皇子リュクシス3
「え・・・?」
何が何だか分からない、リュクシスの顔が、そう言っていた。
「・・だ・・だから・・私・・オ・・オレは、姫様じゃないよ!!・・・って・・・
・・・じゃなくて、何言っているんだろね・・・」
姫様とは誰のことか分かっていない状態なのに
自分から怪しい態度を取ってしまったと、慌てて喋り続けるルナ
その前では、リュクシスが、長い立ち話の為に
体が、疲れてきていたのか顔色が、青ざめてきていた。
「ラージュ・ルーサ殿ちょっと・・・」
失礼します、と言って座ろうとしたのか、その場から一旦
離れようとしたのか、リュクシスは、体を動かそうとしたが、
「!!」
「うんぎゃー!!・・・ルゥナアアアアン!!」
「リュクシス様!!」
リュクシスが、ルナの方に倒れ込んで来た。
「・・ル・・・ナ・・・?」
リュクシスの体重に後ろに倒れそうになりながら
ルナは、そう呟くリュクシスの声を聞いた。
(・・こ・・・このままでは・・私、誰かのお妃になる前に
この皇子に押し倒されてしまう・・・!!)
しかし、正体が、知られたのか?という心配よりも
こちらの方がルナは、気になっていた。
「・・ここは?・・・」
「気が付かれましたか?」
黒い長椅子に寝かされていたリュクシスが、目を覚ます。
倒れてしまったリュクシスをとりあえず近くのルナの控え室に
運んだのだが寝かせる場所が、黒い長椅子しかなかった。
控え室は、選手一人一人にあてがわれるが、
ベージュの壁に黒い長椅子、
木のテーブルにお茶が、入っているだけ
といった質素なものだ。
リュクシスには似合わないと思い思わず謝る。
「こんな質素な所ですいません。
今、供の騎士の方が部屋を用意に行かれましたから。」
もう一人は、しっかり戸口とルナを見張っているが、
「・・・いいえ・・・こちらこそ、この部屋が、気に入らないのであれば、
すいません・・ルナ・・フィリス・サフラ巫子王国・・王女?」
「!!・・やはり・・・気付いておられたのですね。」
リュクシスの瞳には、知的な光が宿っていた
先ほどのルナの失敗、カルの言葉、
確信した以上どうやってもこの皇子を誤魔化すことは出来ないと思う。
静かにずっと付けていた覆面を外す。
シュスシュス音をたてながらその硬く滑らかな布は取り払われた。
ダークブラウンのルナの髪が、月の砂のようにその肩にサラリと落ちた。
「月の女神の加護深きサフラの王女、月砂の髪と翡翠の瞳を持つ姫君、
ルナ・フィリス姫
私の妻になって下さいませんか?」
まだ少し気だるげに半身を起こすとリュクシスは、
ルナの手を取り口付けを落とした。
が、驚くより先にルナは、顔に警戒の色を浮かべた。
「私と取引しませんか?」
そう囁く声が、聞こえたからだ。
「私を・・・殺してください・・・。」
「ど・・・どおして?」
「サフラ女王は、兄上との婚約を解消してきた。
兄上も我が国でもサフラに不信感を募らせている。
突然断ってきて、しかも選んだ相手は、地位も身分もなければ、
何処で生まれた何者かも分からない者だということで・・・」
二人っきりの控え室にリュクシスの声が、静かに響く。
「どおして?」
再び尋ねるが、
「それと、ムーンティアですか?我が国の何かの情報ですか?・・・」
ラージュ・ルーサと言っていた時は、微笑みながらルナの剣の技を
褒めてくれていたのに今は何かに疲れたように
冷たい表情になってルナに話し掛ける。
「エーティルとの結びつきと情報、交換条件として
他に何が、お望みですか?」
(・・・ルナ・・・私達の可愛い娘・・・大好きよ・・・
父上・・母上・・ずっと一緒に居てね・・ずっとずっとよ!!)
「死んだらだめよ・・・殺してなんてどうして言うの?」
リュクシスの顔に表情が消える。
「お願いですから理由は、聞かないで下さいませんか?」
「聞く!!・・絶対聞くよ!!・・どうして死ぬの?
・・どうしてそんなに簡単に命を捨てられるの?」
一瞬怒りなのか、羞恥なのか、顔を朱に染めながら
「簡単って!!・・・」
声を荒げたリュクシスの前には、自分自身も気付かない間に
頬を濡らしているルナの姿が、あった。
後から後から溢れては、床に染み込まれてゆく
熱い雫。
「哀しいよ・・・。」
無残に引き裂かれた父と母の体、生きていたかっただろうに、
側にいて欲しかったのにもう二度とあの優しい微笑みをくれなくなった。