事件、王宮へ4
・・・すぐに後からサフラに参らせて頂きます。
私と姫との縁談を持って・・・・・
それまでどうかお待ち下さいませ月砂の姫君・・・
そう言ってリュクシスは、礼儀に乗っ取って
手の甲に口付けを落とした。
(・・・姉上ったら驚きのあまり何も言えなくなってパクパクしてたっけ・・・)
小さく微笑みを浮かべながら
旅の服から姫君の服に着替えたルナは、
姉女王と皇子が待つ謁見の間に急いだ。
「・・・・・!?・・・・・」
彼は、頬をくすぐる冷たい風を感じて目が覚めた。
「ここ・・・・何処だ?・・・・ルナは?」
寝転んでいた冷たい石の床から上半身を起こす。
見渡す限りの闇・・・・・何処からか腐臭のような匂いさえしてくる場所
目の前に積み重なる瓦礫の隙間から風が吹き込んでいた。
周りを見まわすが自分以外誰も居ない
「・・・・ルナ・・・・?・・・・・ルナ・・何処?」
幸い子ども一人の背丈程の
隙間があいていた為、ゆっくりと立ち上がると、
彼は、大切な少女の顔を思い浮かべながら
彼女と出口を探してさまよい歩き出した。
記憶が無い、額を押さえ何があったのか思い出そうとしても
何一つ思い出せない・・・
薄暗い場所から、出口へ出口へと・・・・
そしてやっと見つけた、外へ続く道、
そこから差し込む僅かな光に照らされた彼の顔は、まだ幼く、
額へと零れ落ちる深紅の髪は、
しっとりとして艶やかな色あいを持っていた。
「ルナ・・・早く来て僕を抱きしめてよ・・・だんだん・・・
覚えていることが、少なくなって行く気がするんだ・・・・。」
「・・・・師匠・・・・あのね、カルが居ないんだ・・・
何処に、行っちゃったのかな・・・」
姉女王と、エーティル皇子が待つ『謁見の間』へ向かう途中、
ルナは、すぐ後ろに付き従ってくれていた、
シアリス=イーズにそう呟いた。
気温が下がっているわけでは無いのに
ルナは、何だか寒いような気がして、
自分で自分を抱きしめて少し震える。
(父と母が、ほとんど原型さえ残らないような
あんな無残な死を迎えたという真実・・・。
『殺して下さい』と言ったリュクシスの澄んだ瞳・・・。
魔族への憎しみと、姉上と、国を守ること・・・・。)
無意識のうちに浮かんでくるそれらのことに
緑の式服の裾を持つ手に知らず力が篭もる。
(・・・・カル・・・・急に居なくなって・・
いったい、何処に居ちゃったんだろう・・・・・)
『ルナ・・・僕の花嫁さん!・・・・』
『ルナは美人だなぁ・・・』
『・・・・剣術が使えるなんて凄いな!』
魔力があって美人で、皆が尊敬する姉上より
私のほうが好きだって言ってくれたカル・・・
凄いねって・・・私に自信をくれた・・・・。
『僕はね・・・・サラよりも誰よりも・・・ルナが大好きなのさ!』
・・・・いろいろなことが頭の中で、グルグル回っている
(『ルナは凄いね、誰よりも大好きだよ』っていつもの様にそう言ってよ・・)
その時、何故そんなことを願うのか
ルナにはまだ分かっては居なかった。