幼馴染(正樹編)
真奈が家を飛び出した後、僕はいろいろなことを思い返した。
「そういえば、今回の旅は真奈がいたから出来たんだったな」
小さく呟きながら、その場に座り、今までのことを思い返した。
今考えると、このたびに出るきっかけを作ってくれたのは真奈、僕が友達をたくさん作ることが出来たのも真奈のおかげだ。
小学生の時に真奈に出会って、真奈と一緒に遊んでいると別の人もやってきて僕らの輪に加わる。
これが繰り返されて、僕もいつの間にかいろいろな人と知り合いになることが出来た。
思い返せば、僕の人生にいつしか、真奈は必要不可欠な存在になっていたが、今の今までそのことを忘れていた。
それなのに、僕はなぜあんなに理不尽な怒りかたをしてしまったのだろう。
僕は居た堪れなくなり家じゅうを歩き回ったが、落ち着く気配は全くうかがえず、現実逃避するため布団に入ることにした。
僕は夢を見た。
どんな夢かというと、僕と真奈で、幸せな家庭を築いている夢だ。
しかし、そこには名前も知らない一人の女性もいた。
なんと、僕と真奈の間には小さな子供がいてその子と手をつないでいた。
僕ら四人はとても楽しそうに話していた。
夢は突然場面が変わり、小さかった子供は高校生くらいに成長していた。
僕らも成長しており、少し老けていた。
先ほどまでの幸せそうな雰囲気とは打って変わって、少しぎすぎすとした空気が漂っていた。
真奈とその子供は喧嘩しており、僕が中に立って二人をなだめていた。
すると、また場面が切り替わった。
誰かのお葬式の場面になった。
僕と子供と一人の女性は涙を流していた。
そう、真奈が亡くなったのだ。
僕は50代くらいで、子供は社会人になっていた。
女性も僕と同じくらいの年齢だった。
また場面が切り替わった。
しかし、真っ暗で何も見ることは出来ない。
それどころか音もない。
僕は死んだのだ。
ここで夢は終わった。
目が覚めたが、寝る前よりも複雑な気持ちになってしまった。
しかし、今は夢よりも大切なことがあるのだ。
目の前にあることを解決してからの未来だ。
今はどうやって真奈と仲直りするか考えないといけないのだが、誰彼が見ても僕が悪いのはわかる。
自分でも自分が悪いということははっきり、ほかの人よりもよっぽど理解している。
しかし、真奈が家にいないため、今すぐに謝ることが出来ない。
時間が経つと謝ることさえ難しくなってくるのを僕は知っているので、早めに済ませたい。
真奈が戻ってこないことは無いと思ったが、心配で心配でたまらなくなった僕は外に出ることにした。
いつも何気なく歩いている道だったが、今はいつも歩いている道とは思えなかった。
そういえば、小さいころもこんなことをしていた記憶がある。
真奈はよく外でかくれんぼをするのが好きだった。
しかし、決して鬼になろうとせず、いつも隠れてばっかだった。
けれども、不思議なことに誰も文句を言わなかった。
僕も何回か鬼になったことがあったが、最後に見つけるのはいつも真奈だった。
真奈は隠れるのがとても得意であったため、最後はみんなで探すのが恒例になっていた。
それ故に起きた事件がある。
真奈が全く見つからず、少し待っても出てこないという出来事が起き、みんな真奈が帰ったと勘違いをしてしまい、一人公園に残されたことがあった。
僕も家に帰ってしまったが、真奈のお母さんから僕の家に電話があり、真奈が帰ってないと知ったので僕は慌てて家を飛び出し、公園まで探しに行った。
「真奈! どこにいるの? もうかくれんぼは終わったよ」
「ぐすっ、ぐすっ、ま……、正樹。どこにいたんだよ! まなを見つけられないからって帰ったんじゃないよね?」
真奈が顔をぐしゃぐしゃにして、泣きながら出てきた。
「まなって本当に隠れるの上手だから困っちゃう。……困っちゃうなぁ」
真奈は胸を張りながらしかし、目からは大粒の涙を流しながら自慢してきた。
そんな真奈を見て小さいながら僕は心が痛んで真奈のことを見ていられなくなった。
「なんで見つけてくれなかったの? 正樹なら見つけてくれると思ってたのに」
最後の言葉で僕はとても傷ついた。
真奈は僕のことを期待していたのにそれを裏切ってしまったのだ。
言葉一つ聞くごとに、忍びない気持ちが積み重なって、最後の一言で体の底から溢れ出てしまった。
「……ごめんね……」
短い一言を添えて、僕は真奈を抱きしめた。
小学生のころだから出来たことで、今は到底出来っこないが、抱きしめた時の真奈の安心した表情は今でも鮮明に頭に残っている。
これが効果的かどうかはわからないが、少なくともいやではないはずだ。
しかし、この年になって抱きしめるのはとても恥ずかしい。
これは得策になり得るので、いったん保留としてほかの方法も考えることにした。
今まで大きな喧嘩はしてこなかった僕にとって、今回の出来事はとてもイレギュラーな事態だ。
慎重に扱わなければならない最重要課題になった。
迷惑かけてばかりの僕は、一つくらい真奈の役に立つことをやりたいと考えているのだが、あまりいい策が浮かばない。
結局、真奈を抱きしめることに決めた正樹は覚悟を決め、家に帰った。
「た、ただいま」
「…………」
「誰かいませんか?」
「…………」
「…………」
帰り道に感じていたあの緊張感はなんだったのだろう。
少し前の僕に緊張するなと言いたいほど緊張で胸が張り裂けそうだった。
僕の今の状態はまさに、気が抜けている状態だ。
仕方なく家に入った僕は真奈の帰りを待つことにした。