帰還3
「・・・・・ルナ・・・・ルナ・・・」
崩壊した闘技場をあても無く歩くカルを、
修理に来ていた技術者達が見つけて
エーティルの語で声を掛ける。
『どうした坊主?・・・・親と逸れたのか?』
「・・・・ルナ・・・・ルナ・・・・」
『・・・?!・・おい?・・・・・・・
ん?・・もしかして・・おまえ・・』
怪訝に思いカルの肩に手を置いた男達によって
歩みを止められたカルは、
邪魔だ・・・・
はっきりしない意識のまま少しだけそう思い
無意識に手を振り払った。
「・・・・!!・・・・」
その瞬間男達の声と姿が消え、
カルの掌にベットリと血糊が付いたのが、
瞳に映り・・・・
カルは、ゆっくりと首を横に振りながら
恐る恐る下を見てみる。
「う・・・うわあああああー!!」
血の海が出来ていた。
殺すつもりが無いのに殺してしまう、
思い出せるかぎりの遠い昔から、
そんなことが繰り返されていた気がする
自分には父、母が居るのか?
そんなことも分からずに気がついた時にはすでに
手が血に染まっていた。
時には殺した記憶が在り、
また時にはそんな記憶もないままに、
目の前に人の原型さえ残らない血の海だけが広がっていた。
この身体の成長が、周りより遅いという事に
次第に気付いてからは、
僕は魔族なのだろう・・・
どうせなら、この身に持っている力を全て
有効に使ったら良い、
そう思い
生きるのには余りにも長い時間、
幾度となく繰り返される情景に、
しだいに罪悪感も無くなっていき
自分の邪魔をする者が悪いのだという気さえしながら、
僕は退屈するほど生きて・・・穢れていった・・・。
「・・・・ルナ・・・ルナ・・・何処に行ったんだよ・・・」
・・・・ルナ・・・・穢れの無い君と出会って
僕自身、もう気にも止めなくなってしまっていた
穢れが消えて行く、共に魂が洗われて行く気がしたというのに・・・・
「・・・・ライ・・・・姫が仰っていたカルと言う少年は見つかりましたか?」
「・・いえ・・・・・闘技場の修理と共に、それらしい少年を見たら
報告するように言っているのですが・・・・。」
「出発までに見つかったら良いのですが・・・出発後も報告お願いします・・・。」
父皇の承諾を取り、自分とルナの縁談の為、まもなくサフラに出発する
リュクシスは、訪問の準備をしながら、
控えていた従者ライに、話し掛ける。
「・・・・姫は・・・・この縁談・・・承諾下さるでしょうか・・・?」
連絡が来ていないか確かめる為、下がろうとしたライは
小さく呟くリュクシス皇子の声に思わず振り向いた。
柔らかく微笑みながら少し頬が赤く染まっているリュクシス皇子に、
ライは仕える者の気持ちを越え、
何だか心が温かくなった。
今まで幼いながら全てを諦めていたように、
儚く微笑んでいた皇子が、
初めて年相応な表情を見せたことに、
(・・・どうか・・・・サフラのルナ姫が・・・
リュクシス皇子を、受け入れて下さいますように・・・・)
そう願わずに居られなかった。
二人がカル発見の報告を聞くのは、この後すぐ・・・・