武術大会にて1
「女王!!姫様!!」
風に乗って聞こえて来たルイドの不親切な説明に
武術大会のパンフレットもお金の計算の帳面もそのままに
慌てて飛び出して行くカイル。
それを見ていたルイドは、独り言のように小さく呟く。
「あの娘と子供に死なれたらこれからの楽しみが無くなるからな・・・
あいつを手伝ってやれ。」
さも面倒くさそうに言うルイドの後ろにいつの間にか来ていた影が、
かすかに頷く。
「俺が行くまでもない。」
そう言って中庭の芝生に寝転がるルイドの姿に気付いた
他の客が、ざわめく。
しかしその客達の目に影は、見えてはいなかった。
「・・・しかし若様。」
恐る恐る影が、問う。
「若様は、本気であの娘を妻になされるおつもりなのですか?
ずいぶん肩入れなさっておいでですが・・」
影のその問いにルイドは、殺気をはらんだ眼差しを持って返す。
「さしでたことを・・・」
そう呟く影に、ルイドは視線を戻し
「消えろ。」
と命ずる。
影が消え去った後、ルイドはサラの髪に触れた手のひらを見つめながら
「本気な訳がない・・・あの娘が面白いと思ったからだ。
・・なんの邪気の無い瞳で、迷いの無い瞳で、結婚するなら俺が良いと言った・・」
そう言うとやがて誰も居なくなった部屋へと戻って行った。
(・・・ん・・?・・誰・・・?・・・)
冷たい床の上寝かされているルナの髪に
触れる誰かの手があった。
とても優しく壊れ物をあつかうように・・・。
優しい手にどこか心地よさを感じながら、
どうしてもルナは、目を覚ますことが、できなかった。
(あれ!!私どうしたんだろう?たしか男達にさらわれて・・目を覚まさなきゃ
そして姉上の所に帰らなきゃ)
焦る気持ちとは裏腹にもう少しこのままで居たい気もしてくる。
(帰らなきゃ・・・)
そう思いながらルナはまた、眠りに落ちた。
「ルナ・・ルナ・・僕の花嫁・・・・。」
ルナを汚すのが怖いとでもいいたげに、
その誰かは、それ以上ルナに触れることを、しなかった。
暗黒の闇の中ただ一つたたずむ城
突如としてそこに一つの影が舞い降りる。
一片の光も差し込まないその世界にあってその姿は、
不思議な存在感を持っていた。
城の中に入って行く影に執事風の男が、近付き跪く。
「お帰りなさいませ、城主様。」
その言葉に頷き城の奥にと進んで行きながら、
ふと気がついたというように問いかける。
「あの女は、どうだ?」
「相変わらずでございます。」
その言葉に鼻で、笑いながら右手を上げる。
その瞬間、銀色の巨大な鳥篭のような物が、現われた。
「久し振りだな?居心地はどうだ?」
城主の問い掛ける声に
「・・・て・・返して・・お願い・・・」
か細い女の声が返ってくる。
「居心地はどうだ?と聞いたのだぞ?」
くすくす笑いながら言葉を重ねる城主。
「・・・イド・・を・・私のルイドを・・・返してぇ・・・」
女はよろめきながら、
鳥篭の外に寄って来ていた城主の服を掴み懇願した。
「サラ、女神の愛に育まれし国の元巫女姫よ、
おまえは、私を愛すれば良いのだ、そうわたしだけを・・・」
そう言って城主は、口元に微笑みを浮かべたまま
女の長く艶やかな髪に口付けた。