殺したのは4
「さあ・・・チイちゃん・・・一緒に帰ろうよ
私と一緒に帰ろうよう・・・ヒック・・ヒックッ」
ついにはしゃくりあげながら
少女は、掴んでいた腕を放し無防備に魔獣に1歩、2歩と近付いて行く、
グア!!!!
瞬間、嬉々として振り上げた魔獣の太い腕が
勢いよく少女に振り下ろされたのに、ルナは息を飲んだ。
「・・!!・・」
「馬鹿野郎!」
ガッキイイン
「「「「「師匠!!」」」」」
はからずも騎士達とルナの声が合った。
ギリギリッ
魔獣の爪と腰の剣を抜いたシアリスの刃が擦れ合い音が出た。
「・・・・ち・・ちいちゃん!?」
後ろから追いかけていたリュクシスがどうやら少女をかばったようで
その胸の下から抱きしめられたままそんな声を出した。
我に返った騎士達が魔獣の動きをそれぞれの力で抑制し直すのを見ながら
慌ててリュクシスと少女に駆け寄る。
「・・お・・皇・・リュクシス!・・大丈夫?・・・・
それから貴女も怪我とかなかった!?」
返事の代わりにルナに微笑を返したが、不意にリュクシスは身を翻した。
「触らないでよ!・・・お兄ちゃん達もチイちゃんを
殺しに来た人達の癖に!」
少女は、そう言って一般的に木を削る等の用途でよく使われる
小刀(タオルで巻いて持ってきたらしい)をポケットから取り出した。
「・・・本気なんだから!」
小さな少女はそう言うと緊張に耐え切れぬように一つ息をした。
「・・・・これでチイちゃんを守るんだから!
・・・は・・放して!チイちゃんを!・・」
しかし、小刀は誰が見ても震えていた。
自分の大切なものを守りたい
でも、それによって、
他の人を傷つけなければならないかも知れない恐怖に
少女の手は震えていた。
(大切な命なの?・・・私達にとっては違うけど
この子にとっては大切な・・大好きな命なの?)
グガアアアア
ガキン!ガキンッ!
「・・・・馬鹿言うな!」
ギリギリッッッ
戸惑いのまま魔獣の爪を受けているシアリスの方に視線を送るが
こちらに構っていられないとばかりに
叫ぶと、その刃に風霊をまとわりつかせ
御得意の魔法剣で一気に敵を滅ぼそうとしていた。
シアリスは、国で1、2を争う剣の名手
そして魔法剣士だ。
(ああ!・・・魔獣が死ぬ!)
グガアアア
爪を弾き飛ばしたシアリスの剣が次の瞬間魔獣の命を奪おうと煌くのを
目にしながら少女の言葉が無視されたのに慌てているのか、
シアリスの剣技が見られるのに期待しているのかよく分からない気持ちで、
でも、必死に自分の大切なものを守ろうとしている少女の気持ちに
同調して切ない気がして、叫んだ。
「待って!シアリス!」
ガアアアアアアアア!!!!
魔獣の血が激しくその場に散った。
左肩からお腹にかけて大きく引き裂かれ
口から紫掛かった魔物でしかありえない色の血を大量に吐きながら
魔獣は自らの血に染まった大地に倒れた。
「・・・・・・!・・・」
少女のヒュッと息を飲む音を耳にしながら
ルナは目を見開いたまま思考が停止した。
ヒクヒクと動く紫色に染まった肉の塊・・・辛うじてまだ
息がある状態の魔獣がルナの視界を独占した。