求婚3
言葉も無く静かなその中庭で風霊にサラリと弄ばれている
リュクシスの真っ直ぐで綺麗な髪を見詰めながら
どうしてなのか顔が赤らんで行く
そして何も言えなくなってしまう。
見ているうちにリュクシスがフッと掻き消えてしまいそうで
手を伸ばし掛けた。
・・・酷く胸が痛い・・・・
頭の中で勝手に、
突然目の前で倒れたリュクシスの、
『殺してください』と言って冷め切った瞳になったリュクシスの
映像が、リプレイして行く。
「・・・リュクシス皇子・・・どうして私に婚約しようなんて言って来たの?」
無意識の口が勝手に言葉を紡ぎ出す。
「・・・・貴方が・・・好きだからですよ・・・」
・・・ザアザアと、噴水の女神の水瓶が水を生み出している・・・
何処か、現実感を感じない頭で言葉を繰り返す。
(・・・・私を・・・好きだから?)
絶対嘘だ、でもますます赤くなる頬を止めることが出来なかった。
「・・・・ルナ姫、どうか私をお嫌いで無いのなら
・・・どうか婚約してもらえないでしょうか・・・?」
「・・・・は・・い・・・・」
嫌いじゃない、
それにどうしてなのかリュクシスを放っておく事が出来なかった・・・
「・・!?・・婚約・・して・・・下さるのですか?・・・・」
リュクシスの静かな声に重なる様に
「・・・はい・・・・。」
朝露残る早朝の庭にルナの声が小さく響いていた。
しっかりと見据えるルナの瞳には
リュクシスのどこか澄んだマリンブルーの中に自分が揺らめいて見える。
「・・・・・・本当に・・・?」
「・・・・だから、教えて・・・リュクシス皇子。」
数秒間の沈黙の後、ぽつんと問い返したリュクシスの
心が知りたくてルナは瞳を逸らさないままに言葉を発する。
「『ムーンティア』・・・・のことですね・・・」
「・・・・あのね・・・あの・・・私、願い事が・・・
絶対叶えたいことがあるの・・・・・」
(ほおって置けば良い・・・・まだ会ったばかりの他国の皇子。
・・・でも、なぜかほおって置けない)
自分の婚約のことを話しながらも静かな
リュクシスにこちらを見て欲しい気が湧き上がって言葉を続ける。
「『ムーンティア』で、在るのか分からないって言われてるそれで
私は・・・・・父上と母上を生き返らせる!」
リュクシスは、自分が心に持っている願いを懸命に話すルナの顔を
何を言うとも無くじいっと見つめていた。
穏やかなリュクシスの瞳にルナが、ルナの言葉をきちんと聞くように
しっかりと映っているのを確認しながら言葉を続ける。
「会ったばかりだから分かっているって言いがたいけど・・・
少なくとも私は、リュクシス皇子のこと好き。
話してて心地が良いし、端々に優しい気持ちを感じる。」