殺したのは5
「・・・・・チ・・・チイ・・・・チイちゃ・・・」
恐る恐る魔獣に近付いて行く少女の声に重なるように
「・・・・倒さなきゃいけなかったことは分かっているな。」
シアリスの声がした。
「し・・しょ・・?」
他の騎士達も四人のうち3人は複雑な顔をしている。
「俺は、本当にお前の気分転換のつもりで誘ったんだがな・・・」
シアリスが少しだけ苦しい顔でぐしゃりと自分の柔らかい青味を帯びた
黒髪を掻き回す。
「たとえかわいい犬だったとしても殺して悲しむ奴が居ても・・・
今は魔獣だ、殺さなきゃ俺達が死ぬ。・・・・生と死は隣り合わせだ。」
「チイちゃん!!・・・・嘘・・・チイちゃん死なないで・・
いや・・・大丈夫まだ生きてる温かい・・・死なないんだから・・」
冷たくなってゆく魔獣を少女は抱き締めて泣いている。
それが何だか自分とふと重なった。
振り返ると案内役の男が口元を笑みの形にしたまま
冷たい瞳で自分の大切な人達を奪った
魔獣を見つめていた・・・・一筋二筋と魔獣が息絶えた
地に涙を落としながら・・・。
「・・・・ルナ・・言ってやるんだ・・。」
ルナと辛うじてすぐ近くに居るリュクシスにだけ聞こえる小さな声に
自分でも分から無いのに何故が頭の中が真っ白になったまま
シアリスの方にゆっくりと顔を向ける。
目の端の方ではもともと少女が可愛がっていた姿なのだろう
どす黒くなっていた硬い毛並みがふわふわのぬいぐるみのような
茶色の毛に体中の突起は無くなりとがっていた耳は少し右の先端が
垂れ下がりこげ茶色の色合いに・・・大きかった体が縮んで短い手足
丸い口、モコモコの尻尾を持った
子犬のような愛らしい姿に戻った魔獣の姿がある。
シアリスは、たった今斬った魔獣の返り血を浴びたままの姿で
こちらを怖いほど真剣な瞳で見つめ返していた。
「・・・・分からない・・・・言えない・・」
少女は元の姿に戻ったのだろう愛しい自分の魔獣を抱き締めて泣いていた。
呆然と声を立てることも無く涙をこぼして泣いていた。
時々しゃくりあげ肩を振るわせ血に汚れることも気にさえしないで
大切な者のために泣いていた。
そんな少女にルナは何を言って上げることが出来たのだろう。
「言えない・・・・分かるから・・・言えない・・」
ルナは首を振った。
「皇子・・・・リュクシス皇子・・・可愛そう・・・
悲しい・・・可愛そうこの子・・女の子も・・魔獣も、村を襲って
人を襲って悪いけど・・殺されて可愛そう。」
リュクシスの服の袖を握り締め小さな声で呟く。
「・・・・死んじゃったら・・・何も出来ないよ・・
それで終わり・・・大好きって言ってもらえないし、
大好きって言えなくなる・・」




