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空の向こう側  作者: クチン
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幼馴染み2(真奈編)

真奈と源太郎は町を歩いた。

しかし、町といってもほとんど畑ばかりであまり見るものがない。

「ここが俺の町のメインストリートだけど、どう思う?」

「えーと、自然豊かでとても気持ちいいです。と、思います」

真奈の町はこの町よりは発展していたが、写真でここを撮って見せられても、どっちが真奈の町かわからないほどの違いであった。

しかし、真奈は自分の町はもちろん、自然が大好きであったため町を見回るのは楽しかった。

「少し喫茶店で休むか、ちょっと疲れたしな。歳をとると疲れやすくなってね」

「そうですね、少し休みましょ」

真奈と源太郎は喫茶店に入り、窓側の席に座った。

窓から見える景色は風情のある田園風景だった。

窓の外を見ながら、源太郎は呟いた。

「この歳になってこんなに楽しそうなことに関われるなんて幸福者だな」

「ん? 何か言いました?」

「いや、何も言ってない」

コーヒーが運ばれてくるまで、源太郎から色々な経験を聞いた。

コーヒーが運ばれてくると、真奈と源太郎は無言でコーヒーを飲んだ。

「あのさ、この町に来て何かいいなって思ったことある?」

源太郎は気になっていたが聞けなかったことを聞いた。

「そうだなぁ、あの山はいいなって思った! 私の町は田舎だけど近くに大きな山はないんだ。この町に来て山登りが好きになっちゃった。正樹と一緒にこの町に来れて本当に嬉しいなって思う、本当にね」

真奈は源太郎の顔をじっと見ながら、自分の正直な気持ちを伝えた。

あまりにも、まっすぐとした目をして源太郎を見つめたため、源太郎は恥ずかしくなり窓の外を見た。

窓の外には相変わらずのどかな空気が流れていた。

源太郎の行動を見た真奈も、恥ずかしさのあまり下を向いた。

二人は再び、静謐な空気に包まれた。

ここは田舎、車の音もしない。

もちろん電車の音もしない。

窓の外は森閑としている。

先に口を開いたのは真奈の方だった。

居住まいをただし、静かな声で言った。

「私たちのことは気にしなくても大丈夫ですよ。気にしないでと言われても、絶対気になるとは思うのですが、変に構わなくっても良いです。あ、別に源太郎さんが嫌なわけではなくて、私たちのことで頭を悩ませないで欲しいってことです」

とみに、真奈が真奈らしくない事を言い出したので源太郎は驚きを隠せなかったが、真奈の純真とした言葉は、源太郎の心に届いたらしいが、トイレに行くと言って少し席をはずしてしまった。

真奈は源太郎が席をはずすと、さっき自分が言ったことは間違っていなかったか、きちんと源太郎に伝わったか、などと考えていたがきっと伝わっただろうと感じ、またコーヒーを口に含んだ。

真奈が口をつけたところからは、一筋のコーヒーが垂れた。

源太郎はすぐに戻ってきたが、いっこうに顔を見せてくれない。

やはり、自分は源太郎を傷つけてしまったのではないかと思い始めた。

しかし、源太郎は5分もすると顔を上げいつもの源太郎に戻った。

「頭なんて悩ませてないぞ! どちらかと言うと二人が来てからは毎日が楽しい。これからもずっと一緒に居れたらなと思うくらいな。それで、いつまで一緒に居るつもりだ?」

「実を言うと、まだわかりません。いつも正樹と一緒に決めてるから、自分一人で決めることは出来ないんですよ。仲直りしたらまた言います。あと、こんな私たちを受け入れてくれて本当にありがとうございます」

もう一度感謝の言葉を伝えると、今度は源太郎が話始めた。

「正樹との喧嘩の発端を作ったのは本当にすまなかった。けれど、正樹がこれ以上何かを言ったとしても考え方は変わらない。これだけは理解してほしい」

源太郎は真剣な顔立ちになり、有無を言わせぬ空気を作り出した。

その空気には、これまでの源太郎からは感じたことのない悲しみや憎しみ、そして、苦しみが浮かんできた。

その中で、1つだけ、たった1つだけ美しい色があった。

思い出だ。

思いでだけは源太郎の心のなかで、きらきらと輝いていた。

「少しだけ、話を聞いてくれないか?」

真奈は静かに頷くと、源太郎はゆっくりと話始めた。

「真奈ならわかってくれると思うんだけど、昔は友達でも今は友達じゃないって人はいるよね?」

真奈はうなずいた。

「まあ、俺の場合は他の人とは事情が違うのだがね。俺は昔、ここには住んでなかったんだ。もっと自然の豊かな、いや、自然しかないところで暮らしていたんだ。あのときはまだ小さくてな、家族で楽しく暮らしていたんだ。けれども、あるとき俺の親父が熊に殺されたんだ。何で殺されたと思う? 簡単なことさ、親父は人を守るために死んだのさ。親父が死んだときは本当にショックだった。毎日目が覚めると、親父が畑仕事をやってるのではないかと思っていた。それほど信じたくなかった。……信じたくは。けれども、同時に誇らしい気分にもなった。親父は人を助けるために死んだ、ヒーローだったからだ。ここまでは良かった。そう、ここまでなら良かったのに……」

そこまで話すと、源太郎は言葉に詰まってしまった。

真奈はどうすることも出来ず、源太郎が話始めるのを無言で待った。

時計の針がチクタクと鳴る音。

全身を流れる血の音。

そこは時間がゆっくりと進んでいるような錯覚に陥った。

その後もずっと待っていたが、結局口を開くことはなかった。

喫茶店からでると、辺りは暗くなっていた。

暗くなると、田舎の風景は大きく変わる。

昼間は色のあった稜線も、今は黒一色のモノトーンになっている。

田舎道には街灯が一つもない。

夜出掛けることはできるが、あまりおすすめしない。

不便なことばかりあると感じる人もいるが、案外そうでもない。

夜はきれいな星が見れる。

流星群だって見ようと思って見れるからだ。

帰り道、正樹は何を言ってくるかとても気になっていたが、正樹のことだから真面目に謝って終わりかな、と考えながら歩いた。

源太郎は今も暗い顔をして歩いていたが、今までと接し方を変えずに放置することにした。

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