帰還2
一つ息を吸い込むと、ルナは、努めて冷静に言葉を発した。
「・・・・・・私が幼かったので、巫子王として期待されていた
姉上が、国王になることになって・・・・従兄弟王子が、
巫子王になったって私も聞いてますが、
なにしろ・・・・姉上も、宰相達も私を幼いからと・・・
のけ者にしますので・・
でも、兄上が出来るのはそうですね・・・・とっても嬉しいです!」
笑顔は搾り出せなかったが、
とりあえず何も分からない戦法に出た。
後は、何を言われても分からない顔をしていればいい・・・
「・・・ルナ姫・・・・ですが・・・」
私を突破口にしようと、エーティル側が、
重ねていろいろ言って来るのに
「・・・・それは・・・う~ん・・・どうなのかな?
老宰相・・・・?」
何でもかんでも老宰相に振る。
見る見るうちに言葉を失って行く相手にこれで良いのかな?
とほっとする。
「・・・・姫様に・・・・魔力が無かったからなのでは無いのですか?
それで、得体の知れない魔力だけをお持ちの方との婚約を?」
苦りきった表情の後、
くすりと底意地悪そうに笑いながらボソリと
皇子のお供が小さく呟く声が耳に届いた。
・・・・!!・・・・・・
息が詰まる。
頭が真っ白になって・・・怒りも、哀しみも
何もかもが何を感じているのか分からなくなって
「・・・・!!・・・・」
「ふ・・・・・・ふざけないで!!・・・・・バカア!!」
しばらくの周りの沈黙の後、
大分遅れて姉上の声が謁見の間に響き渡った。
エーティル国側も、サフラ国側も、
いっせいに壇上の姉上に視線を送る。
「・・・・」
姉上は、後の言葉が続かずに沈黙して、
怒っているのに、今にも泣きそうな顔で、
ただひたすら、呟きをもらした男を睨んでいた。
「・・・・・な・・・なんと・・・・」
顔を真っ赤にしてわななくその男相手に
姉上は感情丸出しで怒っている。
・・・・姉上が・・・
危うく先に私の方こそ切れて怒鳴るところだった・・・、
許せなかった、到底私にとっても、
私を大事にしてくれる皆にとっても許せないことを言った。
女王の伴侶とされたルイドに対する侮辱もした。
「・・・ルナは・・ルナはねぇ・・!
・・貴方達に・・・そんな風に・・・・!!」
まだ再び私の為に言ってくれた姉上をちらりと見て
真っ赤になって怒る男の方を見て・・・・
ルナは、今度は一つ息を吐いて心を落ち着かせた。
「・・バ・・・・バカ・・・とは・・」
「姉上は・・・女王陛下は、私の為にお怒りになられた!
私と、ご婚約者の為、つまりは私達を王女として、
そして、未来の女王の伴侶として認め、尊重してくれる皆を
侮辱したことをお怒りになられた!
陛下の怒りは、私の怒り、国の皆の怒り、
・・・・貴方の仰られたことは、
サフラの国に対する暴言と取られかねないことです
・・・・・無礼者!!」
もっと上手く言えたかも知れない・・・でも
私にはこれがめいいっぱいだった。
不愉快な謁見の後、抱きしめてくれる姉上と
頭を撫ぜてくれる師匠の前で私は、
怒りと、悔しさで
涙が溢れ出てくるのが止められなかった。
「・・・・お~よしよし、頑張ったな・・ちい姫、
気分転換に久し振りに、町つれてってやろうか?」
頭を撫ぜながら機嫌をとるように提案をする師匠に
掌で涙を拭いながら無言で頷き返した私の手を
師匠が引っ張り、二人町に出かけることにした。