魔王の目覚め1
「約束・・・したのよ・・父上と母上と
小さい貴方を守るって・・ずっと守るって・・」
黙って、ただただルナを抱きしめていたサラが、
ルナの耳元で囁く。
リュクシスもシアリス達もサラのどこか真剣な様子に黙っていた。
「大好きよ・・・・とっても大好きよルナ・・」
「姉・・・・」
ギュッと抱きしめそう言うサラに怪訝な表情で
言葉を返そうとしたが、最後まで言葉を発することも無く
ルナは、サラの腕の中に静かに崩れ落ちた。
「・・・・・もうすぐ・・・ここは闘いの場になる・・
魔王が・・来る。
ルナを連れて逃げて!・・・時間を稼いでいる間に・・」
「・・・サラ・・・」
シアリスの声に
「・・・・次の王位継承第1位はこの子・・・・
皆で守ってくれる?」
その言葉に苦しそうに眉根を寄せたが、
シアリスは、黙って頷き、
サラから気を失ったルナを受け取った。
やがて誰も居なくなったそこで、
「大好きよ・・・・・ルナ・・・
可愛いたった一人の私の妹・・・・」
「サラ・・・」
「ルイド・・・もちろん貴方もよ・・
大好きよルイド・・・愛してるわ・・一人じゃ怖いから
一緒に居てね・・一緒に戦って・・・?」
「うん・・・・じゃあ良い・・・一緒なら良い、
俺はサラと一緒に居たい・・・・。」
ルイドはサラの髪にいつものように口付けた。
温かい背を
手を感じた。
まるで父や母・・・姉のように・・ルナを守ってくれる
温かさを感じて
何故かまだ眠っているルナの頬を涙が伝った。
『ルナ・・・・大好きよ・・・』
頼りないくせに温かく守ってくれようとした
サラの手・・・ルナの方こそ、
頼りなくて優しいサラを守ろうと思っていたのに、
温かくルナを包み込んでくれたサラの腕。
シアリスの背中の温かさと
リュクシスの頬を撫ぜてくれる手に、
ルナは、父と母、姉・・・大好きな皆に囲まれていた
幸せだった時を夢の中で思い出していた・・・・・
「死んじゃえば良い!・・・
死んじゃえば良いんだ!!・・・・・」
ルナはそう言って最後の家族を失った悲しみを
吐き出した。
憎しみと言うものを、はっきりと自覚した。
「魔王なんて・・・・私の父上と母上・・・・
姉上を傷つける魔王なんて死んじゃえば良い!」
大粒の涙を落としてルナは叫んだ。
「ちい姫・・」
サラのことを話し終わったシアリスはそう言って
慰めようとした。
「・・・なんで・・・どうして師匠は
姉上を置いていったの?・・・魔王なのでしょう?
神話の時代から居るって言う・・・深紅の魔王だったんでしょう?
すぐ行って!助けに行って!
もう、遅いって言わないぇ!」
泣きすぎて真っ赤になった瞳をシアリスに向ける。
「・・・・女王なんだよ・・・姉上はこの国で
たった一人の女王・・・強い魔力をもった皆の期待の高い
女王なんでしょう?・・・守るべき騎士の師匠が
どうして守らなかったの!?」
「・・・ルナ・・・」
「皆、私より姉上を大事にしてるくせに!・・嫌いよ!
私が行くから!・・・姉上のところに行くぅ!」
再び涙が溢れ落ちていく様子に
歯をくいしばって此方を見つめるまだ小さな主君に
シアリスはどうも居たたまれない気持ちでいっぱいになった。