散策
僕は家に帰り布団に入りながら今日までのことを振り返った。
旅に出ると決まった時には思いもしなかった出来事がたくさん起きて自分自身戸惑うこともあったが、充実していたことは間違いない。
真奈が東京に行きたいと言ったので少しの間、東京観光をしたが、そこでもいろいろなことがあった。
一番忘れられないのは見ず知らずの女性に声をかけられたことだ。
その出来事があってから僕は真奈のことを守ると決めたのだが、結局今の今まで真奈に助けられ続けたのだ。
東京にいた頃は本当に守らなければと真剣に考えていたが、今はそんなことも忘れてしまっている。
むしろ、僕は人を守ることに向いていないのではないかとさえ考えている。
そして、もう一つ忘れられないのは成海との出会いだ。
成海に出会ったことで旅に来てよかったと思うことが出来たのだ。
最近は成海とも連絡を取っていないがはたして彼女は元気なのだろうか。
そして忘れてはいけないのは源太郎との出会いだ。
彼との出会いは僕ら二人に大きな影響を与え続けている。
彼との出会いがなければ今のように充実した旅が出来なかっただろう。
本当にお世話になっているので僕はお礼をしたいと考え、春枝との仲を取り戻そうと考えたのだ。
今まで起きたことを一つ一つ振り返っていたが、いつの間にか寝てしまったようだ。
今日は今までで一番気持ちのいい朝になった。
今までモヤモヤしていた気持ちが晴れて、しかも真奈ともきちんと仲直りすることが出来たからだ。
そこで、僕は何か真奈と楽しい思い出を作ることが出来ないかと考え、一緒に日帰り旅行をしようと考えた。
「真奈、もう起きてる?」
「……う……ん、起きて、るよ」
まだ完全に意識が覚醒していないのか、とぎれとぎれに返事をした。
「今日二人でどこかに行きたいなぁって考えてるんだけど」
「……うん、そう、だね」
まだまだ起きそうにないので僕は少し意地悪してみた。
「眠いんだったら行かなくてもいいけど。……じゃあ」
「……え? 待って待って、行く! すごく行きたい! あと十秒待って、すぐに着替え終わるから。」
真奈は言葉通りに早着替えを終えて、すぐに僕の後に追いついてさっきまで寝ていたとは思えないほどのハイテンションで話しかけてきた。
「私ね、やっぱり自然の中にいることが好きって気付いたから、ここらへんの散策したいな! それでもいいかな?」
真奈たっての希望だったので、ここら辺の散策をすることにした。
「そうだね、よく考えてみると散策したことなかったね。山しか行ったことなかったかな」
「本当だよ! ここは自然豊かなんだからもっと楽しまないと!」
僕らは朝ご飯を早めに済ませると、源太郎に散策に行くことを伝えて家を出た。
行くあても何もなかったので、午前中は町の中を歩き、お昼を食べてから少し遠くまで行くことになった。
「またこうやって正樹と歩けるなんて、私、うれしいな。本当に旅に出て良かったよ。正樹がもっといい方向に変わってくれたらもっと嬉しいけどね」
「僕も、まさかこんな旅になるなんて思ってなかったよ。だけど、真奈と今までよりも仲良くなれた気がしてうれしいな」
それを聞いた真奈は少し顔を赤くして小走りで僕の前に出てきた。
「ついこの前まで人と話すことがとても苦手で不器用だったのにこんなことも言えるようになったんだね! 私うれしい!」
それを言われた瞬間、僕は恥ずかしくなって顔をそむけると、意地悪そうな顔をした真奈が再度ちょっかいを出してきた。
「そうやって表情も豊かになってきたし。かわいいなぁ。……はぁ、本当にね」
最後はつぶやいて僕の心の変化を噛みしめた。
そんな話をして散歩をしていると、遠くのほうにきれいな街並みが見えてきた。
今までこの町で暮らしてきたが、なぜ気づかなかったのかと思うほどきれいな街並みだった。
家々はすべて同じ時代に建てられたもので、古き良き日本の伝統的な木造建築だ。
「きれいな街並みだね。今まで、こんなきれいなところがあったなんて全く知らなかったよ。真奈は知ってた?」
「うん。実は、正樹と喧嘩してた時源太郎とこっちのほうに来たんだ。…………そうだ! 源太郎に何かお土産でも買っていこうよ! 私たちが仲直りできたのは源太郎のおかげでもあるんだしね」
「そうだね」
そう言って二人はお土産屋さんを見ることにした。