ポケモンGo!をやっている迷惑な人をチェックできれば良いかも
色々と揉めているようですが、VRメガネを装着すると、このゲームをやっている人の頭上に、それっぽいマークが表示されるようなシステムを作ってくれないでしょうか。技術的には可能でしょ?そうすれば、こちらから気を付けて避けることが出来ます。本当は、ゲームをやっている本人が気を付けるべきなんだけど、何故かそれを期待してはいけないらしい。ゲームを擁護する人も、危ないゲーマーをどうにかするような気はないらしいし。
さらに、ゲームをやっている人が周りから分かれば、捕獲したり、ペイント弾でペイントまみれにしたりして、他の人と数を競うという新しいゲームも期待できますね。現実フィールドでのゲームは、そうでなくてはいけません。サバイバルゲーム@現実フィールド。付いて来れないヌルゲーマーは、家に篭っていてください。
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深夜2時。狩の時間。私は濃い紺色のスーツを身に着けると、高層マンションの最上階にある自分の部屋の窓から飛び降りた。スーツの力で音もなく地面に降り立つ。VRグラスに送られてくる情報によれば、今夜の獲物はいつも通り繁華街及びその周りの道に数多く現れている。近くの公園にも多くの反応がある。少数だが学校や病院に入り込んでいる個体もいるようだが、私有地内の獲物に関しては管理者に任せておこう。しかし、あの病院に入り込むとは愚かな話。医学の発展のための検体になるのがオチなのに。
繁華街に続く道で獲物を発見。直ちに狩及び排除を試みる。夜はこれから。
引きこもりや、それほどではなくても外出する人間が少なくなり、観光地、外食産業、小売店などは大打撃を受けている。外出しなくてもVRで観光地の景色は楽しめるし、買い物は通販で済む。こんな時代に誰が好き好んで外になど出るだろうか?この事態を重く見た政府は、極秘に大手ゲームメーカーにあるゲームの開発を命じた。位置情報を管理することで、現実にその場にいなければモンスターを集めることの出来ない「もんすたコレクト」。「もんすた」を求めて、外出した人が外で買い物をしたり、観光地やもんすたが大量に湧く名所に集まったりして、集客効果も期待できるはずだったのだけど…。
実際はそうはならなかった。ゲームのプレイヤーは、もんすたを求めてうろつくだけで、買い物をしたり、名所を楽しんだりはしなかった。それどころか、もんすたをコレクトするために、買う気もないのに店に入り込んだり、名所の立ち入り禁止区域にも平気で足を踏み入れたりする始末。中にはもんすたに目がくらみ、車や電車にGo!する馬鹿も現れた。
古いタイプの「スマホ」を持つプレイヤーはまだまし。いざとなれば画面から目を離して、周りを見ることも出来るのだから。しかし今私が掛けているような新型のVRグラスを利用しているプレイヤーは、現実の風景にゲーム画面が投影されているために、目を離すことが出来ない。「VRグラスなら、周りの風景がいつも見えているから危なくない」とかいう売り文句は、嘘だった。人間は見たいものしか見えないのよね。
案の定、私の見つけた獲物は、口を半分開けて手を前に伸ばし、「あーうー」と変な声を出している。まるでゾンビ。もう頭の中はもんすたのことしかないだろう。家に引きこもっている人を外に出す楽しいゲームを作ったはずが、実際はゾンビが徘徊するホラーゲームだったなんて、政府もゲームメーカーも困っているだろう。しかし、だからこそ私のような狩人の出番がある。
私は、すばやく腰のアクアシューターを抜き、ゾンビに向けて引き金を引いた。
「あああ、うわぁぁ!」
ゾンビが喚く。人間に戻ったか。派手な黄色に染まった服を慌てて脱ごうとしている。VRグラスの視界も黄色に染まっているはずだ。続けて他のゾンビも同様に黄色に染めてやる。大騒ぎだ。ざまあみなさい。
公園の方で動きがあった。マップを確認すると、花弁が舞っている。これは、誰かがもんすたを集めるアイテムを使った証拠。周囲でうろついていたゾンビが公園に向かって歩き出す。最近は昼間に公園で遊んでいてもうるさいと言われるのに、夜中にゾンビが集まるなんて大迷惑。すぐに対処が必要だ。
公園に着くと、すでに100人を超えるゾンビが集合していた、管理人っぽいおじさんが「深夜の集会は困りますぅ」と泣きそうになりながらゾンビと戦っているが、効果がない。すぐに助けてあげないと。アクアシューターを最大出力にして、ゾンビの頭上を狙う。上から染色アクアを降らせる広範囲攻撃。1/3程のゾンビが黄色に染まり、公園内は大混乱になった。さらに黄色を増やそうとした私は、公園の反対側から赤色の染色アクアが放たれるのに気が付いた。…これは、狩人同士が出会ってしまったら、それが本当の獲物。
残った1/3を取り合ってアクアシューターの打ち合い。黄色から赤に、そしてまた黄色に。打ち合いながら相手を探す。ゾンビの混乱は極大に達しているが、管理人のおじさんは何が起こったかわからずに立ち尽くすばかりだ。ゾンビの中でも一人、古いタイプのスマホを持つ女だけは、「え?みんなどうしちゃったの?ねえしっかりして!」と大声を上げている。残念ながら彼女のスマホでは、ゾンビ達にスマホのカメラを翳さなければ黄色や赤色に染まったのが見えない。これは今後の課題だ。
赤に染まった所を負けじと黄色に染めようとして、アクアシューターから染色アクアが発射されないことに気が付く。しまった、アクア切れか。公園に来る前に撃ちすぎた。私はその場から逃げようとして、いつの間にか横に来ていた別の狩人の染色アクアを受けてしまう。視界が真っ赤に染まり…、そして暗転。
…大きなため息をついた私は、VRグラスのモードを切り替えると、ベッドから起き上がった。軽いVR酔いで少し頭がくらくらする。すぐに音声チャットが入ってきた。
「やあ、今日は僕の勝ちだね」
端正な顔が笑っている。画像付き音声チャット。ただ、本当の顔は分からない。かなり美化されたCG加工がされているだろう。私の画像も、ほんのちょっとだけ(本当にちょっとだけよ?)美人にしているし。
「油断したわー。最初に撃ちすぎた」
「ああ、実はそのときから確認してた。でも、今日は楽しかったな、公園では大混乱だったし、ちょっとはゾンビも減るだろ」
「うーん、でも旧式のスマホでプレイしているゾンビにあまり効果がないのがちょっとねぇ」
「スマホじゃ自分が染色されているのに気が付かないしな。それこそ実際にペンキを浴びせてやるしかないんじゃないか」
「…嫌よ、そんなの」私は笑う。「外に出なければならないじゃない」
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