皇子リュクシス5
一瞬白い光が見えた気がした
その直後の轟音、激しく地面が揺れているのを感じた。
「ルナ!!ルナは大丈夫かしら・・・・
ルイド・・・・カイル、何だか恐ろしい気配を感じるわ
地震が起きる少し前位から精霊が、騒ぎ出して・・・・
風の精霊も樹木の妖精も沈黙した。
そして闘技好きの火の精霊まで怯え出した・・・
何なの、これは?!」
ルイドの服を握り締めたまま
それでも何とか女王の威厳を保とうとするが、
サラは、耐え切れなくなってしゃがみこむ
吐き気も、もよおしたのか口元を押えている。
「来ます!!」
気配に気付いたカイルの短い声にルイドが仕方なさそうに
片手を挙げると、自分とサラの周りだけに結界を張る。
「え!!カイル」
そのことに一瞬サラが驚いて声を上げるが、
カイルの剣の一閃で此方に向かっていた
小魔が直線状に吹き飛び、
返す手で周りで飛びかかろうとしていたモノも、
一瞬で、振り払われていた。
「・・・ルイド様、結界の方は、どれほど持ちますか?」
「・・・・さあ・・・・・?俺より強い奴が、
もしかして此処に居たとしたら、壊されるかもしれないんじゃないか?」
「・・・もしかして・・・・居たとしたら・・・
かもしれない・・・?・・・・大丈夫・・・そう、ですね。
姫様を探してきます。
しばらくの間離れますがお許しください女王、ルイド様。」
カイルは、しばらくルイドの感情の見えない表情
で紡ぎ出す自信が有り気な言葉を聞いて
呆然としてしまったが、地震も小魔も収まってきたので
手近な部屋に魔力の面では二重に最強の二人を待たせて
魔力をまったく持たないルナを探しに行く事にした。
「収まったとはいえ油断できない
・・・・もしもの場合は、・・・女王を優先し姫様を見捨てることに
なってしまう。・・・いやですよ・・・・姫様・・・・・。」
職務に忠実忠誠心の厚いカイルは、
それ以上にサラとルナ姉妹自体が大切であった。
「ルナ・・・・どうか無事で居て・・・。」
サラは最愛の妹の為に
精一杯の祈りを月の女神へと捧げた。
「「大丈夫ですか?」」
少し揺れが少し落ち着いて来るのを待って
同時にお互いに尋ねたので声が重なった。
「あれ?!」
「まだ離れない方が良さそうですよ・・・・」
ルナは、リュクシスの体が弱そうだったのを
咄嗟に思い出して庇ったつもりだったのだが、
気が付くとリュクシスの胸に抱きしめられていた。
リュクシスの更に上には戸口の所で控えていたのであろう
お付きの騎士が素晴らしい反射神経を発揮してリュクシスを
庇っていた。
「すみません、ライ。・・・怪我はないですか?」
「いえ・・・」
リュクシスと騎士が喋っているのを、リュクシスの
腕の中で聞きながらルナは、サラ達のことを気にしていた。
(こんなつもりじゃなかったのに・・・本当に・・・
カイルとルイド、ちゃんと姉上守ってくれているかな・・・
でもカイルは、必死に守りすぎて怪我とかしてないかな?カルは?
・・・予定より時間かかちゃった・・・姉上心配しているよね。)
そう考えると少ししか離れていないのに
むしょうにサラが恋しくなってきた。
(だめだめ!!私が姉上を守るんだから・・・・
そんな甘え心じゃだめだ!!)
ルナは慌てて首を振り、とりあえずこの後どう動こうかと考えた。
「ルナ!!」
ルナの居る部屋に飛び込もうとしていたカルは
突然何かに導かれるように地震の騒動の中を
ふらふらと地面の揺れをものともせずに歩き出した。
「誰か・・・・呼んでる・・・」
カルの足はそのまま闘技場の地下へと進んでいった。
「おお・・・・我が君・・・・我が深紅の父上よ・・・・
よく参られた我が元へ・・・・」
「なんだ?我が百二十番目の娘、漆黒の魔女ガルーナよ。
召喚されただけにしては派手な登場だな・・・」
王弟が呼び出した魔女ガルーナの前に降り立ったのは、
ルナにしつこく求愛する陽気な少年カルではなかった。
その者は、血のように紅く鮮やかな深紅の髪を持つ男、
吸い込まれそうな無限の深淵の黄金の瞳を持った
絶対の存在・・・・深紅の魔王と恐れられる者であった。