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番外編(あの雨の下)ちびっこカイルと姫達


「ここで待ってたらいいのかな?」


呟くのはまだ幼いながら青い瞳に意志の強そうな光を宿した少年

カイル・イーズ。

その青味を帯びた硬い髪質の髪を風になびかせ、

王宮の城門から少し離れた場所にもたれ掛かって

誰かを待っている。


今日は、カイルも9歳になったので一度王宮に連れて行ってやろう

と叔父が、約束してくれた日なのだ。


「おじい様は、まだ早いとおっしゃっていたけれど・・・

叔父上は、年若く浅はかだから簡単に付いて行ってはいけないと

おっしゃるけどめったに入れない場所だし・・・」


両親亡き後、王家第一の祖父に厳しく育てられ、

真一文字の口元が癖になってしまっている

無愛想な顔の少年は、そう呟き考え込む

いつか祖父や叔父のように騎士となり

王家の方々にお仕えしようと思っている

カイルは将来の為にも一度王宮の中等見たいと思っていた。



勤務時間が近付いてきたのか

幾人もの騎士や騎士見習いの者達が王宮に入ってゆく


「おーい!!カイルー!!」

祖父ケイル・イーズの晩年の子叔父シアリス・イーズは、

カイルに良く似た色合いのしかし宿るものは

カイルよりもよっぽど少年ぽい輝きであるその瞳を細めて

甥の方に近付いて来た。











(困ったなー!?)

相変わらず口を真一文字に引き結び

ニコリともしない無愛想な顔のまま実は

目の前の円らな瞳の幼児とその姉である女の子に大いに戸惑っていた


「あ~う~リュナ、リュ~ナだっこぉ~ちてぇ~」

「はいはい」

抱っこをねだっているのは、

ルナ・フィリス・サフラ王女、御歳2歳

妹の相手をしてあげている女の子は、

サラ・ルージュ・サフラ王女、御歳7歳

カイルは子守りの上手な叔父の代わりに

遊び相手を任されてしまったのだ。

しかし、サラ姫は、ともかくルナ姫は、

カイルの顔を見て泣いてしまうので

その任を果たせずにいた。

サラ姫は、ルナ姫だけと遊ぶし

ルナ姫は、サラ姫に構ってもらうか

お気に入りなのか音のでる青いボールで一人遊びをするか

であった。









それからも何度か子守の為に王宮に行っていたが・・・








その日は、もう雨が降り出していた。

(・・どうして慣れて下さらないのだろう。)

僕に至らぬ所があるに違いないとますます口元を引き結び

幾度目かの遊び相手の任務を果たそうと

憂鬱になりながらも向かうカイルに、

火のついたように泣き叫ぶルナ姫の声が聞こえた

姫様付きの女官達が慰めようとしているようだが

まったく効き目がないようで

その側に唇をかみ締め泣くのを堪えているようなサラ姫の姿も有る。


「・・・・どうか・・・?」

尋ねるカイルの声も聞こえていないようだ。

(・・・!!・・あっ・・あの青いボール!!)

ルナ姫は、遊ぶ時もカイルがさようならを言うときもいつも持っていた

あの青いボールを持っていなかった。




「ルナが投げるから悪いのよ・・」

「あああ~~ん」

「泣いちゃだめなの~!!

「あああ~ん」

いつものように小さい幼い腕で

不器用にサラ姫は、ルナ姫を抱きしめる。


「だめよぅー」

激しく雨が地面を叩きつける

サラ姫も女官達も探したのだ。

でもこれ以上探せなかった。

後は、池にでも落ちたか

泥に埋まったか


サラ姫は思っていた。


(・・そこまでしてとも言えないし、

そこまでしようとすると

立場上他の人にもそれを強要することになってしまう。

忙しい両親が持たせてくれた

ルナにとっては、赤ちゃんのころから持っている物

だったので、探し出してあげたいのだけれど・・)


サラ姫は、決心した。


(黙って知らない間にさがすしかないわ・・・)

しゃくりあげるルナ姫を見ながらサラ姫は、

そうするしかないと思っていた。




雨がますますはげしくなり雷まで鳴り出す。

サラ姫は、耳を塞ぎながらルナ姫をぎゅっと抱きしめる


「あの・・・」

おずおずと差し出されるその手の上には青いボールが乗っている。


カイルは、激しくくしゃみをしながら


「あの・・」

また声をかける

ところどころが、どろどろになり全身がすでにびしょびしょ

になっている。


「これ・・」

カイルの声にそちらを向いたルナ姫は、

一瞬またカイルの顔を見て泣きそうになったが

その手に握られている物を見ると


「あーー!!」

とニコニコ笑い出す。

サラ姫も始め表情が硬かったが、

ニコニコと笑ったルナ姫の様子と、

ボールとカイルの様子を見て思う。


(このボール雨の中捜してくれたの?)



サラ姫もやがて


「ありがとう。」

と微笑みを返した。

カイルは王女達のお役に立てたのだろうか?

と、おそるおそるサラ姫とルナ姫の方を伺う


「でも、何処にあったの?」

「皆さんが探し回って見つからなかった場所で、

姫様達の行動範囲を探しまして・・・」

芝生の所を探した植木のも、

池も泥沼も探した、

王家の方の為だからと、

でも途中からサラ姫とルナ姫の為になっていたのかもしれない。

どこが違うのかは分からなかったけど


「そしたら鯉池の中で鯉が不自然に集まっていたので・・鯉が、

餌かなんかと間違って何か突っ突いているかもしれないと・・・」

あんなに大事にしていた物を無くして泣いていたルナ姫が

可哀想に思った。

サラ姫の嘆きを癒したかった。


「あーとぉ」

とにっこり笑うルナ姫に

「ありがとう」

ともう一度言って微笑むサラ姫に



カイルは、2人の愛らしいその微笑に

癖になっていた口元が綻び

やっと少年ぽい微笑みをみせることができた。









(僕は、僕自身の名に掛けてルナ姫様とサラ姫様を

お守りしたい!!)

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