番外編 (あの銀の温かさの下)ルイド過去・・ネタバレにつき「武術大会にて」後推奨
一切の光の差さない暗闇の世界
一秒として気候が安定することが無い所。
唯一の色彩であるかのように見える白が、
冷たく激しく一面に吹き荒れる。
「・・・・る・・・・壊して・・・・やる・・・・すべて・・・・」
外で吹き荒れる雪にも似た冷たい壁が、
小さな窓から吹き込んでくる雪が、少年の火照った体を
心地よく冷やしてゆく。
「・・・サラ・・・」
瞳を閉じて呟く少年の睫毛に、頬に舞い落ちては、
その美貌に恥らうように溶けてゆく
薄っすらと熱の為にピンクに染まった細やかな頬を伝って
涙のように・・・・
少年が、知る唯一の優しい居場所は、
母親であるサラの所だった。
海原に浮かぶ神々と、精霊達に祝福された小さな大陸、
年中温かな風が吹く
その巫子大国サフラの元巫子姫
サラ=ルージュ・サフラ姫。
魔王に求められ国の為に売り渡された彼女は、
魔王との間に子を設けながらも愛することを否定し
生まれた己の子のみをひたすら溺愛した。
「ルイド・・・・私の愛しいルイド。
その美しい銀の髪も湖の底のような深い瞳も
愛しているわ・・・私だけの物よ。」
何度もそう呟くと少年=ルイドの母親とそっくりな
銀糸の髪に頬に口付けを落とした。
何度も抱きしめられ母の銀の髪に顔を埋めた。
その髪に触れた。
「サラ・・・」
あまりに小さな時に引き離された為に
覚えているのは、その髪の手触りだけになってしまった。
呪文のように呟いては、自分の右の手のひらを見る
焦点さえあっているかどうか分からない瞳で、
父親の魔王に送り込まれたモノの
命をどれくらい奪ったのか分からない血に染まった手を。
「サフラの国・・・・巫子姫・・・・・」
魔王が、何を思ってかルイドに話したことをぼんやりと思い出した
「・・・いけにえ・・・・花嫁」
サフラの国が、サラの事を魔王が花嫁に求めたとき
月の女神に祝福された最も聖なる国であるはずなのに
あっさり売り渡したこと
国で一番清らかな存在であるはずの
巫子を渡したということ・・・・。
「こわさなきゃ・・・・・すべて・・・・」
ルイドの光を失った瞳には、もうすでに何も映ってはいなかった。