解き放たれたもの
「・・・どうして・・・・?
どうして私、こんな事出来るの?」
気が付いたときには、闇空に二人で浮かんでいた。
「・・・・カル・・・・?」
共に浮かんでいる、俯いたままのカルを見、
次に視線を落とすと、
足元に広がる地上では、街が一斉に火を吹いていた。
至る所で荒れ狂う竜巻に煽られ、
ますます火が勢いを増している。
「・・・・皆が・・・・・!」
街に住んでる人達が・・・木や草や、動物達が、
炎に包まれる、
死んでしまう。
(やめて・・・そんな哀しい事を・・)
ルナの心が、哀しさでいっぱいになると
空に雲が立ち込めてきて、やがて大粒の雨が降った。
「・・・君はいつでもそうだ・・・・」
降ってきた雨に自分自身で驚きながらも
ルナが、低い艶を帯びた声に視線を向けると、
先ほどまでカルが居たその場所には、
深紅の髪、黄金の瞳をした
美しすぎる存在が居た。
「君はいつでもそうだ・・・・他の者達のこと
私以外の、その他の物達のことばかり気にかける・・・」
「・・・・し・・・深紅の・・・魔王・・・!?」
その姿は、神話に聞く深紅の魔王そのものの姿だった。
何故この人はそんなに切なそうで、哀しい瞳をして、
自分を見ているのだろう?
そこに居たカルは、どうしたんだろうか?
どこに行ったんだろうか?
ルナには分からなかった。
「・・・・そう・・・・僕は、
深紅の魔王と呼ばれる存在・・」
黄金の瞳の色を茶色に変化させて微笑んだ魔王の
表情にカルが重なる。
「・・・・う・・・嘘・・」
再び黄金に戻した瞳で、深紅の魔王は、
ルナにゆっくりと近付いてくる。
無意識に逃げようとするルナの様子に
ほんの少しの哀しさと、愉悦を浮かべた瞳をして、
魔王は、ルナの身体を自分の腕の中に捕らえる。
必死で首を振るルナの頬に、長い指を這わせて、
「・・・ルウナ(月の女神)・・・
私の・・・月<ルウナ>・・愛しい・・」
深く口付けた。
「かわいい月<ルウナ>・・・でも転生して
元の体ではない、人間のままの器で、
私を阻めると思っているのか?」
頬に触れる指はそのままで、やっと離れた唇に、
ルナは、苦しげな表情を見せる。
魔王は、ルナのその表情を見て、
嬉しくてならないといった、
しかし、どこか優しい微笑みで、続ける。
「君に奪われた体を取り戻した私に・・・
私は、元の君と、そっくり同じ力を持っているんだよ?」
「取り戻した・・・?・・・何故・・・?」
再び勢いを取り戻した炎と、風と、大地の響きと共に、
火山から溶岩が噴きだす。
ルナの降らせた雨は、
深紅の魔王の力に押されたように止んでしまい、
炎の熱によって、川の池の湖の水が、干上がってゆく。
「・・・・フフフ・・・
本当に・・ルナ、君のお姉さんと、
私のルイドは、強かったよ・・・・」
一面の炎で赤く染まりながら
楽しそうに笑う魔王にルナは、
ただでさえ滲んでいた涙が、止めど無く流れ落ちた・・。
「・・・と・・取り込んだんだ・・姉上とルイド・・
・・他にもまだ殺すの?・・やめて!もうやめてよ!!
死んじゃう・・・また、死んじゃう
じいやが・・師匠が・・カイルが・・」
どうやっても
さっきのように地上の混乱を止められない・・
「やめないよ・・この世に
僕と君以外が居なくなるまで・・・ルウナ」
「私は月の女神じゃないよ・・ルナよ
やめて・・・カル・・」
「・・カルなんて本当は嫌だった・・・
よりによって君は、大嫌いなカルフォスから
初めて出会った僕に、名前を付けた・・・」
父を母を姉を奪った魔王
月の女神の愛する人を奪った魔王・・
「・・・・・カル・・・」
でも・・痛い・・魔王の苦しみが
切なさが痛い。
「魔王・・・・カル・・・そして
ソウレ(古代太陽神)・・・嫌い・・・大嫌いだ・・
大好きな人を奪うお前が・・・・」
魔王の・・月の半身、古代太陽の瞳が揺れた。
「もう・・太陽ではないよ・・・
私は、魔王だ・・君が私を嫌いになったその時から・・
天からも地からも君からも見捨てられ堕ちたその時から・・・」
「大嫌い・・・ソウレ(古代太陽神)・・・・でも・・・」
思い出した・・他のことは思い出せないが
大切なことだけルナは思い出していた。
「・・・でも・・・・大好きな
とても大好きなソウレ(古代太陽神)・・・」
月の女神は、とても憎みながらも
半身の太陽をとても愛していたんだ・・・・
「大好きな・・・カル・・・」




