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空の向こう側  作者: クチン
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源太郎

家にあがると、そこはとても質素な作りであった。

置いてある物も少なく、部屋はきれいに保たれている。

家自体は普通の作りであるが、ものが少ないせいか、広く見える。

源太郎はここで独り暮らしをしているという。

「君たち二人はなんでこんな田舎にやって来たんだい?」

源太郎はもっともな質問を投げ掛けてきた。

僕は答えるのに困った。なぜかというと、特に目的はないからだ。

しいて言うならば、人間として成長するためだと思っている。

それを伝えたら、源太郎は笑いながら言った。

「わしにもそういう時期があったな! はっはっは、懐かしいわ。そうだ、一つ昔話をしようか」

そう言うと、源太郎は話始めた。

「あれはわしが君らと同じくらいの歳だったかな? 一人で旅をしようと思ったんだよ。いわゆる自分探しの旅っていうやつだね」

源太郎は遠くを見ながら話した。

「その時わしは自分の町にいるのが嫌だった。だから、遠くに行って自分の好きなことをしようと思ったんだよ。遠くに行ったら何か変わると思ってね! だけど、何も変わらなかった。結局旅をした意味なんて何も見つけられなかった。そこで、帰ろうとしたらある人に声をかけられたんだ。誰だと思う? わしの妻だ。その時思ったんだ。神様は優しいってね。だって、その人はとても美人で、優しかったからね。そこからとんとん拍子で進んでいき、結婚した」

すべてを話終えたあと源太郎は僕らを見た。

「この話を聞いても、旅をしようと思う?」

「旅をやめようとは絶対に思いません。第一、何も変わらなかったのは自分のせいだと思います」

僕は今までに無いような大声で反論した。

しかし、言った後になって自分は失礼なことをいってしまったことに気づき謝った。

「そうだよな! もし、ここで旅をやめるって言ったらすぐに追い出そうと思ったけど……、君は本当の自分の気持ちを言ってないよね?」

鋭い目付きで僕を見てきた。

僕は言葉に詰まってしまった。

「それは……、他にも理由がないわけではないですが、源太郎さんが言うような本当の気持ちは言いました」

すると、今まで静かにしていた真奈が会話に入ってきた。

「正樹は自分の気持ちをあまり外に出さないんだよ! 源太郎さんが言うように、何か他の理由があることは確かなんだけど」

二人は僕のことをじっと見てきた。

ずっと僕のことを見ていたため、それに耐えかねた僕は正直に自分の気持ちを言うことにした。

「実は、僕も町から出たいなと思ってたんです。それで、一人で行くのも嫌だなって思って真奈を誘ったのです」

案外、言ってみると気持ちが楽になった。

すると、源太郎が言ってきた。

「それなら近くにある山を登ってみるといいよ」

「わかりました。では、明日登ってみます。あと、源太郎さんがどんな旅をしたのかすごく気になるので教えてください」

すると、源太郎は渋々話し始めた。

「初めは希望に満ち溢れていたんだよ。『山を越えたらその先には何があるのだろう』ってね。だけど、なにもなかった。君が言うには、見つけられなかったのかな。そこで引き返そうと思ったんだけどまだ何かあるだろうという希望を捨てきれず旅を続けた。けど、何も見つけられなかった。けど、一つだけ良いことがあったんだ。さっき言ったことさ」

妻を思い出す源太郎の顔は悲しそうだった。

僕たちは明日、山に登ることにしたため早めに寝ることにした。

朝起きると、すでに源太郎はご飯の準備をしていた。

源太郎は渋々僕たちが安全に山登りが出来るようにいろいろ準備してくれた。

真奈は相変わらず起きるのが遅かったがいつもよりは早く起きたお陰で山登りに間に合った。

源太郎は山の上にある神社にお参りして帰ってこいと言っていたのでそうすることにした。


山の麓に着くと、案内図があった。

案内図によると、山頂までは4時間ほどで登れるらしい。

「早くいこうよ! 遅かったら置いてっちゃうよ」

真奈がせっせと山を登り始めてしまったので僕も急いで着いていくことにした。

この山の麓には大きな鳥居が建っていた。

どのくらい登ったのだろう、僕たちは時間も忘れるくらい一生懸命登っていたので時間を見ることにした。

時計を見てみると、麓にいるとき見た時間から10分しかたっていなかった。

不思議に思ったがそのまま登ることにした。

すると、辺りから音が消え、霧がかかってきた。

いま進むのは危険と判断した僕らは霧が晴れるまで休むことにした。

「ねぇ正樹。私たち今日中に帰れるかな? もしも帰れなくなったら大変だよ。熊とか出てきたらどうしよう」

真奈はだんだん不安になってきたのか、僕にぴったりとくっついてきた。

「熊が出たら、ゆっくり背中を向けないで下がれば大丈夫だよ。帰れなくなったら仕方ない。いま動くのが一番危ないからね」

僕は冷静に考えた。

しかし、霧がかかることがあっても、音が消えることはないだろう。

鳥居をくぐった時に、少し空気が変わったことを感じたが、あまり気にしていなかった。

この山には何かあると思った矢先、遠くから人影が現れた。

警戒して人影の方向を見ていると、一人の女性が現れた。

「あなた達、ここで何してるの?」

女性は少し怒りながら言ってきた。

「山登りに来ました」

「なぜこの山を登ったのですか?」

僕はなぜこんなことを聞かれないといけないのか疑問を抱いたが、答えなければ話が進まないと思ったので答えることにした。

「源太郎というおじさんに言われて登ることにしたんです」

女性は源太郎という言葉を聞くと、とても驚いたように聞き返した。

「源太郎?」

「はい」

すると、女性は困惑しながら言った。

「今日は危ないから下山した方が良いよ。早く帰りな」

と言い、早早にその場を離れた。

「あの人が言ったように早く下山しよ!」

真奈が急かしながら言った。

僕もその方が賢い選択だと考えたため、下山を選んだ。

下山には一時間ほどかかった。

家に帰ると早速源太郎に女性のことを聞いた。

源太郎に女性のことを聞いても全然知らない人だと言っていた。

しかし、一方的に名前まで知られているということは、源太郎も 知っている人なのではないだろうか。

そう考えた僕らはまた、あの山に登ることにした。

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