。こっちのお調子者は金沢真奈美よ。」
「お調子者とはなんだー!」
お調子者という言葉に反応して真奈美が優に後ろから抱き着く。
優はやれやれという様子で受け止め、俺にコンビニ袋を渡してきた。
「お昼ごはん、持ってきてないようね。私は弁当があるから、あなたにこれあげるわ。」
「あ、あぁ。ありがとう。そ、その・・・何て呼べば・・・?」
俺がそう聞くと、優はフフッと微笑み、真奈美が笑い出した。
「親しくしましょう?下の名前でいいわよ。あなたの名前は?」
「俺は竹中加寿だ。加寿って呼んでくれ。」
簡単な自己紹介も終わり、コンビニ袋の中身を見る。
「こ・・・こんなに!?」
中には、板チョコが10枚ほど、炭酸飲料をはじめとしたペットボトルも3本ほど入っていて、なによりも・・・
「本当にいいのかよ・・・?」
コンビニ袋から、コンビニで一番高い弁当を出し、優に聞いた。
「フフッ。あなたにあげたいからあげたのよ。一人暮らしなんでしょう?あたしたちを頼っていいのよ。」
俺はこの時気づいた。
優が、好きだ。
性格、雰囲気、そのどれもが俺の母親と重なっていた。
優しいその瞳、笑う時に見せる八重歯、その上品さまで、すべてが母親だった。
俺はしばらくコンビニ袋を持ったまま動けなかった。
「加寿?どうしたのー?」
不思議に思った真奈美が俺の肩をゆする。
「あ、あぁ・・・なんでもない。なぁ、ここの三人で飯・・・食わないか?」
俺は無意識にこいつらと仲良くしたくなった。
「もちろん!」「いいわよ。あたしの席はここなの。」
何と、優の席は俺の右斜め後ろだった。
「今まで気づかなかった・・・学校生活なんかどうでもいいと思ってたからな。」
こいつらが、俺の学校生活を変えてくれた。
俺の・・・俺の・・・
・・・・・・・・
夢から覚める。
目に入った光景は、はるか先にある天井だった。
「・・・ってぇ。」
頭を打ったようでかなりガンガンしているが、何とか立ち上がる。
「夢・・・か。でも、本当だったんだよな。」
あれは夢だったのだろうか。
もしかしたら、走馬灯だったのかもしれない。
物思いにふけていると、今までで一番堪えがたい空腹感が俺を襲った。
「ぐうぅ・・・腹が減った・・・」
口からよだれがあふれ、全身が肉を欲している。
澄み渡る視界であたりを見渡す。
近くに、倒れている一人の男がいた。
「と、冬馬ぁ・・・」
涎が増える。
冬馬に近づき、口を開いた。
肩に歯を立て、思いっきり引きちぎる。
「・・・美味い。」
体が一瞬震えあがる。
美味だった。
一回だけ食べた、母親の弁当みたいだ。
肉汁が口を満たし、生肉特有の苦みが広がるが、それ以上の甘味がそれを覆った。
気づいたら首元を引きちぎっていた。
下品な咀嚼を繰り返し、ゆっくり飲み込むと、さっきの空腹感はなくなり、全身の痛みが消えていく。
しかし、罪悪感が背中をくすぐり、ついには全身を包んでしまった。
「俺は・・・俺は・・・人間じゃ・・・ない・・・」
口の周りに血を付け、俺は立ち尽くしてしまった。
俺は、もうあいつらに顔向けできない。
永遠とも思えるほどの時間、俺はその場に立ち尽くした。
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大毅Side
「美結!」
銃を向けた美結に俺は叫ぶ。
彼女の表情は無表情だった。
まるで単純な作業を繰り返して飽きてきたような、そんな無表情。
不気味さを感じていると、俺の横に銃弾がかすった。
「なっ・・・!」
「あんたたち、ほんと馬鹿。よく信じてられるね。国も、軍も、仲間も。」
美結は顔一つ変えず、口だけ動かしてこっちに近づいてくる。
「この世界ってさ、一緒に行動すると死ぬんだよ。いなくなるの。その前にさ、裏切ったほうがお互いのためじゃないかな。」
自分がしたことを正当化するような言葉に、俺は怒りを覚える。
「ほら、そこにいる優って人。生きるか死ぬか半分なんでしょ?なら殺したほうが」
「ふざけるな!」
突然、叫び声がした。
美結の後ろに、ハンドガンを構えた真奈美がいた。
今にも泣きそうで、それでいて怒りで震えている。
「生きるか死ぬか半分なんて、みんなそうでしょ・・・なんで優だけ殺そうとするの・・・殺したほうが楽なら、あたしだって殺してよ!」
「な、なぜ・・・」
ものすごい剣幕で真奈美が続ける。
「優とあたしが置かれてる状況が違うだけで、生きる確率と死ぬ確率は同じなの!あなただって!ここであたしが引き金を引けば、あなたは死ぬ!状況が違うからって、あきらめて殺そうとするな!」
真奈美は向けていた銃を下ろす。
その様子を見た美結が、笑い出した。
「つくづく馬鹿だ。まだそんなものにとらわれてるんだねぇ。あんた。」
煽るように、美結が真奈美に攻め寄る。
「もうこの世界に倫理も価値観も存在しないの。いい?」
美結は真奈美を蹴飛ばし、部屋の外に突き飛ばした。
「よし、じゃあみんな死のっか。あたしだけでいいよね、生きてるのは。」
美結が背負っていたアサルトライフルを構え、俺たちも構え始めると、ドアが蹴り破られる音に続き、低い男の声がした。
「俺の友達を殺そうとする肉、ミツケタ。」
To Be continue.............




