求婚5
「・・・いやだ・・・駄目だ・・・許さない・・・
ルナは・・・月の姫・・・ルナは・・・月は・・・
僕の・・僕の花嫁・・・・・・私の物だ」
カルの身体が深紅に輝き出す。
「・・・・僕以外を・・・私以外を見るなんて許さない・・・
私から奪うものを・・・許・・さ・・ない・・・」
カルの瞳に宿る意識の光りが次第に遠いて
黄金のに染まり掛けるのと同時に
カルの身体が王宮の緑の絨毯にゆっくりと
前に倒れていった。
「・・・・・・」
「・・・・どうしました?」
突然のリュクシスの声に驚いて振り向く。
じっと此方を見つめている深いマリンブルーの瞳に
慌てて首を振る。
「何でも無い・・・ついぼんやりしちゃっただけ・・。」
「・・・・・そうですか・・・。」
そう言ってリュクシスの肩に頭を置くルナの髪を何も言わずにそっと梳いて
何となく気付いてもいつも気を使って合わせてくれる
リュクシスの性格にも随分慣れて来た。
彼は、本当にパートナーとして最適だった。
カルのことを思って遠くに行っていたルナの心が
徐々に安らぎ今を見つめられる様になっていく。
・・・カルが突然王宮の廊下に倒れてすでに1ヶ月が立っていた。
「・・・ロードの王弟殿下は、カケラだけですが『ムーンティア』を
本当に持っていた様ですから何処で手に入れたかなのですが・・・」
「カケラの実物は・・・?」
「何らかの願いを叶え消えたのか・・・もしくは
叶えないまま粉々に散ったのか・・・それらしい波動を持った
石を見たという報告はあるのですが・・・・見つからなかったと・・」
2人の前に積み上げられた『ムーンティア』に対する文献が
窓からの風にカサカサと鳴る。
「禁書でも・・・見たら良いのかな・・?」
旅立つ前に読んだこと以上の事は分からなかった。
「・・・・・『ムーンティア』・・・これしか無いのに・・・」
「・・・姫・・少し、息抜き・・・しますか?」
まだ幼い姫であるルナの心は、ここ最近の焦りと不安と戸惑いで
弱くなっているようで今までそんなことはなかったのに
また涙が溢れていた。
「カルが倒れたのどうしてかな・・・?
私が言ったから?・・・平気そうな顔してたのに・・・
私、間違ってたのかな・・・?
・・・でも、私はいずれ何処かの国の王子か貴族の花嫁にならなきゃ
行けなかったのよ・・そう決心してた・・姉上の役に立ちたいから・・」
リュクシスは一瞬切ない光を宿し瞳を閉じた。
「私は、巫子大国サフラの王の血を引く王女。
父上と母上の子・・・魔力を持たなくても、王も巫子も
適性が無いと言われても父上と母上の子。」
リュクシスが後悔におしつぶされそうなルナの髪を幾度と無く撫ぜる。
「王家に生まれながら魔力が持たない私を・・・気にせず抱きしめて
くれた・・・大好きよって・・・
なのに・・・何処にあるのよ・・・!」
最愛の両親を取り戻したくて、
カルのことをどうしたら良かったのか分からなくて
涙を零すルナの頭をリュクシスは、
労わる様に優しく抱いて何も言わずに撫ぜていた。