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ムーンティア・・その願い

「リュクシス・・・・」




今だ再建がならない王宮の代わりとして


巫子王の都、サウスルーンの神殿を


仮宮として身を寄せていた。


祈りをささげる聖堂の女神の石像を見上げながら、


ルナは言葉を漏らした。


西日に照らされるその横顔は今にも泣きそうで


髪にあるティアラが煌いていた。




「陛下、お時間です・・」


扉の外から巫女の声がする。


そっと瞳を落とすと王の証のブレスレットを付けた腕に抱えた


カルフォス王の聖剣、


やがて思い切ったように剣を女神の石像の足元に置くと、


緑の薄絹の衣を靡かせルナは、立ち上がった。






















・・・・・一面の焦土・・・・他には誰も居ない・・・


四獣は、すでに主の元に帰って行った・・・




音もなく倒れたリュクシスに走り寄って、


抱え上げるルナを、力なく見上げる


リュクシスの口からは、血が流れていた。




「・・・・・リュクシス!・・・・リュクシスぅ・・」


「ひ・・姫・・」


血に染まった唇でリュクシスは、小さく微笑む




「・・・もってよかった・・・


・・・・だ・・から・・体がこんな・・から・・」


苦しそうに咳き込むリュクシスに、ルナは手をかざす。




「待って・・・リュクシス・・・今・・直すから」


見てみると傷一つないルナに対し


リュクシスは所々傷ついている




(守ってくれたから・・?)




「・・・何故・・・?」


リュクシスは、力を送ろうとするルナの手をそっと押し返す。




「・・感じ・・・取れるでしょう?・・・・私の命運は


とっくの昔に、もう尽きていたのです・・・」


「・・・リュクシス・・・どうしてそんなこというの?


一発殴るよ・・・・」


くぐもった声で笑みリュクシスは、


半分しゃくり上げながらそう言うルナの頬を、


震える指でそっと撫ぜる。




「・・・・私は・・・良いのですよ・・・


その力は・・・他に・・・使うべき所があるでしょう?」


苦しそうに咳き込む口元から、血を吐き出す。


流れ出す血を止めたくて、でも、


リュクシス皇子の弱弱しい手に止めれて


ルナは、唇を噛み締める。




「・・・・今まですでに尽きている命を・・・


繋いできました・・・長く剣を・・持てない体になっても


ずっと・・・・生かされて・・・来ました・・・」


「話さないでリュクシス・・」


「体が・・・時々痛くて・・・苦しくて・・・


・ ・・少なからず・・・犠牲になったものも・・


居ました・・・済まなくて・・・自分が・・


悔しくて・・でも生きました。


ずっと・・・消えてしまい・・たかった・・」


ルナの涙が、リュクシスの頬に落ちる。


噛み締めた唇が痛い。




「綺麗な・・・・涙・・・


姫の・・ルナ姫・・・の涙


・・・これ・・が・・ムーンティア・・・」


眠りに付くのに耐えるかのように瞳を瞬かせ




「リュクシスぅ・・・いや・・」


疲れたようにリュクシスは、


ゆっくりと瞳を閉じていく。


体ごと滑り落ちそうになっている


リュクシスの身体を必死で抱えあげて、


ルナは、何とかリュクシスに、力を送ろうとする。




「・・・な・・何・・の・・ため・・に・・・


女神・・の力・・求めて・・た・・の・・


で・・す・か・・?


・ ・・お・・・お・・ねが・・い・・・・


わた・・し・・は・・・」


「・・・いや・・・」


リュクシスの顔に頬を寄せイヤイヤと、


ルナは、首を振る




「・・・わ・・たし・・は・・した・・こと・・・


出来・・て・・・良か・・った・・。」


どんどんとリュクシスの体から力が抜けてゆくのが分かる




「生ま・・れ・・きて・・・・必要・・・・言われて・・


・・・・・大切な人・・・出来て・・・良かった・・・」


生気が死気に転じていく。




「嫌!嫌ぁ~、生きて!置いてかないで


もう、誰も死なないでぇ・・・・助けるから・・


私は・・・『この力(月の女神の力)』を使ったら、


それが出来るの・・・」


逝ってしまおうとする大切で、


大好きな人を止めたくて、ルナは、


必死で、リュクシスを温めるように抱きしめる。


その耳元に吐息だけで聞いた声の無い声






ごめんなさい


ありがとう




そして、




『愛しています』


誰が、とは言わないけれど、


ルナを、生まれてきて出会ったものを


大切に思った


全てを愛していると、


この人生が愛しかったのだと


リュクシスが言った気がした。














その手に握られていた月の涙石・・・


月の女神になっていた時に凝ったルナの涙




『ムーンティア』




父と母を蘇らせたくて、


ずっと願っていたもの、


どんな願いも叶う石・・・




今、逝ってしまったリュクシスをルナの元へと


引き戻せるもの・・・だけど・・












ルナは、人間を選んだ


ルナは、月の女神ではなくルナ・フィリス=サフラ


として生きることを選んだ・・・


だからもう生み出せないと思う。








殺された姉上・・そしてルイド


死んでしまったリュクシス


殺した魔獣・・たくさんの人






・・・私は・・・・・・






薄く輝く半透明の石をルナは握り締めた。






















・・・・照り返す湖の煌き


王都の月の清めの湖のような・・・・


瞳に眩しくて


緑の薄絹の衣装を着た新しい女王、


サウスルーンにて、即位した女王ルナは、


バルコニーに出る足を一瞬止めた。




わー!




見下ろすと眼下にたくさんの人々が歓声を上げていた。


神殿のすぐ横の柱にそっと視線を送ると、


シアリスとカイルが・・・そしてじいやが、


四聖騎士になった、4人の候補達が微笑んでいた。






新王バンザイ!


新女王ルナ・フィリス様バンザイ!!






大好きな、大切なサフラの国の人達の


女王ルナを祝う声が響いていた。






その歓声が聞こえる神殿の奥では、二人、


サラとルイドが今だ目覚めない眠りに付いていた。














ルナは、空を見上げて大きく息を吸い込む、




あの空、


何処までも晴れわたる青い空、


包み込む優しい漆黒の空、




太陽と月が代わる代わる巡っては


大切な子供たちを見守っている。




きっとこの空の何処かで、


・・・あの空の下で今も皆、必死に生きている


・・・あの空の下で死んでしまった誰かと交代するように


誰か生まれてきて、出会いと、別れを繰り返している・・・




皆、死んじゃった人も、助かった人も、


生きている人も


あの空の太陽と月が優しく見守っている・・・・










・・ルナは、少し離れた後ろで笑う、


深紅の髪を持つもう一人のとても大好きな人に微笑み返した。














~完結~





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