番外編(あの稲妻の下1)ルイド誕生
「・・・・嫌ー!!」
稲妻に照らされたその城には
魔の力が満ち満ちて日の光の差すことの無い
暗く寂しい部屋の中で女は苦しげな息遣いを繰り返していた。
「・・・あ・・ふ・・はあ・・・はあ・・嫌っ!・・うっ・・
こんなこと・・何故・・嫌・・嫌ー!・・・汚らわしい・・男・・
お前などの・・・・・・」
女のうつろな瞳に映るものは
血のように赤い深紅の髪
深紅の髪の男は膨らんだ下腹部を震わせながら
苦しみぬく女の姿を
微笑を浮かべ静かに見つめていた。
「助けて・・・・・助けて・・お兄様・・・はぁ・・
ルイドお兄様・・・・穢れた子が生まれる・・っつ
魔王の・・・・穢れた子供がっ・・・・・嫌・・生みたくない・・」
・・・・ああああっっっー!!
ひときわ大きなうめき声を漏らすと
女は力尽きた。
この世に生れ落ちた
穢れた魔王と清浄なる巫子姫の赤子の
城内に響き渡る泣き声と
巫子姫の晒した醜悪な姿に
深紅の魔王は楽しげな笑い声を立てた。
女はまだ開ききらない瞳を
涙で潤ませながらも必死に自分を見つめる赤子が
魔王の色彩である深紅と黄金を持たずに
自分と同じ銀の髪、緑の瞳を持っているのに安心したのか
自らが生んだ赤子を力の入らない腕を伸ばし
そっと抱き締めた。
「・・・・・・ルイド。・・・・・私の大切なルイド・・・
貴方に私の愛するルイドお兄様の名前を上げる
貴方は私だけのもの・・・・貴方は
貴方は・・・・あの男の子供などでは無いわ・・・
だって・・・・・どこもあの男と同じ所は無い・・・
髪は私と同じ銀色
瞳だって私と同じ緑なのだから・・・」
「・・・ふにゃ・・」
小さな手を握りこみ
あどけない顔で女に抱かれる赤子の
何処にも魔を感じる所が無い。
どこから見てもごく普通の人間の赤ん坊で
女は安心した・・・
私は、あの男の子など産まなかったのだと。
自分の為に
自分の赤子の為に
女は生まれた時から持っていた
巫子姫としての感覚と力・・・
そして心を意識の奥底へと眠らせた。