番外編 (あの声の下)四聖騎士候補達
ー セーン・ルフル=サフラ ー
物心付いた時にはそこにいた。
そこで俺は死ぬまで生きてゆくのだと
少年にもなりきれていないその頬に呪い(まじない)の印を刻まれ
其処では珍しかった金の髪を土と汗と煤に塗れながら・・・・
深緑の瞳を燃やして
自分が誰かなんて考える暇もなく
自分がこれからどうなってゆくのか
此処から出たい
此処から出て自由を掴みたい
俺を蔑む奴らに復讐してやる
そればかりを毎日毎日考えていた。
資源大国チマには非合法に働かされている
俺みたいなのがごろごろといて
同じ位の年頃の奴が隣で何人も
友達になった奴が
息を引き取ってゆくのを
見つめながら死にたくない!!
そう思った。
「レソト・・・・レソト・・・・僕死にたくないよ・・・・・
・・・・いや・・・だよ・・・・・・」
痩せこけた頬をして乾ききった唇で、手で、
すがるようにそう言って
俺の手を弱弱しくにぎりしめる、他愛なく振りほどけそうな
その手がどうしても振り解けずにただ見つめていた。
「可哀想に・・・・でもこれからは貴方はチマの炭鉱夫レソトではなくて
帰ってきた私達の息子のセーン・ルフル=サフラです。
王と近しい血を引く王の一族セーン・ルフル=サフラ
・・・・今までの事は忘れなさい。」
本当はそんなこと思ってないくせに・・・・
分からないよ!!
言葉が・・・・通じない。
チマの言葉で話してくれないと分からない。
突然降って来た俺への声。
精霊達の・・・
炎の精霊を司る聖騎士の素質があるって
トカゲが俺の前に現れた
なんだよそれ!!
俺に押し付けるな!!
聖騎士って
実はサフラの王族だって
俺は知らない
誰も、何も嫌いだ!!
馬鹿なトカゲ・・・・
馬鹿な奴・・・そんな俺の精獣になんかなって
馬鹿な奴・・・・
ー シエザ ー
誰も助けてくれないわ!!
自分の力で生きていかなくちゃ
何も私持ってない・・・・
けれども赤味を帯びてた手入れを欠かさない栗色の髪
キラキラのこげ茶のチャーミングな瞳の
私自身とお金を稼ぎ出す腕は持っているのよ
しぶとく生きてゆく・・・・・!!
世の中金が物をいうの
地獄の沙汰も金次第
親の居ない身では何でもやって生きてゆくしかないのよ
そのためにはお金お金お金
全てそれよ!
何度袖の下で危機を乗り越えた事か
そういう時にケチったらいけないの
次のためにもね・・・・・・
親の無い子はそうでもしないと生きていけない
私は強くしぶとく生きてゆくわよ
潮風に髪靡かせて、異国のお金持ち様様達が
下りて乗って溢れ返るこの港町が
私の故郷
例え突然私に聞こえてきた精霊の声が
奥底に眠る私の大地の精霊と通じ合う能力を示しても
私は私らしく何処まででも何処ででも生きていくわ
私の可愛い金づるちゃん
貴方は私の精獣なのだから逃げられないのよ
離れられないのよ
骨のずいまでこき使ってあげる
本当に可愛い可愛い私の
精獣・・・・・・
ー シリアム ー
流れゆく水のように
吹き抜けてゆく風のように
我が一族は旅を続けた
止まる事を知らぬがごとくに・・・・・
傍に居てくれたのはいつも兄さん
いつから一緒だったのかはもう分からない
兄さんは一族の長の息子
私は長に引き取られた
一族の守り神を下ろす巫
不安定な一族の旅を守る神の声を聞く物
本当の両親なんて知りはしない
引き取った両親も知らない
記憶に有るのは
兄さんの顔
兄さんの声
兄さんの手
温かさ
ずっと奥底に人形のように座り続けて
神の声を伝え続ける私と
テントにさえ止まる事をせず
少しずつ成長してゆく兄さん
身体だけで心が止まっている私と
身体と心が成長してゆく兄さん
兄さんが離れてゆく遠く離れてゆく
血の雨・・・・私は読み解く事が出来ず
私は神の声が聞こえなくなった
一人其処にいた。
血の中に一人兄さんを待って、
ずっとずっと雨の音も木々のざわめきも
耳には届かず待って待って
兄さんは帰ってきた。
久し振りに感じた互いの温かみ・・・・・・
そうして突然私には水の、
兄さんには風の精霊が呼びかけた。
兄さんと共に身をゆだねる事を
それらは願っていた。
ー ジャラク ー
本当は生まれた時からすでに声を
聞いていたのかも知れない無意識のうちに
俺は自由でいたかった
思うまま縛られる事無く
例え自分の一族だとしても例外ではなく
長となって縛られたくは無かった
だから勝手に引き取られて一族に縛られている
あいつが可哀想でならなかった
その綺麗過ぎる水晶の瞳をガラス球のように
感情を排除して佇むあいつが
毎日その銀水色の髪を梳いてもらいながらも
愛情という感情を与えてもらえない
敬われるだけの幼いあいつ
自由に生きろよ
自由に生きていいんだ
そう願いながらも
一人あいつをおいて出て行ったのは
俺だよ
自分の茶黒い髪から巻き付けていたターバンを
外し一人で自由になった
罰・・・・・
皆死んでしまった、残ったあいつは
死に絶えた皆の血の中で一人俺を待っていた・・・
あいつが分かりえなかったって?
こんな悲劇感じ取れ無かったって?
ただ一人血の中で待っていたあいつ
俺だけを見つめるあいつ
無表情の顔の奥で瞳の奥だけにチラリと見える感情。
寂しかった・・・・
寂しかったよ・・・・・・
抱きしめるとまだ全然幼い幼児期を抜けたばかりの
小さな身体
慰める俺の手もまだ小さかった
ごめんなさい
ごめんなさいシリアム
ごめんなさい
お父さん
お母さん
ごめんなさい皆
泣いて身体の水分がカラカラになるかというまで
泣いて
俺は初めてそんな俺を慰めようとする風の声を聞いた。




