婚約2
「毎日、私を差し置いてあのチビ姫とばかり居る様だな
・・・リュクシス?」
サフラに弟と共に滞在しているエーティルの第2皇子ルゥイシスは
不機嫌そうな表情でお気に入りの弟リュクシスの顎に手を掛けた。
「しかも、あんなチンクシャな小娘と婚約だと?
お前は俺の物な筈だ!」
「・・・・兄上・・・」
リュクシスの声も聞こえぬ様子で問い詰める。
「お前のその短い人生は私の物だ!・・・下賎な女から生まれたお前を
取りたててやったのを忘れたのか!?・・・今日もまた2人で書庫などに。」
「・・兄上・・・・私は、ずっと貴方をお慕いしています。・・
私の命は兄上に捧げてあります。・・ですから・・・」
「黙れ!!」
6歳年下の弟の細い身体を豪奢な床に叩き付けるルゥイシスに
これだけは言わねばならないとばかりにリュクシスは言葉を続ける。
「・・・いえ・・いえ!・・兄上どうか・・サフラの女王との婚約破棄を
無理に問うてはなりません!・・・・今ことを構えてはなりません!
だから・・・だから・・あに・・ウッ・・・」
胸を押えるリュクシスを顔色を変えてルゥイシスが支える。
「愚か者・・・興奮するのではない・・・お前は身体が丈夫では
無いのだから・・・」
「・・・10年有るか分からない命・・・兄上に上げます。
その間のサフラとの絆・・・お使い下さい・・・。」
胸が痛いはずなのに強い輝きを瞳に宿しリュクシスは微笑んだ。
自室の部屋の窓から見える、今だ眠り続ける月だけが聞いていた。
リュクシスの呟きを・・・
ルゥイシスの部屋から戻ったリュクシスは
誰を寄せ付ける事も無く一人薄布だけの姿になり
沸かしてあった湯船に入る。
その背中に胸にと浮かぶ無数の痣をなぞりながら
静かに息を吐いた。
「兄上の為・・・国王陛下や皇太子殿下の・・・為ではない
エーティルにいつか兄上の時代が来るように・・・。」
身体に刻み込まれて消えない痣・・・その恨み
繰り返し感じる身体の激痛・・・
消えてゆく身体の力・・自由の無い縛られた日々
・・・死にたい・・・早く死にたい。
「・・・その思いは変わっていないけれど・・・」
病的に細い、でも普段は服に隠されている腕を見つめ
ふと抱き締めたルナの小さな温かい身体を思い出し
弱った心臓が脈打つ。
「・・・変わっていない・・けれど・・どうして私は、
姫のことを考えてしまうのだろう・・
ボロボロの心臓が脈打つのだろう・・」
ダークブラウンの月砂の髪と、薄い翡翠の瞳
まだ幼い面差しに
想いを馳せるようにそっと瞳を閉じた。
魔王の目覚めが
近付いて来ていた・・・・・。




